第28話 力のあるもの。力のないもの。
皆が呆然としていた。
小鬼たちを撃退したというか、凌ぎ切ったというか、なんというか……
「殺しまくったわね」
「虐殺」
シェリルとヒメカの感想。いや言葉を選べよ。
壊された柵は村長を中心に補修し、負傷者はノイエが介抱した。
幸いにして毒矢に当たったのは北門の二名だけで、命の問題はない。
私はと言えば、何も出来なかった。無力だった。
問題は、アーシュリーだ。
一方的に殺戮を重ねた後、電池が切れるようにアーシュリーは倒れた。
倒れたまま、まだ電撃を放っており、近づけたのはその十分後くらいだった。
「どういうつもりですか! シェリルさま!」
眠っているアーシュリーを前にして、シェリルに詰め寄ったのはラウロだ。
「仕方がないでしょ? 緊急事態よ。そもそも、あんたたちがさっさと門の敵を倒せていれば、こうならなかったわ。護衛武官なんだから、それくらいしっかりしてよね」
詰め返してきた。やはりシェリルがアーシュリーを操ったということか。
「この子が震え始めたのは、実戦経験の無さじゃないんでしょ?」
ラウロが唇を噛んだ。
「知ってて隠していたのなら同罪よ。名門シャドウハーツ家に魔法剣士が生まれたって聞いてたけど、この子は魔法剣士って言えないわ。隠したい気持ちはよくわかるけど」
ラウロは眠っているアーシュリーの顔を見つめた。
返す言葉がないようだ。
「じゃあ、アーシュリーは、魔法剣士じゃなければ、何なのよ?」
「一般的には狂戦士か人虎。何かに憑依されてるわ。でも憑依されても動きは剣士だったわ」
「アーシュリーさまは、幼いころから剣術と魔術の素養がございました」
「それが何で、人虎になったのよ?」
「呪いです」
ラウロのその言葉に皆が押し黙った。
「言い伝えでは、シャドウハーツ家の初代が、ナニかを屋敷の地下に封印したそうです。ですが、十数年前のある日、その封印が解けていました。幼いながら魔法感応力の強いアーシュリーさまを操って、封印を解こうとしたのでしょう」
「そのナニかって何?」
「見たものはいません。初代が描き残した……いえ、当時の絵の技術では、その姿を伝えることが難しく」
初代……絵が下手か?
「シャドウハーツ家が何かを封印したのは確かだけど、何を封印したのかは、魔法院の調査で分からなかったそうね」
シェリルも、その封印については知っているようだ。
「そのころから、アーシュリーさまの魔力が急速に高まり、魔法が使えるようになりました」
「今まで、変化したことは?」
「幼いころに数度。自我を失った時に変化を起こし、周りに落雷を落としきった後、数時間眠ります。私も数度ほど」
そういうと、ラウロは腕の火傷痕を見せた。
え。じゃあ、敵味方関係なく攻撃すんの? あぶな。
「封印を解けば、姫への影響もわかりません。シェリルさまの御父君に封印の首輪を施していただいたのは感謝しております。ですが、だからといって……」
シェリルは口を尖らせている。
「結果が出たのよ? 力に恵まれた人間が力を行使した。それだけのことよ」
確かに結果は出た。だけど……。
ノイエは前に『他人を死地に送り込む覚悟はありますか?』と私に問いかけた。
シェリルは、目的のために、アーシェリーを犠牲にする選択をした。
本来は私が決断しなくてはいけないことだ。
「ねぇ、シェリル」
「わかっているわよ。あんたに黙っていたことは謝るわ。でも私も考えてやったの。大丈夫。アーシュリーは大丈夫。これくらいで体を乗っ取られることはないから」
「んん」
アーシュリーがうめき声をあげた。意識が戻った。
「ラウロ? ……小鬼たちは?」
まだ目が虚ろだ。だが徐々に記憶が呼び戻されたのだろう。
「戦いは!? みんなは!?」
そういうと飛び起きた。
上半身の服は自分の電撃でところどころに焦げ目がある。
真っ先にその胸に飛びこんだのはシェリルだった。大声で泣きながら、よかったと叫んでいる。ああ見えて、本当に大丈夫なのか心配だったのだろう。
「いてて。シェリルか? シェリルだよな? なぁ、戦いは?」
泣き叫ぶシェリルの頭を撫でながら、アーシュリーは私に訊ねた。
「終わったわ。ひとまず守り切ったわ」
「そうか。死者は?」
「大丈夫。怪我人が数名。震えは止まった?」
「ん? あれ? ああ、もう震えてないな。いったい何が? なぁラウロ?」
ラウロの沈黙にアーシュリーは気付いたらしい。自分の首元を触った。
「そうか。……やっちまったのか」




