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魔法少年やりませんか? 01

穂波学園高等部二年生・唯樹殊巳ゆいきことみは、毎日告白してくる後輩・鐘騨凍澄(注・男)に頭を悩まされていた。

そんな時、不思議な猫のぬいぐるみが魔法少年やりませんかと勧誘してくる。うさんくささ全開な展開に断る殊巳だが、猫のぬいぐるみは無理やりに殊巳を魔法少年にしてしまう。

そして魔法少年としての戦いの場に駆り出された殊巳が目にしたのは、この世をBL天国にしてしまおうというろくでもない侵略の光景だった。

世界平和のためではなく自らの保身のために戦うことを決意した後ろ向き魔法少年の物語!

 悪夢というのはいつだって、直面してから実感するものだ……


 少なくとも、僕はそう思う。


「ことみセンパイ! 好きっす! 付き合ってく欲しいっすっ!」


「却下」


 この告白も、この返事も、今回で記念すべき五十回目。


 告白五十。


 玉砕五十。


 まったく、懲りもせずによくやる、と思う。


「センパイ。記念すべき五十回目の告白なんですから、もうちょっと捻った返答をしてくださいよ」


「捻ったところで結果は変わらないけどな」


 僕の目の前で困ったように頭を掻く後輩、鐘騨凍澄(かねだいずみ)は、相変わらず、振られたにもかかわらず、ダメージを受けた様子がない。というか、こいつのダメージを受けた姿というのを、僕は全く想像できない。


 穂波(ほなみ)学園高等部一年生。鐘騨凍澄。


 柔道部期待の星。


 一年生ながらも、その実力は既に全国レベル。入部初日に柔道部主将に見事な一本背負いを決めた話は、学内でも有名である。


 さらには勉学においても優秀で、常に学年トップの座をキープしている。


 頭脳明晰、スポーツ万能。身長は百八十を越えていて、鍛えられた肉体美も兼ね備え、さらには容姿も悪くないときている。日本人らしく黒髪黒目。平均的な色合いにもかかわらず、それを構成する部品はとてもバランスが取れている。スポーツマンらしく短髪を逆立たせているのだが、たくましい肉体と相俟って、それが恐ろしく似合っているのだ。どこの完璧超人だよこいつは……と思わなくもないが、実際のところ、その完璧さを一発で台無しにする要素がこいつにはあるのだ。


「ことみセンパイ。俺の何が不満なんすか?」


 何が不満かと訊かれれば、返す台詞は一つだけだ。


 一つ以外には存在しない。それは、


「性別」


「………………」


 そう、この完璧超人な後輩・鐘騨凍澄は同性愛者なのだ。


 今現在、鐘騨に告白されている僕、唯樹殊巳(ゆいきことみ)は、正真正銘の男である。健全なる高校二年生なのだ。


 僕は男。鐘騨も男。そして僕は勿論同性愛者ではない。つまり、鐘騨の気持ちには応えられないということだ。


「相変わらずことみセンパイはつれないっすね。まーそこも好きなんすけど」


「――僕は女の子が好きだ」


 本当、勿体ないと思う。

 

 これだけ完璧な男はそうそういないだろう。

 

 異性は勿論、同性である僕ですら時々見とれてしまうくらいに。


 鐘騨が異性愛者であったなら、絶対に相手に困ることはなかっただろう。五十回も振られるということすらなかったはずだ。


「俺は諦めないっすけどね。千回振られてもことみセンパイに一筋っすよ」


「……僕は千回も振らなければならないのか……」


 気の重くなる話だった。


 他者からの好意を拒絶するというのは、思った以上にダメージがある。五十回も繰り返せば慣れてくるとは言え、何とも思わないわけでもない。むしろここまで一途な気持ちを向けられているのに、応えることができない自分が悪者のように思えてきたりもする。


 しかし、こればっかりは仕方がない。性別の壁だけは越えようがないのだから。


「んじゃ五十回目の玉砕を終えたところで、今日はこれで失礼するっす!」


 びしっと体育会系らしく、礼儀よく頭を下げる鐘騨。そこまでしてようやく僕との身長差がなくなる……というのが微妙なコンプレックスでもあった。


「ああ……できればしばらく来ないでくれよ……」


「あっはっはっ! そんなに求められちゃ仕方ないっすね。また明日にでも参上するっすよ!」


「…………」


 会話が成立しないキャラって、疲れるなあ……。


 僕ががっくりと肩を落とす頃には、鐘騨はいなくなっていた。


 そして周りで僕達の様子を見守っていた面々……クラスメイトは、ようやく面白い見世物が終わったかのように喧騒を取り戻していた。


 そう、ここは公園でもグラウンドでも、使われていない教室でも、ましてや体育館裏でもない。僕が一日の半分ほどを過ごしている穂波学園二年C組の教室だった。つまり、クラスメイトが観客のショータイム……のようなものが今まで行われていたのだ。


 ……頭痛いな、まったく。


 まあ、五十回も人気のないところでムードを作られても困るのだけれど。だからといって五十回も公衆の面前で告白っていうのも、なかなかに常軌を逸している。


「今日も玉砕だったわねえ、凍澄くん」


「唯樹くんもいい加減、折れてあげればいいのに……」


 ……などなど、勝手なことをのたまうクラスメイト達。他人事だと思って言いたい放題だ。


「でも唯樹くん狙ってる男子、他にもいるよね、ぜったい」


「あはは。いるいる。だってあの外見で男にモテない方がどうかしてるもんねっ!」


「やかましいっ!」


 ついに我慢できなくなり、女子の方に向かって怒鳴りつける。女の子には優しくしたいが、腐女子に向ける優しさは欠片ほども持ち合わせていない。むしろ敵だ。


 しかし、自分でも納得せざるを得ないあたり、少しだけ複雑な気分だった。


 どうやら、僕の外見は鐘騨とは正反対らしい。


 百六十弱の身長、華奢な体格、そして中世的な顔立ち。我ながら、まったくもって、男らしさに欠けるパーツばかりだった。


 鐘騨と同じくモテる外見はしているようなのだが、どうせなら同性ではなく異性にモテたいものだ。


「………………」


 女の子……かあ……。


 どうせなら女の子にモテたい……と思うものの、今まで好きな女の子ができたことも、ないんだよなぁ。いやいや、勿論だからと言って好きな男ができたかというと、まったくもってそんなことはない。男よりも女の子の方がいいに決まっている。

しかし、可愛いな、美人だな、と思う女の子はいても、好きだなと思える女の子には未だ出会っていないのだ。自分でもその辺りが疑問なのだけれど、分からないものは仕方がない。分からないことを分からないままに呑み込むのも、一つの生き方だろう。


「ま、そのうち出会いがあるかもしれないし?」


 僕はそんな風に気楽なことを考えつつ、二年C組の教室を後にした。


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