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第一話 少女とその青年

処女作になります。

遅筆、誤字、微妙な言葉の使い方など多数見られます。

第一話




「...暇です」




漢の国の陳留、そしてその陳留を治める刺史である曹孟徳の執務室。


そこに備え付けられたソファに身を投げ出し、下手をすれば部屋主よりも偉そうにふんぞり返った男は、天井を見上げてそう呟いた。



歳は二十歳程度だろうか。


程良く小奇麗に整えられた青色の短髪と切れ長の黒い瞳は、持ち主の育ちの良さと知性を、黒色の功夫着の上からでも感じ取れる鍛え上げられた肉体は、武においてかなりの実力者である事を感じさせる。




「暇だ暇です暇すぎますぅぅぅぅ!!なに?俺もうこれいらないよね!?出奔して良いですかよし行こう今すぐ行こう!!」




そう捲し立て、手足を子供のようにジタバタさせる男に、

先程まで竹簡と睨み合っていた部屋主の少女はハァ、と溜息を漏らして



「そんなに暇なら春蘭の賊討伐に着いて行けば良かったじゃないの。それと貴方を手放す程余裕は無いわ。

...というか暇なら政務を手伝いなさいよ」



「春蘭の手綱握るのと暇暇叫ぶのを天秤にかけるとなぁ...絶対俺の指示まともに聞かずに突撃して帰ってくるぜ?


しかも褒めてくれるかな??みたいなワクワクした顔して。あの顔見ると怒りづらいんだよ...」




男はそう愚痴を吐きながら気だるげな動きで竹簡と予備の筆と墨、それに印を器用に両手で抱え、慣れた動きで先程の位置に戻って竹簡を眺め始める。




「貴方が春蘭に甘いのは今に始まった事じゃないけど...あの娘は私と四季(しき)の言う事しかまともに聞かないのだから、叱る時は叱らないと駄目よ?」



「秋蘭は...微笑みながら見てるな、間違いなく。


いやさ、あのそこら辺のガキみたいな純粋な目で見られると...その...な......?」



「まぁ気持ちは分からなくもないけどね...。春蘭も、もう少し落ち着きを持ってくれれば良いのだけど...」




曹操ーー真名を華琳という少女と、四季と呼ばれた男は顔を見合わせ、ハァ、と息を吐く。


まぁ二人ともそこが春蘭ーー夏侯惇の良さだという事も充分に理解しているので、あくまで冗談の範疇ではあるが。



その間にも二人の手は止まる事なく、驚異的な速さで次々と確認済みの竹簡が積まれていく。



他愛もない雑談を交わしながら、少女の机に積まれた竹簡の山が先程と比べると随分と小山になったところで。


そういえば、と華琳は顔を上げる。




「貴方が以前考えていた街の常駐警備兵の動員、どう?やっぱり難しいかしら?」



その声に四季は手を止めてんー、と首をひねり、



「出来ないとは言わんけど現状じゃ厳しいな。兵はまぁ常備軍から引っ張れば良いが、もちっと仕事できる奴がもう何人か欲しい。

やれない事はないが過労死する。

主に俺と秋蘭が。



主に俺と秋蘭が!!





主に俺と秋蘭が!!!!」



「そ、そんなに言わなくても分かったわよ...もう少し時期を待ちましょうか。」



その四季の必死さに、流石の曹孟徳といえど少々顔が引き攣ってしまう。


恐らくここに秋蘭ーー夏侯淵が居れば、四季と同じように必死になって止めた事だろう。



ーー現在、陳留には軍師や筆頭文官と呼べるような存在は居ない。少し前に武官文官含めた全ての汚職官吏を一斉に粛清したからだ。


その思想や肉体は腐り切っているとはいえ、腐っても官吏。


四季、秋蘭の二人は、優秀な人材が育ち切るまでの間は監視の目を光らせ、飼い殺しにする事を提案したのだがーーーー少しの間でも配下に穢れた者が居る事を我慢出来なかった華琳の一声で敢え無く却下。

叩けば埃どころか油虫すら出てきそうな官吏達は徹底的に調べ上げられ、ほぼ全ての悪行が白日の下に晒された。



当時の陳留における不正に手を染めた官吏の数は多く、そして根も深かった。

中には見目麗しい少女を攫って囲っていた輩も居り、そういった者は激昂した華琳の命でブツを切り落とされ、そのまま追放された。



粛清者の中には陳留周辺の豪族や富豪の関係者も多数居り、陳留大粛清後、現在刺史である曹孟徳とそれらの関係はかなり冷え切っている。


そうした事もあり、現在陳留では官吏の数は驚く程少ない。

粛清されなかった善良な官吏も居るには居るのだがーーそういった者達は総じて敬遠されていた為に、まだまだ経験を積む必要があった。



それ故に、本来は武官ではあるがそれなりに文官業も出来る四季と、此処には居ない秋蘭の二人が中心になって回している状態なのだ。


武官側に関しては、文官に比べれば遥かに手を汚した者が少なかった事もあり、それ程は切迫していない。


今でこそ残った文官達もある程度は育ち、冒頭のように暇だと言える程度の余裕は出来たが、それでもまだまだ二人の内どちらかが取り仕切らないとままならない。




尚、春蘭ーー夏侯惇は最初から計算には入っていない。


まず、彼女の書いた字を読めるのが昔から共に過ごしてきた華琳、四季、秋蘭ぐらいしか居ない。

また、そちらを任せてしまうと四季か秋蘭が春蘭にかかりきりにならざるを得ず、かえって政務は滞るのである。



そうした側面から、現在の春蘭の主な仕事は、軍部の調練、警邏、賊討伐等の体を動かす物が多い。

むしろ、体を動かす仕事しかない、というべきか。

その分、武に関しては右に出る者は居らず、それ故に表立って文句を付ける者も居ない。




夏侯元譲ーー確かに頭の加減は少々宜しくないだろう。率直に言ってしまえば、悪い。


だが、そうした欠点を補って余りある本物の武が、彼女にはあった。


華琳への愚直なまでの忠義、そして生まれ持った将としての才が、彼女を夏侯元譲たらしめるのだろう。




これでもう少しだけでも内政にも関われる知があればなぁ、と四季が思う事も一度や二度ではないが、

そうなってしまうとそれはもう春蘭の形をしたナニカのような気もする。



中々思うようにはいかないな、と溜息を一つ零し、止まっていた手の動きを再開させる。






先程のような雑談はなく、する音といえば竹簡を置く音と筆を動かす音のみ。


そんな人によっては息が詰まるような空間の中で、後に大陸の覇王と呼ばれる少女とその懐刀の青年の二人は。



揃って微かに微笑みを浮かべながら、愛する者と過ごす穏やかな時間を噛み締めていた。

主人公の名前すら出ておりません。

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