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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

悲しみの無い未来へ――バトマブ・デスゲーム

作者: トントン
掲載日:2026/05/05

一閃。

煌めく鎧の天使が、赤い龍を切り裂いた。

暗い路地の奥で、少女は一人戦っていた。

彼女は、勝たなければならない。

この世界の運命を変えるために。


都会の夜は明るい。夏だがビル風が吹いていて、少し涼しく感じる。


 翔介は高校二年の終業式を迎えたばかり。

カードゲーム――バトルマスターズブレイク、通称バトマブ。小学生の頃から触ってきたバトマブを、カードショップでフリー対戦してきた帰り道だ。


高層ビルの天辺に赤い光が見えて、不気味に明滅している。その近くで何か大きな物が動いて飛び去った。


いつもカードショップの帰りは裏路地を通る。

人はほぼいないが駅まですぐに着く。

しかし、それが自分の命に関わることになるとは考えていなかった。


足が止まった。路地の奥に人影が三つ。

男が二人。その前に女の子が一人。

年齢は自分と同じ高校生くらい。ショートヘアで、その顔に見覚えがあった。


男たちの前には体長三メートルはあろうかという赤いドラゴンが二体、従っている。

少女の前には鎧の天使が、守る様に立っている。

あれは、ライザドラゴンにハイパールカディス!バトマブのモンスターが実際に目の前にいる。

思わず息を呑んだ。

だが同時に、それはあまりにも危険だ。


背の高い男が口を開いた。


「俺らは二人だ。一人で何が出来るお嬢ちゃん?」


男の声には、残忍な余裕が滲んでいた。

女の子が言い返す。


「全員があんたらみたいな雑魚なら、一人で十分よ。」


背の高い男が苛立ちを隠さずドラゴンに攻撃の指示を出す。


「攻撃だライザドラゴン、お嬢ちゃん、口だけは達者だが終わりだ」


ライザドラゴンが咆哮を上げるとともに飛び上がり、二本の剣で女の子に切りかかる。

モンスターの攻撃で3つのバリア全てが砕ければ、プレイヤーは敗北、死を意味する。


「ハイパールカディスでガード!」


女の子が自信に満ちた声で天使に指示を出す。

ハイパールカディスとライザドラゴンの剣がぶつかり合う、鍔迫り合いになる。

ハイパールカディスが力任せにライザドラゴンの剣を弾き飛ばし、さらに返す剣で斬りつける。

剣閃が走り、ライザドラゴンの身体が真っ二つに裂けた。


空にはもう一体のドラゴンが旋回している。

もう一体が空から女の子へ襲いかかった。

間に合わないーー!

その時、もう一人の男が焦った声を上げた。


「おいそこに他のガキがいるぞ、目撃者は消せ」


まずい、敵のドラゴンの矛先が女の子からこちらへ向いた。


その瞬間女の子の声が、勇気づける様に言った。


「魔法、ブロックシールド!」


光の盾が翔介を守る。光が砕けて飛び散る。


「君!何してるの逃げなさい。」


逃げ切れるのか?そんな時バッグのなかから、デッキケースが手元に来て光りだした。

カードが飛び出して空中に展開した。

しかし敵のドラゴンは構わず迫ってくる。


「ワルキューレドラゴン召喚!」


カードが実体化するバトマブはもちろん初めてだ。しかし、自然と言っていた。

鳥型の赤い龍が舞い降りる。


「お前もプレイヤーか、叩き潰してやる。」


ワルキューレドラゴンは火を噴き、迫る敵のドラゴンを焼き払った。


「じゃあ、私達のターンね。そうでしょ翔介。」


女の子が嬉しそうな声で自分の名前を呼んだ、聞き覚えのある声で気づいた。


「君はセナか、なんでこんなことに巻き込まれてるんだ?」


「話はこいつらを負かしてからにしましょ。」


セナは不敵な笑顔だ。


セナは同じ中学高校に通った同級生でバトマブ仲間だ。

ある日突然高校を辞めて音信不通であった。心配はしたがこんな場面で会うとは。


「フレイムソードを使う!」


炎を纏った剣が手元に飛んできた。それで身長が大きい男に切りかかる。

しかし、地面が割れ、鉄の壁が目の前に現れる。


「残念だな!」


背の低い男が得意げに言った。

魔法で防御したのだ。

しかし、


「残念なのはあんたの方ね。ハイパールカディスの前では魔法は使えないわ」


セナが軽く笑った。

鉄の壁は、崩れ消滅した。

そのまま、翔介は炎の剣で身長が大きい男のバリアを破壊、ガラスが砕けるような音がする。


さらにセナのハイパールカディスの鋭い斬撃が背の低い男の全てのバリアを破壊。

相手チームの敗北が決まった。

その時、


「待ってくれ命だけは!」


必死の訴えを背の高い方の男が叫ぶ。


「ハイパールカディスで止め!」


抑揚のない声でセナが指示だし、鎧の天使が無慈悲に剣で一人二人と切り払う。


男二人に黒い炎がまとわりつき、燃え上がった。

男たちは焦げついた地面だけ残して消えた。


翔介は悪寒を感じた。

吐き気に近い感覚もある。取り返しがつかない事をした。


「なんでこんな事してるんだ、何があったんだ。」


顔面蒼白でセナの顔を見たが彼女は涼しい顔だ。


「デスゲームよ。最後まで生き残れば——力が手に入る」


「もう十五人しか残ってない、ここまで来たら終盤よ。」


セナは、重い表情をしている。


「お前、あの時…妹の事でやめたんだろ。」


その日、学校で呼び出されたセナは、顔面蒼白で荷物をまとめて帰った。それ以来会っていない。

翔介がそう言うと、彼女は一瞬だけ目を伏せた。


「……うん。」


小さく頷いたその声は、弱々しい。

その声を聴いて思わず声が出た。


「妹のためなんだな。危険だけど……俺も協力する」


自分も力になりたい。


「早く良くなるといいな。」


「……そうね。」


セナは微笑んだ。

その笑みは、どこか少しだけ無理をしているように見えた。


「ありがとう翔介。」


どこか迷いのある小さな声で言った。


帰り道

これからの戦いに備えて二人でカードを買いにいく。

セナはあまり話そうとしないのできっと疲れてるんだと思った。

その表情からは、どこか空虚なイメージを受ける。


カードショップに着く。照明で明るい店内に入る。

窓際の小学生がショーケースのカードを食いつくようにのぞいている。

それを見てセナは、

「楽しくても、いつか終わりが来るのに。」

ため息混じりに呟いて、目を逸らした。


ショーケース見て、それぞれ必要なカードを注文して会計。

お互いが購入したカードを見て、二人はカードの戦法について談義し始めた。


「ワルキューレドラゴンノヴァはロマンあるけど、実戦では役に立たないよ。」


セナは正論で諭す様に言う。


「俺は使いたいからデッキに入れてるだけだ。」


意地になって言い返した。


「まだそんなこと言ってるの?」


セナは少しだけ目を細めた。


「中学の頃からずっと弱かったじゃない」


昔の事をイジるのが楽しいらしく。少し意地悪に微笑んでいる。


「はあ?何回も勝ってるだろ」


苛立った声を上げた。


「大会でラストブレード入れてた人が?」


やれやれこれだから初心者は、と言わんばかりに、困った顔で言う。


「……あれはお前に刺さるからだよ」


セナを意識して、対策していることを認めるのは少し気恥ずかしい。


「私にどうしても勝ちたいみたいね?」


挑発的な顔で言う。


「おう、望むところだ。」


頭に来てデュエルスペースを指差した。


二人は勝負を始めた。

ワルキューレドラゴンで速攻で攻める翔介。


「攻撃。何かある?」


確認を取る。

セナはニヤリと笑い。


「魔法、エンジェルゲートを使います。ハイパールカディスを召喚!」


してやったりと言うセナの表情に、翔介は渋い顔をする。

ハイパールカディスに完全に防がれ、ジリジリ追い詰められる翔介。


「攻撃で勝ち。対戦ありがとうございました。」


セナが大袈裟に言う。煽りもいいところである。


「まだ終わって無いって!ワルキューレドラゴンノヴァ召喚!デッキトップのカードをタダで使える!」


翔介は大盛り上がりだ。

この攻撃が防がれると形勢が逆転するかもしれない。

セナも瞳孔を大きくして、翔介のデッキトップのカードを見ている。

しかし、気合いの一声で捲れたのはハズレのモンスターだ。


「当たりが出れば逆転勝ちだったのに!」


「ほらやっぱりロマンはロマンよ。大逆転なんて無いの。」


セナは厳しい口調で言った。


「うるせー上から目線でアドバイスするな!」


むきになって声を荒げた。

その時セナが声を上げて笑った。

もう一年ぶりくらいに見た気がする。

セナのこの笑顔が大好きだ。


「やっぱり楽しいね、こうやって対戦するの。」

セナは心から嬉しそうに笑っていた。

昔、中学生の時二人で近所のショップにいって、少ない小遣いでカードを揃え、笑い合い対戦した頃と何も変わらない関係。

これから、どんな相手が来てもセナと乗り越えられる気がした。


「また今度対戦しようぜ。学校のみんなも呼んでさ!」


「そう…だね…」


少し間を空けてから翔介と目を合わせずに答えた。

蛍の光の曲が店内に流れる、閉店時間だ。



2人はカードショップで解散し、セナは自宅で休んでいた。


「……私の考えおかしい?」


小さくつぶやいて、画面に視線を落とす。

表情は苦悩に満ちている。

AIの音声が、淡々と答えた。


『思考に偏りが見受けられます。またその思想は危険です。もう少し楽しい事に、目を向けて見ては?』


セナは、少しだけ目を見開いた。


「……ちがうよ」


ぽつりと、そう言った。


「私、おかしくないんだよ…」


セナは、眉をひそめる。


AIの音声が続く


「その考えは、妹さんの望みと一致していますか?」


「楽しくても、辛い事があったらダメなんだよ…」


孤独感で息が詰まる。

顔をうずめた枕が、静かに濡れていった。


次の日、駅前に二人で集まった。


「魔法、スクライイングチューター!」


魔法で周りの様子を探る。意識に辺りの光景が流れ込んでくる。デスゲーム参加者同士も近くに居れば気配を感じる。

敵の気配を頼りに進む。


見覚えがある、校舎と運動場二人がかつて通っていた高校だ。

今は夏休みで部活がある生徒だけが来ている。

セナは俯いている。この運動場から敵の気配を感じる。


「まさか、こことはね。行こう、敵が待ってるわ。」


思い立って歩き出した。


「やっぱり懐かしいね、この校舎」


校門を見上げて、小さく笑った。


「よおセナ!セナじゃないか!久しぶり」


房州だ。カード部の男子三年生、カード部は二人が入り浸っていた部活だ。


「房州先輩!元気でした?」


セナの声が弾む


「おお、おまけに翔介じゃないか、相変わらずお熱い二人だなこのこの!」


翔介とセナは頬を赤らめた。


「俺ら、そういうのじゃないですから。」


セナは翔介の言い方が気になって、じろりと睨んだ。


「本当に、お前ら立派になった、俺もバトマブでそろそろ負けるかもな。」


「謙遜しちゃってー。翔介になんて負けないですよね。」


セナはにやりと笑った。先程の無礼に仕返しをした形になり嬉しいらしい。

翔介はじろりとセナを睨んだ。

ほんとうに笑っているセナは、魅力的だ。


「妹の介護のために学校辞めたんだったな。大分厳しいと聞いているが、頑張れよ。暇になったら、また遊びに来い。」


「そうですね…」


セナは答えたが、その間がほんの一瞬長かった。

セナの表情が目に見えて曇った。

セナは妹を学校に連れて来た事もあった。生徒からは可愛いと評判だ。


その時、後輩の如月が来て、房州先輩に耳打ちした。


房州先輩は校舎に入っていく。

如月はこちらを睨んでいたようにも見えた。


「翔介。私学校辞めちゃったから来るの、気まずかったけど。やっぱりいいところだね。」


「普通に続けたかったなあ……」


落ち込んだ声で言われ、かける言葉が見つからなかった。


敵の気配がする、セナと翔介は目を合わせる。

この学校に敵がいる、友人達が戦闘に巻き込まれるリスクがある。

緊張が高まった。


校舎に入り様子を伺う。

房州先輩との話ですっかり、追跡の手を止めてしまったが、敵の反応はだいぶ近かったはずだ。

二階の渡り廊下に差し掛かったとき。


急に窓ガラスが割れて、棍棒を持ったゴブリンが翔介の前に割り込んできた。飛び退く。警報装置が鳴り響く。シャッターが降りて、二人は完全に分断された。

セナは向こう側にいる。


「翔介!大丈夫?」


セナがシャッターの向こうから、必死に声をかけている。


「キィー!」


ゴブリンが飛びかかって来た。

咄嗟に避け、デッキを取り出す。

敵はゴブリンが三体、その後ろに男の子が立っている。同い年ぐらい。いや。


「如月!お前なのか?」


困惑した。

如月は中学から一緒の後輩だ。愛想が悪いがいつも対戦する仲だ。

ゴブリンが掴み掛かってくる。避けて距離をとる。


「先輩、あなたでしたか。負けてもらえますか?」


如月は冷笑した。

明確な悪意を感じる。


「やめろ!お前とは戦えない!」


生意気だが大事な後輩だ。手にかける事はできない。

そこに他の生徒が様子を見に来た。

すぐ驚いて逃げようとする。


「目撃者は消せ。」如月が冷酷に指示を出す。


生徒にゴブリンが飛びかかる。


「ワルキューレドラゴンを召喚!」


如月を本気で傷つけたくない、ならば安定したエースカードに任せる。

ワルキューレドラゴンがゴブリンを掴み、地面に叩きつける。

生徒はうまく逃げられたようだ。


「戦わないって言いましたよね?まあ良いでしょう、対戦お願いします。」


嫌悪感に満ちた顔で見つめている。


「他の生徒を巻き込むのはおかしいだろ!」


「僕はバトマブの全国優勝を狙っているんです!このデスゲームに勝てばその力が手に入る。貴方みたいな弱いやつに、二度と負けることなんて無くなるんですよ。」


如月からドス黒い妄執が立ち上っている。

感情が暴走するように唾を飛ばして怒鳴っていた。


「セナさんはずっと前から僕の憧れの人なのに、貴方が!貴方が邪魔なんだ!だから勝つためには、誰を巻き込んでも許されるんだ。」


悲しみと怒りの顔に変わる。

如月はセナと翔介と三人でバトマブで遊んだ時に翔介に惨敗した事があった。

そこまで根に持ってるとは思いもしなかった。


如月は通行人を殺すつもりでいる、戦う覚悟を決めた。


「ワルキューレドラゴンで攻撃!」


ワルキューレドラゴンが如月に迫る。

あわよくば捉える作戦だ。


「それを待ってました!魔法、カースマインド!」


不敵な笑いで、してやったりと言わんばかりだ。

ワルキューレドラゴンの足元に魔法陣が現れ動きが止まる。



しまった。焦って、攻撃反応魔法を警戒しなかった。

やたら挑発したのは、こういうことか。

翔介は苦虫を噛み潰したような表情をした。


「セナさんと同じ高校に頑張って入ったのに、彼女はもういなかった。貴方はのうのうとこの学校に来ていて、セナさんと一緒にいる。許せるわけないですよね?そう言うの抜け駆けって言うんですよ。」


怒りが度を過ぎてもはや半笑いで、話している。

勝ちを確信した余裕も感じられる。


「え…セナさんはいないんですか、なんで…」

部活に入ってきた時の如月の顔が急に曇った時の事を思い出した。

あの時の表情の意味を、今になって理解した。

…何も言えなかった。



三体のゴブリンが同時に飛びかかり、翔介のバリアを破壊する。飛び散った光の破片が壁に傷をつけた。


如月のカードが光り、金棒を持った赤い悪魔が現れる。

ラストオーガは、猛烈な勢いで突進してくる。


如月の攻撃が校舎を破壊する。

その先にいるはずの“誰か”が、頭をよぎった。


「――これ以上、おまえに罪を背負わせるわけにはいかない。」


決意に満ちた目、震える手で、翔介はそのカードを選んだ。

決定打を与え、形勢を逆転させる切り札。


「弱いのは如月、お前だ。マグマフェニックスを召喚!」


巨大な火の鳥が、翼を広げて飛翔する。

高温と衝撃波が、辺り一面に降り注ぐ。数で押していた三体のゴブリンは絶叫を上げて燃え尽きた。

ラストオーガを、マグマフェニックスが足で掴み地面に叩きつけ、火炎を浴びせる。

ラストオーガは、息絶え消滅した。


「……は?」


如月は狼狽した。何が起こったか理解できていない。


そのままマグマフェニックスは如月に迸る炎の雨を浴びせる。

如月はバリアを全て失った。


「うわー死にたくない!なんで、なんでこんな事するんだよ、先輩!」


断末魔の叫びは途切れ、苦悶の表情で如月が倒れている。


セナが走って来た。息が切れている。

「如月君!」

倒れている如月を見て、駆け寄った。

「だめだよ、まだむこうに行っちゃだめ!あなたは大切な友達なんだから、死なないで…」

セナは涙を流しながら、如月を抱き寄せる。

「セナさん、俺はあなたを…」

如月の言葉が切れる。

「ああ、そうなんだ。大丈夫だよ…終わっちゃえば楽になるから…」

セナは、如月の最後を悟り、やさしく励ますように言った。

しかし、翔介はその言い方に違和感を覚えた。

如月は一瞬穏やかな表情になり、そのまま燃えかすになり散っていった。

「こんな事になるなら、最初から何も無ければ良かった…」

セナ俯き悲痛な声を出す。


俺が…殺したのか…?

目を伏せ、顔を歪めた。息がうまく吸えない。

戦わないといけない。その現実の厳しさを痛感した。


セナは苦渋の表情で如月の焼け焦げた跡を見つめていた。

「こんなに悲しい世界は、終わらせなければいけない…」

セナは重苦しく言った。セナの瞳は黒く染まっている。

セナは押し黙っている。

その時、辺りが真っ暗になり、ゲームマスターの声が響いた。

直接意識に語りかけて来る。


「デスゲームは、もう大詰めです。残ったのは貴方達だけ。」


「明日の朝十時に河川敷公園に集まり決着をつけてください。」


「勝者はこれからの運命をも捻じ曲げる、強大な力を手にします。」


自宅に帰り、暗い部屋でセナは呟く。


「悲しい事は、もう二度と起こらない様にしたい。わかるでしょ?」


AIが、淡白に回答を読み上げる。

「極端な考えはよく有りません。もっと息抜きをして、心を落ち着けましょう。」


「みんな向こう側へ行けば、悲しい事なんて起こらない、私はそうしたい。」


「あなたの過去は重いものがあり、その発想になるのは分かります。しかし、現実を考えればそれは避けるべき考えです。」


AIの回答はそれで終わった。


セナは、震える手でアプリを閉じる。


「わからなくて良いよ。私の願いは、変わらないから…」


怒りとも悲しみとも取れる声で、誰もいない場所で囁く。


暗闇を照らすスマホの明かりは消え。セナは眠りに落ちる。


次の日、朝の日差しが差し込む中。

翔介とセナは、集合時間までまだ時間があるのでファミレスでくつろぐことにした。

ふとセナは、昔話を始めた。


「翔介は、私と同じ高校入りたいって、三年の夏休みから急に勉強、頑張りだして。無理だろって言われてたのに、受かってびっくりしたよ。」


「永遠のライバルのセナと同じ学校に入ったら楽しいだろうなって。」


自信満々に語る。


「楽しいからって、そこまでする?」


不思議そうに首を傾げる。


「やっぱ楽しいことは、やめられないからな。」


熱意を持った顔で言った。


「出会った頃と、変わらないね。でもわたしも、前はそうだったかも」


セナは優しく微笑んだ。

そういうセナの表情が眩しかった。


「一緒の大会出たとき、決勝が自分達だったときとか楽しかったな。」


懐かしい思い出に、セナの表情は明るい。


「そんなことあったな。大会なのに。いつもの対戦と変わらなかった。」


その事は翔介も鮮明に覚えていた。忘れようがない、2人だけの思い出。


「もちろん、いつも通り。私が勝ったけど?」


目を細める。すぐに翔介を煽ってしまうのがセナの昔からの癖だった。


「やかましい、お前がいなきゃ優勝だったよ。」


冗談を言い合う。

少し真面目な顔をして翔介は話題を変えた。


「セナは、力を手に入れたら何をしたい。妹の事はもちろんだけど。他にもできる事あるだろ?」


「ああ、そうだね。もう大切なものを失うのは嫌。守れないなら、最初から持たない方がいい。」


食べ終わった皿を脇に避けながら続ける。


「何度も失うくらいなら、一度で終わらせた方が優しいと思う…」


真剣に答えているセナが、なぜか悲しげに見える。

セナ、そんな考え方するやつだったか?最初から持たないってずいぶん物騒だな。


「あの子、昔はここでパフェ食べてたのに…」


視線を逸らし、沈痛な面持ちのセナ。

妹の事が心配なんだな。今は病院にいるんだろう。


「大丈夫だよセナ、絶対願いは叶うからさ…」


思ったよりセナの落ち込みようが酷く。翔介は元気づけるように言った。


「あの頃は、楽しかったな。」


ぽつりと、そう言った。


「みんなでカードして、笑って……」


「こんな時間が、ずっと続けばいいって、本気で思った。」


セナはドリンクのストローをくるくる回している。


「でも、実際は終わりが来る…続くと思ったら怖いんだよね…」


窓の外、白い雲を眺めるセナの表情は、虚ろに見えた。


朝日が差す中、河川敷公園に集まった。

そしてデスゲームの最後の生き残りは翔介とセナだけになり、神官のローブに身を包んだゲームマスターが現れた。顔はローブに隠れて表情も分からない。

黒い祭壇が現れその上に立っている。


「君たちの内、勝った者に力を与えましょう。」


声はまだ若い男の様だ。


「気づけば、俺はずっとセナのために戦ってた。」

「俺の願いは、セナに託すよ。セナ願いを頼む。」


今まで戦いが報われる事が、素直に嬉しい。


セナは重苦しい表情で祭壇の上に立つ。

セナは少しだけ俯いた。

セナの表情が暗くなる。

一瞬迷ったように視線が揺れる。

そして、顔を上げて言った。


「——この街を、滅ぼして。」


驚いてセナの表情を見た。

目に狂気を感じる。


「悲しい事が、もう二度と起こらない世界にして…」


セナが俯きながら言う。


「素晴らしい願い。冥王の力を手にするにふさわしい…」


薄ら笑いを浮かべ神官が囁くと、その姿は無数の黒い羽になり舞い上がり、セナの体を覆い始める。

セナは全身を漆黒のローブに包んだ。


空が暗くなる。黒い球体が空中に現れ、そこから黒と青の混じった炎が街を燃やし始めた。

人々の悲鳴、子供が親を呼ぶ泣き声が聞こえる。


「おいセナなんでこんな事を。」


震える声で問うた。

セナはうつむいて悲しみで押しつぶされそうな表情で答えた。

「…あの子はもう、向こうにいるのに。」

何を言っているんだ?

「向こうなら、辛いことは何もないんだよ。」

目の焦点が合わない。理解出来ない不気味さを感じる。

「こんなのセナがやりたかった事じゃないだろ?おかしいだろ!」

翔介は必死に訴えた。

「わからないの翔介?みんなこの世界には居ては、いけないんだよ…」


町が壊れて行く、セナも…。

このままじゃ、取り返しがつかなくなる。

俺のできる事は――これしかない。

静かに立ち上がり、デッキを構えた。


セナとのデュエルが始まった。


「ワルキューレドラゴン召喚!」

翔介は悲痛な面持ちで宣言する。

セナと戦う、勝敗に関わらず大事なものが失われる。

これまでのどんな戦いより苦しい。


「翔介、この世界は不安定なんだよ、ここにいる限り大切なものを失う。危険な世界なんだよ。」

セナが諭すように言う。ざわつく心を制して翔介は答える。

「仮にそうだとしても、セナの願いを叶えるわけにはいかない!こんなことをしては行けないんだ!」

全力で声を張り説得するが、セナが我に返る様子はない。もともとこういう考えだと言わんばかりだ。


ワルキューレドラゴンがセナに迫る。

いつもの対戦だと、セナが守りを固めると、勝てないのは実証済みだ。

だから素早く攻める。

セナは不敵に笑い、カードを掲げる。


「漆黒の天使ダークルカディス召喚!」


ルカディスと同じフォルムだが禍々しい漆黒の身体に黒い翼がある。セナの好む見た目のモンスターではなかった。


ダークルカディスの漆黒の翼が飛び散り、ワルキューレドラゴンに向かう。

ワルキューレドラゴンは、灼熱のブレスを吐き応戦する。

黒い翼の嵐と、赤い炎がぶつかり合う!

しかし、ワルキューレドラゴンの炎はかき消され、ダークルカディスの黒い翼が、ワルキューレドラゴンに纏わりついた。

ワルキューレドラゴンは黒くなり粉々になった。


セナの戦い方が、様変わりした事に恐怖した。


(こんなのセナの戦いじゃない)


マグマフェニックスを繰り出し逆転を試みる。

マグマフェニックスが溶岩を撒き散らす。地面は焦げ、ダークルカディスは怯んでいる。


しかし、すかさずセナがカードを使う。

判断は早く、自信に満ちている。


「魔法、ダークエクリプス!」


黒い月が、頭上に現れて、闇のオーラを拡散する。

マグマフェニックスは弱り、地面に落ち、ダークルカディスが迫る。

二体はつかみ合う。力比べだ。マグマフェニックスは、押され地面にたたきつけられる。

そのまま、漆黒の剣をダークルカディスが突き立てる。マグマフェニックスは、炎を出しながら爆散した。


セナは翔介をじっと見つめ


「あなたも向こうへ送ってあげる!大丈夫すぐに終わるから!あっはっはっはぁぁ…」


喜色満面、狂気の笑いを浮かべる。

翔介に止めを指すことに、喜びを感じているかの様だった。


「ダークルカディスで攻撃!」


黒い天使ダークルカディスが青黒い炎を放つ。

フレイムソードを呼び出し、受け止める。

じりじりと後退し、遂に剣が吹き飛ばされる。

その瞬間、セナは胸を押さえて苦しみだした。

狂った笑顔が一瞬歪み、瞳の奥に苦悩が見えたそして


「だめだよ…」


セナの表情が苦痛に歪む。


「さよなら翔介。」


と涙した。


(もうセナのことわからない)


青黒い炎をまともに受ける。

バリアは全て弾け飛び、空に向かって光の破片が飛び散る。

青黒い炎がまとわりつく。

熱い、痛い。

視界が真っ黒になり意識が遠くなる。


見覚えがある女の子が話しかけてくる、セナの妹だ。


「お姉ちゃん学校行かなくていいの?」


「いいんだよ。これからはずっと一緒だからね。」


妹と絵を描いたり、ゲームをしたり。

2人の笑顔は輝いていた。

「ありがとう、お姉ちゃん。本当に楽しい!」

妹と抱き合うと体温を感じる。

セナは妹に本を読んでいた。

「人魚姫って、最後かわいそうだね」

「……でも、楽しかった時間も本物だったよ」


視界が歪む。次の瞬間、病室にいた。

セナの妹がベッドに寝ている。

「お姉ちゃん生きてるのって辛いんだね。」

息も絶え絶えに話す姿は痛々しい。

「大丈夫!大丈夫だから!また楽しいこと、あるから……」

セナは妹に、そして自分自身に言い聞かせている。

目には涙が溢れていた。


集中治療室で妹は、人工呼吸器をつけていた。

機械音だけが、規則的に響いている。

そして、心電図の波が止まった。


「ピー」


これはセナの記憶?

(こんな事はあってはならない。)


知らなかった。セナのこと。

もう、このまま向こうへ行ってしまうのも悪くない。

しかし、闇の中で光るものがある。


「やっぱり楽しいね、こうやって対戦するの。」

「……ずっと、こうしてたかったな。」


「お前の願い、こんな形で終わらせてたまるか!」


青黒い炎の中から叫びが、轟く、

炎は吹き飛んだ。

翔介は、鋭く覚悟が決まった表情で立っていた。

力強く言い放つ。


「ワルキューレドラゴンノヴァ召喚!」


天使の翼をはためかせ、空に赤き竜が光り輝く。


「ワルキューレドラゴンノヴァ?悪あがきね。

この状況を打開するカードなんて、あなたのデッキにはないって知ってるわよ!」


狂気の顔の中でセナの瞳孔が大きくなるのがわかる。

心のなかで祈った。


(頼む、来てくれ!)


デッキが輝き、一枚のカードが空に舞い上がり、輝く

空から光と炎の刃が迸り、漆黒の天使を破壊し尽くした。


「ラストブレード?!なぜそんなカードを!」


セナが驚きの表情を浮かべた。

その瞳に光が見える。


「お前とまたデュエルする時に使いたくて、ずっとデッキに入ってた!」


セナと戦うために、デッキに残り続けたカード。


そのまま、ワルキューレドラゴンノヴァが空を駆け、セナに迫る。

「翔介、邪魔しないで!もう少しで悲しみのない世界になるの…」

セナが困惑の表情を見せている。

しかし、目の前で動きを止める。

一瞬ためらった、


(これでいいのか…それでも…)


(このままじゃ、セナはもう戻れない)


(笑ってデュエルしてた、あのセナのまま終われない)


セナの輝く笑顔が、思い浮かぶ。


(あの時の言葉――)


「……ずっと、こうしてたかったな」


(これでいいのか…)

(それでも——止めなきゃいけない)


「ワルキューレドラゴンノヴァ攻撃!」


悲痛な声で宣言した。


ワルキューレドラゴンノヴァは、翔介の意思で光り輝くブレスを吐く。

セナの姿が光の嵐に吸い込まれていく。

セナのバリアが砕けて、光の欠片になり空に消えた。


翔介が勝利した。


黒い球体と青と黒の炎は消えて、青空が空いっぱいに広がった。

セナはその場に崩れおちるように倒れた。

駆け寄りセナの上半身を助け起こした。


「……間違ってるって、わかってたけど……もう、大切なものを失うのが怖かった…」


苦悶の表情、弱りきった声でセナは話す。


「私を止めてくれてありがとう。」


今にも消えそうな声だ。


「私……こんなことするべきじゃなかったのに…」


「戻ってきてくれて良かった、セナ。」


言い聞かせるように翔介は声をかけた。


「翔介とまた一緒にデュエル出来て、本当に嬉しかった」


セナの目には涙が溢れている。しかし、表情は穏やかだ。

セナとまた心が通じた。翔介の胸に希望が湧いてきた。


「オレもだよ。また一緒にデュエルしよう」


セナの瞳が輝き、笑顔になった。

その時セナの体が黒く変化していく、

デスゲームの敗者は消える定めだ。


「あなたのおかげで、私救われた。本当に感謝してるわ翔介」


セナの体が足先から崩れていき、空に舞っていく。


「待ってくれセナ!」


翔介の声に、優しい笑顔で答えた。

同時に、泣き出しそうな顔で。

セナはこの世界からいなくなった。

セナは笑顔で消えた。

手の中にセナの温もりが、少し残っている。


さっきまでの喧騒が嘘みたいに、世界は静まり返っていた。

青空の下の焼け野原で、立ち尽くしていた。


残されたセナのカードが光っている、もう闇の天使ではなくて、光輝く天使の姿。

「楽しいね。」

そう言って微笑んでいたセナと同じ輝きだ。



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