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第三話 陳留という出発点

他の作者様のssを読み込んでたらこの時間でした。

第三話



門番に労いの言葉を掛けて進む。


門番の横を通り過ぎた先には、記憶にあるよりまた少しだけ賑やかになった、陳留の情景が広がっていた。




「うへー、またちっとばっかし活気出てんなぁ。......これ以上になると流石にちと不味いか?」



活気がある、賑やかな街。


聞こえは良いが、それは大きな危険を孕んでいる。



活気があるということは、それだけ多くの人が出入りするという事。


多くの人が出入りするという事自体は喜ぶべきなのだろうが、出入りする者が皆良い人間という訳ではない。


普段警邏に出ている武官からは、街での諍いが増え出しているとも聞いている。





華琳が刺史となってから、陳留とその周辺の治安は格段に良くなったと見て良い。

元々が酷かったせいもあってか、民達の華琳への評価は鰻昇りだった。


その風評は漢全土とはいかないでも、河北一帯には知れ渡っており、現在でも他州、苑からの移住者は後を絶たない。

それこそ、良い人間も、悪い人間も、だ。



ーー良くも悪くも注目されすぎたな。




本当に面倒で、酷く億劫だと四季は思う。



陳留の噂を聞き、豊富な食料を奪い、男を殺し、女を犯す為に賊も来るだろう。

現に今春蘭が討伐に出向いているのもその手合いだ。


陳留と隣り合わせの刺史達も、図らずして民を奪っているこちらに対して、少なくとも良い感情は持っていない。


陳留へ向かう賊共は半ば放置している節さえ見られる。




ともあれ、早急に常駐警備を発足させる必要がある、と改めて心に決める。


手っ取り早いのが兵や将を募る事なのだろうがーーーー注目されすぎている現状、兵を抱え過ぎて帝への翻意あり、と疑われても面倒だ。



今はまだ、その時ではない。



暫くは警邏を重要視させその頻度を増やして間を持たせ、その間に頭にあるものを全て纏めよう。

警備にあてがう人材の確保、その分の追加給金、警備に当たる際の規則。考える事は山のようにある。



今より多少なりとも睡眠時間を削らなければならないだろうが、その程度の苦労なら四季は喜んでするつもりだった。




四人で一から作り上げたこの街をまたあんな物に戻してはならない。


街の所々に溢れる笑顔をまた絶望の表情に変える事などあってはならない。


そして、何よりも。



誰よりも優しく、誰よりも弱いあの可愛い覇王様から、これ以上笑顔を奪ってはならない。




結局の所。


四季の行動の全てはそこに帰結していた。



彼女達の幸福。それこそが四季が胸に抱えるただ一つの不変の行動原理。



華琳らもそれを理解し、同じように思っているからこそ、刺史の仕事を安心して任せれる。鍛錬に付き合ってくれ等と言って強引に体を動かさせる。菓子を差し入れ、それとなく仕事を中断させ、休憩させる。



誰もが誰もを思い、思われているからこそ、この四人は四人で居られた。



それを今、崩す訳にはいかないのだ。







四季はハッと慌てて思考に沈んでいた意識を浮上させる。



どうやら少し進んだところで考え込んでしまっていたらしい。

この変に考え込む癖はさっさと治そう、と自戒する。



門番の兵は不審というか心配そうな目をちらちらと向けていたが、

後ろに居た樹は慣れているのか、さして気にした様子もなく佇んでいる。



樹に一言謝罪を投げかけ、ひらひらと門番に手を振って改めて歩を進める。




街は思考に沈む前と変わらず、活気に溢れていた。


少々混雑しているように見受けられ、その辺りも今後の陳留の課題だろうか。


自然と頭が街の構図を描き出したが、いかんいかんと首を振って歩みを再開する。




道行く人を避けながら、

さて何を買って持って行こうか、やっぱり甘い物か、と樹と会話になっていない会話をしていたところで。




「おや、姜維様じゃないか! 随分久しぶりだけど、元気にしてたかい?」



「んぁ?...あぁ、おばちゃんか、こんちわ。ここ最近はちょっと人が足りてなくてさー、城に篭りきりだったんだよ」




唐突に自分の姓名を呼ばれ、驚いた四季が顔を向けると、

過去に何度か贔屓にさせて貰っている恰幅の良い中年の女性の姿があった。



この女性、四季らが陳留に来た当時からここで店を出しており、当初は官軍の者という事でかなり警戒されていた。


しかし、街の再建に望む姿を見ていく内にその警戒は解け、今では四季や春蘭とは会う度に世間話をする程度には仲が良い。




「やっぱり色々大変なんだねぇ......おや、今日は鄧艾様がお供かい、鄧艾様もこんにちは。」



「...............」



「そういえば、おばちゃんとこって甘いもん売ってない? 城の文官共に持ってってやりたいんだけど」



「そうさねぇ......甘い物なら桃まんがお勧めさ。 つい最近売り出した商品だけど、これ一つ食べりゃ疲れなんてどこかに吹っ飛んじまうよ! 」




鄧艾は変わらず何も喋らなかったが、頭を小さく下げる事で挨拶の代わりとした。


それにしても桃まんか、と小さく考え込む。


あまり聞いた事がない名前だが、この女性の店の食べ物はどれも美味しい。


きっとハズレではないだろう、と予想し、少しの間の後、口を開く。




「んー......じゃ、30個ぐらい包む事って出来るかな。量が量だし、無理なら全然大丈夫だけど」



「30個かい......少し足りないかもしれないけど......良し! 姜維様は普段から私らの為に頑張ってくれてるし、作れるだけ作ってあげるよ。 すぐに城に戻る訳じゃないんだろ? 」



「あー...無理言ってごめんなおばちゃん。 久々にちょっと街も全体的に見てみたいし...半刻経ったぐらいにまた来るよ。それまでに出来てる分の桃まん全部買う。 」



時刻も昼を過ぎた辺り、個人で買う量としては少し無茶かなとも思ったが、

女性は笑顔で頷いてくれた。



ひとまずは礼を言ってからその場を後にする。


樹に行きたいところはないかと聞くと、少し考える素振りを見せた後微かに首を横に振った。




ならば適当に回るか、と先程と同じく辺りの店や行き交う人を眺めて歩く。



新しく出来た店や、広場で遊ぶ子供らを見て、四季は思う。





俺は、俺達は。ここまで来たぞ、と。



華琳の、曹孟徳が進む覇道の終点ーーーー大陸の平和。



その俺達が思い描く終点の光景の縮図。それが、この街だ。



まだまだずさんなところや、不備は目立つ。



けれど、彼女の覇道はここから始まる。



この陳留から、俺達の夢を広げるのだ。









ゆっくり、ゆっくりと忍び寄って来る乱世の足音に耳を澄ませて。



四季と樹は、雑踏の中へと進んで行った。










ようやく自然(?)に主人公の名前を出せたので、次辺りは思いつきでオリキャラ紹介とか書くかもしれません。

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