本条帝の回想
本条帝の回想
帝は、物思いにふけっていた。
帝が慶王大学法学部にいた頃、講義を受け終えた。
彼は、毎週行われる本条家の集まりに参加するべく校門へと向かっていた。都内でも広いキャンパスを誇るこの大学は端から端まで歩くと約三十分も掛かる。彼のいた一号館はちょうど校門とは端と端に位置しているため彼は急ぎ足で歩いていた。
周りには、授業を終えた学生がベンチに座り話し込んで、昼はどこで食べるか等これからの予定を話している。
「まずい、今日はおじい様がとても大切な話があると言われていた。急がねば」
帝は、時計を見ながら必死に校門の方へと走った。
帝が、息を切らしながら校門にたどり着くとそこには長く大きな高級車が着けられていた。車の前には、運転手と思われる男性が待っていた。帝は、運転手の方へ走り出した。
「お待たせしました。酒井さん」
運転手の名前は、酒井と言う。彼は、車の中へ帝を案内するとすぐに運転席へ移動し車を走らせた。
「今日は、珍しいですね。帝様が時間に遅れそうになるとは」
帝は、車の後部席にて汗を拭いながら返答した。
「まさか、講義が十分も送れるとは思わなかった。それよりも、今日の集会についてなにか聞いていないかい」
「私は、ただの運転手ですので詳しいことは存じませんが……。どうやら、美術品の収集における道具が関係しているようですよ」
帝は、汗を拭った後にため息を吐いた。
「そうか、ついに私にも本条家の七つ道具が渡されるのだなぁ」
「えぇ、帝様も二十歳に成られますからきっとそうなのでしょうねぇ」
車は、本条家へと到着した。
本条家は、門を越えて中へ入ると大きな松の木と、池がある。しかし、一番目を引くのは家よりも大きいのではないかと思われる蔵であった。蔵は、所々錆が出ている。しかし、長年この家に伝わっていることを物語っている。
家に着いた。玄関を入るとすぐに広い畳の間が続いていた。その奥に貫録を漂わせた人物がいた。帝の祖父、弦である。弦は、着物を纏ってはいるが尻尾は三つに別れており、目つきは鋭く姿はまるで九尾をイメージさせた。コホンッと咳をすると弦は威厳に満ちた声でしゃべり始めた。声は畳を伝うと玄関にいた帝に響いた。
「帝」
名前を呼ばれた帝は緊張で唾を飲み込むと答えた。
「はい、今行きます」
帝は、玄関を上がるとすぐに祖父の下へと駆けつけた。
「そこに、座りなさい」
帝は、言われるまま弦の正面に正座をした。
「用件は、わかっているな」
「はいっ」
帝の顔に緊張の汗が流れた。
弦は、着物の裾を捲くると脚を出しゆっくりと立ち上がった。弦は少し襖の方へ歩くと後ろを振り返り帝の方へ振り返った。
「では、ついて来なさい」
帝は、すぐに立ち上がると弦の後ろに付き歩いていった。大きな池の横を通り中庭を抜けるとそこには蔵があった。
弦は、徐に着物の懐から、小さな土偶を出した。
帝は、それを目にしたときに始めはどこかの郷土品をお土産に買ってきたのではないだろうかと思った。しかし、ふと本条家の家業を思い出し骨董品ではないかと考えを改めた。
「帝よ、これが何かお前にはわかるか」
威厳に満ちた祖父が土偶を手にした途端に悪戯をする前の子供のような笑みを浮かべた。
「さぁ、どこかの博物館から取ってきた代物ですか」
「これは、鍵だよ」
帝は、眉を寄せると眉間に皺を作る顔をした。
「鍵‥‥ですか。それが?」
弦は、蔵の扉に近づくと扉の中央部分に小さな穴が開いている部分にその土偶を押し込んだ。するとそれはピタリと穴に入ると扉が開き出した。
扉の向こう側には、代々の本条家の祖先の肖像画と多くのコレクションが並んでいた。
中には、江戸自体の有名な浮世絵画家の作品や、ギリシア風の彫刻まで世界各国の歴史的価値があるとされる代物も入っていた。
「これが、代々本条家に受け継がれるお宝ですね」
帝は、感嘆の声とともに中に入ろうとした。しかし、腕を弦に掴まれ中に入れない。
「おじい様」
「帝、まだ中には入れないよ。それは来月君が二十歳を迎えたらこの中に入り我が家に伝わる。七つの道具を渡そう」
弦は、帝を蔵の外に出すと扉を閉めて、土偶を懐にしまった。
「わかりました」
帝は、二十歳に成るのを心待ちにしていた。しかし、二十歳の日に前日に祖父が他界してしまったのだ。
帝は、急遽祖父の埋葬に立ち会うことに成った。帝は悲しさのあまりに土偶のことを一瞬忘れていた、その一瞬が大きかったのだ。
埋葬されるときに、祖父の生前に大事にしていた品を一緒に埋めることになった。そこには、あの土偶の姿があった。屋敷に使える召使いの一人が、祖父がいつも見につけていたからという理由で一緒に埋めてしまったのだ。帝が土偶の行方に気が付いたのはその一日後であった。
その後、屋敷内を大捜索した結果やっとの思いであの土偶の図面を見つけたのである。しかし、今時鍵ならともかく土偶など作れる職人はそうそういなかった。その後、帝は一旦、面目に銀行員になったが、家業も絶やすことなく行ってきたのであった。
「じゃあ、中に何があるのかはわからないの」
シロは、土偶に模様を着けながらも答えた。
「あぁ、だから是非とも鍵を作って貰いたいのだよ」




