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第2話 初めての試合

「みんな、頑張りましょう!!」


さて、試合直前。

ランファの掛け声に皆が頷く。皆やる気がみなぎっている。特に目なんかが獲物を狩るような目だ。


「コウ、サインの事なんだけど………」


そう言ってサインの確認をするランファ。

実はさっきまでノーサインで捕ると聞かなかったランファを何とか宥め、サインを覚えさせた。


「基本的にストレート主体で投げるつもりだから、首を振ったら違うサインを出してくれ」

「分かったわ」


最後の確認を終え、素振りをしている皆の元へ行くランファ。

しかしなぁ………


「ヤンとランファ以外バット振れて無いな………」


力不足なのか、スイングが鈍い。これで本当に打ち崩せるのだろうか?


それに比べてワーウルフ達は結構力強いスイングをしている。

勝てるかなぁ………?


「みんな時間だよ、そろそろ並ぼう」


ランファに言われ、俺達はベンチ前に並んだ………








『これより、ワーキャット対ワーウルフの試合を始めます』


試合前はホームベースを挟み、向かい合う形で挨拶をする。

俺達の世界と同じなようだ。


「コウ、頑張ろう!」


俺はランファから直接ボールを受け取り、マウンドへ向かう。


「アニキ、頑張って下さい!!」


ヤンはそう言ってセンターに向かっていった。

因みに何故かヤンからアニキと呼ばれるようになった。


「コウ、来い!!」


キャッチャーミットをバシバシと叩くランファ。

気合充分である。


「行くぞランファ!!」


そんなランファに負けない様に、気合を入れ直して俺は振りかぶった………











「おいおいケビン、何だアイツは………あんな奴がピッチャーするのか?」


チームメイトの奴等の言う通り、ワーキャットじゃない奴がピッチャーマウンドにいる。

試合は別に助っ人禁止なんてルールは無い。


しかし俺達みたいな耳やしっぽが無ければ、鋭い牙も持ち合わせていない。

そんな奴をよく助っ人に選んだな………



「こりゃあ余裕じゃねえか!!なあ賭けしようぜ!!俺が2本ホームラン打ったらメシおごろれよ!!」

「ふざけんな!!2本なんて余裕だろ!せめて3本にしろ!!」


………まあ投球練習を見る限り対した事がないのは明白だし、問題無いか。


「おっ、奴等早速集まってるぞ!!」

「どうせ無駄なんだから早くやろうぜ!!」


今回ももらったなこりゃあ………








「どうしたんスか兄貴!?もしかして疲れたんスか?」


「えっ!?まさか私の………」

「ん?手を抜いて投げたからだけど?」


俺がそう言うと固まる内野陣。

つうかヤン、お前はセンターだろうが………


「何で!?せっかくの練習なんだからちゃんと投げた方が………」

「相手に無駄な情報与える必要は無いだろう?だから心配するな。相手をあっ!!っと驚かせてやるから」


そんな俺のビックマウスにみんな安心したのか納得して定位置に戻っていった。


「コウ………本当に大丈夫?」

「ああ………ってか甲子園で延長15回を1人で投げた男だぜ俺は」

「延長15回!?」

「だから俺を信じてサインを出してくれれば良いよ相棒」


そう言って俺はランファをホームベースの方へ押した。

ランファは驚いた顔でこっちを見ながら定位置に戻っていく。

………ヤバい、ちょっと恥ずかしい。


「やっと終わったか………ほら、さっさと投げろよ!ホームランにしてやるからさ!!」


バットを高々と構え。自信たっぷりに挑発する1番。

そんなバッターには目もくれずランファは真っ直ぐ俺を見ながらサインを出した。


(インコースストレート………)


サインに頷き、振りかぶる。

そしてミット目掛けてボールを投げた………









「なっ!?」

『ストライク!』


物凄く速いボールがミットに収まった。

1番の奴なんてビビって尻餅つきやがった………


あのスピードは………奴は一体何者なんだ!?


「ケ、ケビンどうするよ………俺、あんなボール、打てる気がしねえぜ」

「お、俺も………」


あのボールを見て途端に弱気になるチームメイト。

ったく、クソ共が………


「いや打てなくたって勝ち用はある。良いから俺に任せとけ!!」


そう、やりようはいくらでもあるんだよ………








「さすがっスアニキ!!」


ヤンの時もそうだったが、ワーウルフの人達も俺のストレートに全く手が出ないでいた。

なので変化球も投げる必要も無いので、俺的には楽で良いのだが………


「コウ、つまんない………」


初めてサインを教えてもらい、自分でリードする楽しさを知ろうとしていたランファにとって確かにつまらないだろう。

だけどサインなんて必要無いんだよなぁ………取り敢えず相手がボールにびびってる間は。


「よっしゃあ!!後は俺達が点を取るだけだ!!行ってくるぜ兄貴!!」


バットをブンブン振ってバッターボックスに入るヤン。

相手は大体130Km出るか出ないかくらい。

ヤンなら余裕で打てるだろう。


「よしゃこい!!」


バットを構え、ピッチャーを見た。

気合十分だが空回りしなきゃいいけど………


「さっすがコウ!!」

「ぶっ!?」


水を飲んでいた所にランシェの平手が俺の背中に。


「ごほっ!?ごほっ!?」


変な所に水が入って苦しい………


「大丈夫コウ!?」

「だ、大丈夫………」


だけどまだ少し苦しい………


「………」

「あれ?ヤン、どうしたの?」


ランシェの言う通り、何故か1番バッターのヤンが俺の前に。


「………三振」

「ん?何?」

「三振だよチクショウ!!済まねえアニキ………」


ランシェとのやり取りの内に三振してきたみたいだ。


「いや、仕方ないだろ………次はしっかりな」

「はい!!アニキの為、身を犠牲にする覚悟っス」


「送りバントだな」

「「送り………バント?」」


嘘でしょ!?

まさかバントも無いのか!?


「よし、ランファが出たぞ!」


そんなことを話しているとランファがヒットで出たみたいだ。


「コウ、頑張ってね!!」

「俺4番!?」


聞いてないよ!?










「ふん、お前の球の速さには驚いたが、このチームはヤンとランファ以外は全く打てないチームだ。勝てる可能性はねえぜ」


俺が左バッターボックスに入るとすかさず、相手キャッチャーのケビンが俺に話しかけてくる。

確かにケビンの考察は間違っていないと思う。

だけど1つ忘れてるな………


「投手はな、意外とバッティング良いんだぜ?」


俺は相手ピッチャーの投げたインコースのボールを無理矢理引っ張った。

打った打球はぐんぐん伸びていく。


「行けー!!」


と伸びる打球を見ながら走る俺。

しかしそんな心配も無く、打球はライトを超え、柵を超えた。




「ホームランだ………ホームランだ!!」

「コウー!!!」


ヤンの驚きの声の後にランシェの大きな声が聞こえた。

………まあ俺にとっちゃ出来過ぎだけど期待に答えられて本当に良かった。


「コウ」


そんな事を思いながらベースを回っていると俺の帰りを待っていたランナーのランファがバッターボックスで俺の帰りを待っていた。


「出来すぎたな」

「ううん、かっこよかったよ」


そう言い、お互いの拳を合わせる。

これで2-0。後は俺が点を取られなければ負けることは無い。


「………調子に乗るのも今のうちだ」


そんなケビンの呟きを聞いたものは誰もいない………










さて、2-0のまま回は5回に。

俺の2打席目は敬遠と完全に警戒されてしまった。


そんな俺だが、この5回、結構ピンチだったりする。


『ボール』

「また!?」


さっきから審判がおかしいのだ。

外角だが、ちゃんとストライクゾーンに投げているのにストライクにならない。

文句をつけようにも人では無い審判に何を言っても無駄。

ランファの文句も気にせず、試合再開を急かしてくる。

今の球でカウントが1-3。ノーアウト、ランナーが1、2塁の今、これ以上ランナーを出すわけにはいかない。


「タイム!」


俺はタイムを取り、ランファを呼び出した………










「何なのあれ!?壊れたんじゃないの!?」

「落ち着けランファ………」


ランファは結構短気な所があるよな………

キャッチャーは出来れば冷静な方が良いと思うんだけど………


「で、何コウ?」

「コースに投げてもボールを取られるならいっそ出来るだけ真ん中に投げる」

「えっ!?でも………」

「打たれてアウトを取った方がまだマシさ」

「………分かった」


そう言って少し不満気に戻っていった。

さっきもサインを使わずに試合をしていたのに、今度は捕るだけだもんな。その気持ちも分からんでも無い。

だけど仕方がないだろ………


しかしいきなりこんなにボール先行するのは何でだ………?

まさか………


「固有技能?」


そうなると尚更どうしようも無い。むしろまだちゃんと説明も碌に受けてないし………

対応の仕方もイマイチ分からないのだ。


「取り敢えず今は打たせていくか」


打たせてとるのも投手の腕だからな。








「くそっ!?何でど真ん中なのにヒットが出ないんだ!!」


俺の固有技能、『狼の遠吠え』により、ストライクゾーンは滅茶苦茶になり、奴は真ん中にしか投げてない。どこに来るのか分かっていれば、いくら速かろうが、普通に打てる。

なのに………


「サード!!」


ボテボテに転がったボールをサードが捌いてアウトになった。

くっ、既に回は7回。このままじゃ負ける………


『アウト』

「何でだ………何でだ!!」


俺の叫びは虚しく響いた………









「ナイスだよアニキ!!」

「ヤンもよく守ったな」


チームの皆に声をかけてもらいながらベンチへと戻る。


「………」

「どうしたランファ?」

「ねえコウ、あなた何投げてるの?」


やっぱり気がついたか………


「バッターの手元で微妙に変化してるよね?しかも右に曲がったり左に曲がったり………意味が分からない」


「そりゃ俺にも分かんないからな」


そう答えると更にうーうー悩み出すランファ。


「俺の投げるツーシームはそういう変化をするんだよ」


俺が今まで投げていたのはツーシーム。バッターの手元で少し変化し、バットの芯を外して意図的に凡打にする変化球だ。

その変化は人によって異なるが、俺のツーシームは約ボール一個分位変化し、その変化は360°だったりする。

空振りこそ取れないものの、相手は良く打ち損じるのでゲッツーが欲しい時によく投げていた。


「ツーシームって言うの?」

「まあストレートをちょっといじって少し変化するストレートと思ってくれれば良いよ」


「う、うん分かったけど………コウって一体どれだけの球種を持ってるのよ………?」

「う~ん………」


変化球としてはスライダー、縦カーブ、SFF。

後はフォーシームジャイロとツーシーム、そしてもう一個。


6つかな………?


「まあ6つ位かな?」

「………それって打たれるの?」

「打たれちゃ意味が無いんだよ。打たれない為に球種を増やしたり磨いたりしてたんだから………」

「でも打たれるんだ」

「球種があっても狙い球を絞られると打たれるもんさ」


現に甲子園の時、あるバッターからカーブ狙い打ちされて逆転ツーランを打たれた事があるし………


『スリーアウトチェンジ』


おっと、いつの間にかチェンジか。


「みんな!後2回、しまっていこう!!」


「「「「「「おおーっ!!」」」」」」


ランファの掛け声と共に俺達は再び気持ちを引き締め、守備についたのだった………









ガキッ!!

鈍い音がボールを打ったバットから響く。


「ショート投げるな!」


俺の声でショートが送球するのを止めた。


「これで1アウトランナー1、2塁か………」


最初の打者をファーストゴロでアウトにしたが、次のケビンにはヒットを打たれた。


いくら球が速いと言っても真ん中に来るのを分かっているのなら、慣れれば打たれ始める。

ツーシームも変化が分からないからこそ、勝手にバットの芯に当たったりすることもあり、本当は余り好きな球では無いのだ。

さっきのケビンのヒットも勝手に芯に当たってヒットになったのだ。


「ここだ!!ここで必ず逆転だ!!」

「「「「「「「「オオー!!」」」」」」」


ケビンの叫びに 相手ベンチも大盛り上がりだ。


「た、タイム」


そんな雰囲気に呑まれたのかランファが俺のところにやって来た。


「コウ、こうなったらちゃんとコースに投げましょ!!コースに投げればコウは打たれないわ!!」


「落ち着けランファ」

「落ち着いてなんていられないわよ!!ピンチなのよ!?」

「だからこそ落ち着くんだよ」


俺ののんびりな口調にランファも落ち着きを取り戻した。


「………ごめんなさい、私が焦っちゃ駄目ね」

「そう、キャッチャーは誰よりも冷静で常に試合を見ていないと」

「………そうね。けれどどうするの?相手はスピードにも慣れてきているわ」


「………なあランファ、バックを信じようぜ」


「えっ!?」


「クリーンヒットを打たれちゃ確かにどうしようも無いかも知れないけど、守ってるみんな守備上手いぜ。絶対に守ってくれるさ」


「………そうだね、みんなでやるのが野球ですものね!」


そう言って覚悟を決めるランファ。

しかしランシェの種族の説明の意味が段々分かってきた。

ワーキャットはバッティングが悪い分、守備と足が速い。

対してワーウルフはバッティングがワーキャットよりも良い分守備が下手だ。ただ足は速いが………


種族によって能力にも特徴があるのだ。


「みんなで守っていこうぜランファ」


俺はランファの肩に手を置き、そう言った。


「ええ、絶対に勝ちましょう!」


そう言って笑顔で戻るランファ。

そして………


「みんなー!!しっかり守ってこうー!!」


そうみんなに声をかけたのだった。








「へっ、気合いを入れ直しても遅えよ」


何てたって俺の固有技能は審判全員に効力があるんだからな。

俺は確実に………


「コウ!!」


バッターの打った打球はボテボテのピッチャーゴロ。

しかしとても弱く、ピッチャーに転がっていく。


「よっしゃあ!!」


これは俺達の足があればセーフに………


『アウト』


は?


『アウト、ダブルプレー』


はああああああ!?


「凄い!凄い凄い!!凄いよコウ!!」


ランシェの声がランナーにいたケビンにも聞こえた。


「………また………また奴か!!!いつもいつもいつもいつも!!」


その場で地団駄を踏み、怒りを地面へぶつける。


………こうなったら潰してやる、もう負けようが関係あるか!!


「覚悟しろコウ………」


ケビンは誰にも聞こえない声で静かに呟いた。







「アニキカッコイイっス!!」


さっきの弱い打球を俺は滑り込みながら取り、体重移動をしてノーストップで投げた。

まあ死ぬほど高校時代練習してたんだ。これくらい問題無い。


「コウ!コウ!」


ランシェ、その名前コール止めてくれ………マジで恥ずかしい………


「コウ、次、あなたの打順よ」

「ああ、そうだっけ?」


ランファに言われ、俺は慌ててバッターボックスに向かった。











「本当に予想外だよ………お前さえ居なければ………」

「悪いな、俺もやるからには勝ちたいからよ」


キャッチャーのケビンが俺に話掛ける。

このささやきが結構厄介だよな………

この悪い性格は結構キャッチャー向きだな。


「だけどお前はもう終わりだ………何故なら………」


ピッチャーの投げた球は真っ直ぐ俺の体に………


「ここでお前の腕は壊れるんだからな!!」


真っ直ぐ俺の右腕に向かっていった。


「………本当に分かりやすいよお前」


こう来ると何となく感づいていた俺はすかさず前の左足を思いっきり開き、体に向かってきたボールを無理やり引っ張った。


「なっ!?」


開いて打った打球はライト線を右に鋭いライナーで飛んでいった。


『ファール』


「なっ、何で………」

「ピッチャーの球が遅いってのもあるけど一番の理由はお前の真っ直ぐな性格かな」

「俺が………真っ直ぐ?」

「要するに分かりやすいんだよ。お前みたいな悪な奴は良くいたからな」


勝つためには手段を選ばない。そんな奴は大会中も居た。俺のチームは控えの投手のレベルは低かったから余計に狙われる事もしばしば。


そんなこんなで無駄に敏感になったからな………


俺はバットを構え直し、ピッチャーを向く。


「ほら、まだ試合は続いてるんだ、最後まで楽しもうぜケビン」


そのまま前を見たままでケビンに話しかけた。


「何が楽しくだ………クソ野郎………」


お前の考えも分かるが、やっぱり野球はチームメイトと楽しむのが一番だ。









『ゲームセット!2-0でワーキャットの勝利』


結局試合は何度もランナーを出しながらも何とか点を与えずに打ち取った。

最後はランファがキャッチャーフライをダイビングキャッチして試合を決めた。


「勝ったー!!!」

「ちょ、ランシェ………」


ベンチに戻ると、ロケットダッシュで姉に飛び込む、ランファ。

そんな妹に苦笑いでされるがままになっている。


「アニキ!!やったっス!!勝ったっス!!!」

「分かった、分かった………」


当然ヤンのテンションもバカみたいに高い。

いや、よく見るとワーキャットのみんなもか………

まあ苦しい生活もこれでおさらばだもんな………


「良かったな、これでお前らがあの狩場の所有者だ………」


そう言ってケビンはチームメイトとグラウンドを出ていく。


「ケビン!!」


俺が名前を叫ぶと聞こえたのか、耳がぴくっと動いた。


「今度は何の勝負も無しでやろうぜ!!その時はお互い楽しくさ!!」





「………へっ、何が楽しくだ、クソ野郎………」


俺の言葉を聞いてどう思ったか分からないが、俺の話を聞いて少しでも考えを変えてくれればいいが………


「まあこれで少しは恩を返せたかな………?」


今だ、お祭り騒ぎのワーキャット達を見て俺は呟いた………

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