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理を極めた俺、異世界で女王を最強に育てたら国ごと無双してしまった  作者: 慈架太子


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第6章 神職人の集結 (五人の才女と女王の器)

ミレーヌからの推薦を受け、王宮の謁見の間に姿を現したのは、王国の食糧自給率を一気に押し上げた功労者、農婦のハナであった。


「あ、あの……こんな立派な場所に、私みたいな泥臭い者が……すみません」


おずおずと入場してきた彼女は、言葉通り素朴で、化粧っ気のない純朴な顔立ちをしていた。しかし、その身体はこれまでの「やり手」たちに勝るとも劣らない、驚異的な造形をしていた。野良仕事で鍛え上げられた肢体は、麻の作業着を限界まで押し広げるような巨乳と、安産を象徴するかのように逞しく張り出した巨尻を備えた、生命力溢れるセクシーボディ。滴る汗さえも大地を潤す雫のように美しく、彼女が歩くたびに、まるで春の女神が通った後のように草花の香りが漂う。


彼女こそ、植物の囁きを理解し、荒れ地を瞬時に豊穣の土地へと変える「土の声を聞く耳」の持ち主であった。


「ハナ、よく来てくれたわ。あなたの育てた野菜が、ミレーヌの調味料をさらに輝かせていると聞いているわ」


アリシアは努めて平静を装い、温かい言葉をかけた。だが、ハナが感激のあまり、アリシアの隣に立つウォルゼインに向かって深々と頭を下げた瞬間、事態は一変した。


「賢者様……! 賢者様が教えてくださった『輪作』と『堆肥』のおかげで、土がとっても喜んでいるんです。私、嬉しくて、嬉しくて……!」


ハナは瞳を潤ませながら、無垢な笑顔でウォルゼインの手を握りしめた。その際、豊かな胸元が彼の腕に強く押し当てられ、純朴ゆえの無自覚な誘惑が謁見の間を支配する。


「……ちょっと、ハナ。感謝を伝えるのはいいけれど、少し距離が近すぎないかしら?」


アリシアの眉間には、もはや隠しようのない深い縦筋が刻まれた。カトリーナ、ミレーヌ、そしてこのハナ。なぜ自分の周りには、ウォルゼインを惹きつけるような「主張の激しい果実」ばかりが集まるのか。アリシアの独占欲という名の魔力が、周囲の空気をピリつかせる。


「土の声は聞こえても、私の『心の警告音』は聞こえないようね。ハナ、その手……いい加減に離さないと、あなたの自慢の畑を『永久凍土』に変えてしまいそうなんだけれど?」


アリシアは二人の間に割って入ると、ハナの大きな手をウォルゼインから剥ぎ取り、自分の背後に彼を隠した。女王としての威厳を保ちつつも、その琥珀色の瞳には「絶対に渡さない」という剥き出しの恋心が宿っている。


「ウォルゼイン! あんたも、そんなに優しく微笑み返さないで! ハナは純粋なんだから、勘違いしたらどうするのよ!」


「あ、あの……陛下、すみません! 私、ただ嬉しくて……土も、賢者様はとっても美味しい匂いがするって言ってるんです!」


「美味しい匂い!? 土の変な報告を真に受けないでちょうだい!」


赤面しながら怒鳴るアリシア。商、食、そして農。王国の三権を掌握せんとする美女たちの出現に、女王の心休まる日はまだ遠そうであった。



王宮の執務室、職人たちを追い払った後の重苦しい沈黙の中で、ウォルゼインは静かにペンを置いた。彼は隣でまだ肩を怒らせ、ウォルゼインの腕を離そうとしないアリシアに向き直った。


「アリシア、少し落ち着いて話をしよう」


その穏やかで、しかし教育者としての厳しさを孕んだトーンに、アリシアの身体がびくりと震えた。


「……何よ。あんたもあんな女たちの味方をするの?」


「味方とか、そういう話じゃないんだ。……いいかい、君が命を懸けて創り上げたこの王国の宝は、インゴットや食料だけじゃない。今日来た彼女たちのような、唯一無二の技術を持った『人材』こそが、この国の真の宝なんだよ」


ウォルゼインはアリシアの目を見据え、一歩も引かずに続けた。


「カトリーナは経済を回し、ミレーヌは民の健康と幸福を創り、ハナは命の源を育み、リネットとソフィは民の尊厳を包む。彼女たちは、君が掲げた理想を形にするために必要不可欠な歯車だ。それを君が、あんなふうに感情的に威嚇して遠ざけてしまったら、この国の成長は止まってしまう」


「……っ。でも、あの子たちは、あんたに……!」


「彼女たちが僕に向ける敬意や親愛は、知恵を授けた者への純粋な感謝だ。それを邪なものだと決めつけるのは、女王として、そして一人の女性としても、少しばかり……器が小さいと言わざるを得ないな」


『器が小さい』。その決定的な一言に、アリシアの琥珀色の瞳がみるみるうちに潤んでいった。彼女はゆっくりとウォルゼインの腕を放すと、背を向けて椅子に深く沈み込み、膝を抱えるようにして丸くなった。


「……わかってるわよ。そんなの、頭ではわかってるわ」


小さな、震える声だった。


「でも、私は、あんたがいないと何もできなかった。この国も、使徒たちも、全部あんたがいたから……。だから、あんなキラキラしてて、凄くて、その……体も立派な女たちが次から次へと現れて、あんたを『鑑定』しようなんて言われたら、怖くなるじゃない……」


アリシアは顔を膝に埋め、完全にすねてしまった。


「あんたは『人材』って言うけど、私にとっては、みんな『あんたを奪いに来る泥棒』に見えるのよ。……もう知らない。勝手にすればいいわ。明日からは、あの女たちと仲良く国を造ればいいじゃない」


ふんっ、と鼻をならし、アリシアはウォルゼインの方を一切見ようとしない。だが、その背中からは「早く慰めて、私のことを一番だと言って」という、女王の威厳が塵一つも残っていない、二十四歳の等身大の寂しさが溢れ出していた。


ウォルゼインは苦笑しつつも、その小さな背中に手を伸ばした。



執務室の重苦しい空気の中、すねて背を向けたアリシアの前に、一人の男が静かに進み出た。騎士団長ベネディクトである。彼は金属音を響かせながらその場に片膝をつき、兜を脱いで白髪の混じった頭を垂れた。


「陛下……少々、老兵の戯言に耳を貸してはいただけませぬか」


アリシアは膝に顔を埋めたまま、ぴくりと肩を揺らした。ベネディクトは、かつて帝国軍に蹂躙されていた彼女を救い、共に戦火を潜り抜けてきた、父のようでもあり兄のようでもある最古参の同志だ。


「陛下、人の営みは武だけではありませんぞ。剣を振るい、敵を討つ。それは国を守る第一歩に過ぎませぬ。……商いをして、美味しいものを作って、民が飢えないように作物を育てて。そして、凍える夜に身を包む布を作り、服を仕立てる。そうした日々の積み重ねこそが、我々が守りたかった『平和』という名の景色ではありませぬか」


ベネディクトの声は、戦場を渡り歩いてきた者特有の、深く重みのある響きを持っていた。


「ウォルゼイン様が仰る通り、あの方々は王国の宝にございます。彼女らがそれぞれの力を尽くすことで、ようやくこの国に血が通い、民の笑顔が咲くのです。……陛下、あなたが彼女らを遠ざけることは、陛下ご自身が創り上げたこの国の『幸福』を、その手で否定することに他なりませぬ」


アリシアはゆっくりと顔を上げた。その瞳は涙で潤み、鼻の頭を赤くしている。


「ベネディクト……。でも、あの子たちは、あんたが……ウォルゼインが教えたことを独り占めしようとしているみたいで……」


「はっはっは、左様に見えますか。ですが陛下、案ずることはございませぬ。民は皆知っておりますぞ。この国を、そして我ら使徒を導き、ウォルゼイン様と共に歩む唯一無二の伴侶は、アリシア様、あなたお一人であることを」


ベネディクトは穏やかな、だが確信に満ちた笑みを浮かべた。


「器が小さいなどという噂、私が剣に懸けて断ち切りましょう。さあ、陛下。ローゼライトの太陽たる輝きを取り戻してください。あなたが彼女らを認め、懐に抱いてこそ、この国は真の意味で最強の帝国を越える『王国』となるのです」


ベネディクトの真っ直ぐな言葉は、意固地になっていたアリシアの心を優しく解きほぐした。彼女は小さく鼻をすすり、ウォルゼインを盗み見ると、恥ずかしそうに立ち上がった。


「……そうね。ベネディクトの言う通りだわ。私がみんなを信じなくてどうするのよね」


アリシアは乱れた髪を整え、女王としての顔を半分ほど取り戻した。だが、残りの半分はまだ「ウォルゼインのことが大好きな乙女」のまま、彼の袖をそっと、今度は控えめに掴んだ。


「ウォルゼイン……ごめんなさい。明日、みんなを呼んで。……私、もっと大きな器になれるように頑張るわ」


その決意に、ウォルゼインは優しく微笑み、ベネディクトは満足げに深く一礼した。王国の未来を支える「宝」たちが、ようやく一堂に会する時が近づいていた。



王宮の展望テラスに、大陸の至宝とも呼ぶべき五人の美女たちが集められた。カトリーナ、ミレーヌ、ハナ、リネット、そしてソフィ。彼女たちの圧倒的な曲線美とそれぞれの才能が放つ輝きに、テラスは百花繚乱の様相を呈している。


アリシアは深呼吸をし、女王としての、そして一人の女性としての「器」を試すように一歩前へ出た。


「皆、昨日は見苦しい姿を見せて悪かったわ。ベネディクトやウォルゼインに諭されて、ようやく目が覚めたの。……あなたたちは、このローゼライト王国に欠かせない、私の自慢の『宝』よ。心から、これまでの尽力に感謝するわ」


アリシアの真摯な謝罪と感謝の言葉に、五人は驚きつつも、晴れやかな笑みを浮かべて跪いた。その光景を満足げに見届けたウォルゼインが、静かに口を開く。


「アリシアが器を見せてくれたところで、僕からも皆に、この国と世界の未来を左右する新しい『理』を託したい」


ウォルゼインはまず、豊穣の女神のようなハナへ視線を向けた。

「ハナ、君には**『米』**を育ててほしい。麦とは違う、この一粒一粒が真珠のように輝く穀物は、ミレーヌの作る調味料と合わさることで、民の食卓に革命を起こすはずだ」


「お米……。はい、賢者様! 土の精霊たちと一緒に、世界一甘くてふっくらした黄金の粒を育ててみせます!」


ハナが瞳を輝かせる。次にウォルゼインは、神の舌を持つミレーヌへ向き直った。

「ミレーヌ、君には更なる味の深淵に挑んでほしい。豆を発酵させ、辛みとコクを極めた**『豆板醤』『甜面醤』『豆鼓醤』。そして、異国の果実から抽出する『トマトソース』『ウスターソース』。さらに、卵と油を魔法のように乳化させた『マヨネーズ』**だ。これらが揃えば、食の喜びは無限に広がる」


「……っ、そんな未知の調味料……想像しただけで舌が震えますわ。賢者様、そのレシピ、必ずや私の血肉として形にしてみせます」


ミレーヌは恍惚とした表情で、ウォルゼインの提示した新たな味の構想を飲み込んでいく。そして最後に、ウォルゼインはやり手のカトリーナを見据えた。


「カトリーナ、君の出番だ。ハナが育て、ミレーヌが磨き上げたこれらの『富』を、君の商会で世界中に広めてほしい。ローゼライトの味を、世界の共通言語にするんだ」


「ふふ、最高の依頼ですわ。独占販売権は頂戴しますけれど、その代わり、この大陸の果てまで、ローゼライトの旗と美味しい食事を届けてみせますわ。……ねえ、陛下?」


カトリーナが悪戯っぽくアリシアに目配せをすると、アリシアは少しだけ頬を膨らませたが、今度はしっかりと彼女の目を見返した。


「ええ、任せたわ。……ただし、仕事が終わったら、彼をちゃんと私の元へ返しなさいよ?」


その冗談めかした、けれど切実な釘付けに、五人の美女たちは一斉に笑い声を上げた。

王国の英知と美、そして食の革命が今、一つの大きな奔流となって世界へと流れ出そうとしていた。アリシアの隣で、ウォルゼインはその光景を頼もしそうに見守り、新しい国造りの確かな手応えを感じていた。



新生ローゼライト王国の勢いは、もはや誰にも止められない奔流となっていた。


周辺諸国の様子は、半年前までの「恐怖」から「心酔」へと劇的に変化していた。東の商業都市連合メルカトルでは、ローゼライト王国の最新流行を追うことがステータスとなり、北の軍事大国バルシュタインの将兵ですら、鎧の下にはリネットが紡ぎ、ソフィが仕立てた「至高の肌着」を密かに愛用しているという。


リネットとソフィのアパレルブランド「ローゼ・エラン」は、カトリーナの商会を通じて瞬く間に世界を席巻した。糸の声を聞き、魔力を編み込んだその衣服は、夏は涼しく冬は暖かいだけでなく、着る者の立ち振る舞いすら気品溢れるものに変えてしまう。今や大陸中の貴族から平民に至るまで、「ローゼ・エラン」のタグが付いた服を纏うことは、文化的な生活を送るための最低条件とまで囁かれるようになった。


アリシアはこの爆発的な成長を一時的な流行で終わらせないため、一つの大きな決断を下した。


「カトリーナ、ミレーヌ、ハナ、リネット、そしてソフィ。あなたたち五人を『王国最高顧問』に任命するわ。そして、それぞれの分野の頂点を育成するための『国立ローゼライト総合専門大学校』を設立します」


アリシアは自ら錬金術の粋を尽くし、新都の一等地に広大なキャンパスを一夜にして築き上げた。五人の美女たちは、それぞれの学科の長となり、自らの持つ「理」と、ウォルゼインから授かった「知恵」を次世代へと惜しみなく伝承し始めた。


「商いとは、数字ではなく人の幸せを運ぶことよ!」

「この一滴のソースに、民の笑顔をすべて懸けなさい」

「土と対話しなさい。作物はあなたの愛に応えてくれるわ」


顧問たちの厳しくも愛のある指導の下、数千人の弟子たちが育っていった。彼らは「女王アリシアの慈愛」と「顧問たちの技術」、そして「賢者ウォルゼインの理論」を胸に、卒業後は本国だけでなく第2ローゼライト、さらには周辺諸国へと散っていった。


弟子たちが各地で「美味しい食事」「丈夫で美しい服」「豊かな実り」を広めるたび、ローゼライト王国の影響力は領土という物理的な枠組みを超え、文化的な「帝国」として膨れ上がっていく。戦争で国を奪うのではなく、豊かさで世界を塗り替える。それこそが、アリシアがたどり着いた女王としての答えだった。


「ウォルゼイン、見て……。私の器を広げてくれたのは、あなたと、あの五人だったわ。今、私たちの弟子たちが、世界を一つに繋ごうとしている」


夕暮れの王宮で、アリシアはウォルゼインの隣に立ち、誇らしげに目を細めた。

かつては嫉妬に身を焦がしていた二十四歳の女王は、今や大陸の母とも呼ぶべき、広く、深く、そして誰よりも美しい「世界の女王」へと成長を遂げていた。


「ああ、アリシア。君が創ったこの光景こそが、僕たちの最高の『作品』だね」


二人の手は自然と重なり、その温もりは、明日への更なる繁栄を約束していた。



王宮の一角にある、最新の魔導調理器具が完備された貴賓食堂。今夜は、建国以来の功労者である「十人の使徒」が一堂に会する特別な晩餐会が開かれていた。


「さあ、みんな。ハナが育てた『米』と、ミレーヌが心血を注いだ『新調味料』。これらを使って、僕がかつていた場所の料理を再現してみたよ」


ウォルゼインが運んできたのは、二つの対照的な料理だった。一つは、赤黒く艶やかな餡が豆腐に絡み、山椒の刺激的な香りが食欲を突き刺す**「麻婆豆腐」。もう一つは、黄金色の薄焼き卵に包まれ、真っ赤なトマトソースが美しく引かれた、どこか懐かしく温かい「オムライス」**だ。


「……これが、賢者様のいた世界の料理なの?」


アリシアが、キラキラと輝く白米の上に麻婆豆腐を乗せ、恐るおそる一口運ぶ。その瞬間、彼女の琥珀色の瞳が大きく見開かれた。


「――っ! 何これ!? 豆板醤の刺激的な辛さの後に、お肉の旨味と甜面醤の深いコクが追いかけてくる……。そしてこの『米』が、すべてを優しく受け止めて、口の中で完璧な調和ハーモニーを奏でているわ!」


「こ、こっちは……っ!」

騎士団長ベネディクトが、スプーンでオムライスを割り、中のチキンライスを頬張る。

「トマトソースの爽やかな酸味と、マヨネーズを隠し味に使ったという卵のまろやかさ。……武骨な私の心が、洗われるような優しさだ。ハナ殿、この米の粘りと甘み、まさに王国の宝にございますぞ!」


ハナは自分の育てた米が最高のかたちで料理されたことに涙を浮かべ、ミレーヌは自作の調味料がウォルゼインの手で「正解」に導かれたことに恍惚としている。


カトリーナは、麻婆豆腐の強烈な個性を味わいながら、既に商人の顔になっていた。

「この刺激、この満足感……。これは世界中の胃袋を虜にしますわ。ミレーヌ、豆板醤の量産体制を急いで頂戴!」


エルザやカイル、ミラたち他の使徒たちも、競うようにスプーンを動かした。沈黙が支配するのは、あまりの美味しさに言葉を失っているからだ。


「ウォルゼイン……あんた、やっぱり凄いわ。こんなに美味しいものを知っていたなんて」


アリシアは、麻婆豆腐の辛さで少し赤くなった唇を拭い、隣で微笑むウォルゼインを熱っぽい瞳で見つめた。

「美味しいものを食べると、本当にみんな笑顔になるのね。私、この味を一生守り抜く。この国を、世界で一番『美味しい』国にするわ!」


食卓には、かつての戦場の緊張感など微塵もなかった。

十人の使徒と一人の女王、そして彼らを導く賢者。彼らの絆は、ミレーヌのソースよりも濃く、ハナの米よりも粘り強く、今夜さらに深く結ばれたのだった。



至高の晩餐会を経て、アリシアとウォルゼインは次なる「味覚の版図」を広げるべく、王宮の温室へとハナを訪ねた。


「ハナ、先日の麻婆豆腐に使った刺激と香り……あれをもっと力強く、そして多様にするために、君の力が必要なんだ」


ウォルゼインの言葉に、ハナは力強く頷いた。彼女の「土の声を聞く耳」とアリシアの「時間加速の理」を組み合わせ、新たな香辛料の増産プロジェクトが始動した。


まず着手したのは、料理の魂とも言える五大香辛料だ。ハナは土の精霊と対話し、栄養を極限まで凝縮させた**「にんにく」と、瑞々しくも鮮烈な辛みを持つ「生姜」の広大な畑を一夜にして仕立て上げた。さらに、痺れる刺激の「山椒」、香りの王様「胡椒」、そして真っ赤に燃えるような「唐辛子」**。これらが第2ローゼライトの豊かな大地を埋め尽くすと、風に乗って刺激的な香りが国境を越えて漂い、周辺国の人々を驚かせた。


「土たちが言っています。もっと熱く、もっと刺激的に育ちたいって! 賢者様、これがあればミレーヌさんのジャンはもっと美味しくなりますね!」


ハナの弾けるような笑顔と、作業着から溢れんばかりの生命力に圧倒されつつも、アリシアは次に「酔いの文化」の構築を宣言した。


「ミレーヌの造った酒を、さらに高みへと引き上げるわ。……ウォルゼイン、あなたの知る『黄金の液体』を形にしましょう」


アリシアはアイテムボックスから、浄化した帝都の魔導鋼を取り出し、巨大な蒸留機を一括錬成した。

まず、ハナが南方の温暖な領土で育て上げた**「砂糖黍さとうきび」。これを絞り、精製して「砂糖」を量産する傍ら、その副産物から情熱的な琥珀色の「ラム酒」を蒸留。

次に、ハナの米を原料とした清らかな「醸造酒」。それをさらに磨き上げ、キレのある「焼酎」へと昇華させた。

そして、厳選された大麦をピートの香りで燻し、オークの樽で熟成を早めた至高の「ウィスキー」**。アリシアが樽の中に時間の精霊を閉じ込めることで、本来なら数十年を要する深い熟成が、わずか一晩で完了した。


「……これが、ウィスキー。なんて深くて、複雑な香りなの」


完成したばかりの琥珀色の液体をグラスに注ぎ、アリシアはその香りに目を細めた。

にんにくや生姜が効いた刺激的な料理を、焼酎やラム酒が力強く受け止める。あるいは、食後の静かなひと時に、深いウィスキーを傾ける。


「カトリーナ! この酒と香辛料を、世界中に運びなさい。ローゼライトの刺激と酔いに、世界が跪くことになるわ」


カトリーナは、その妖艶な身体を揺らして、計算高い、けれど確かな期待に満ちた笑みを浮かべた。

「刺激的なスパイスに、魂を揺さぶる美酒……。陛下、これこそが歴史を動かす最強の『武器』になりますわね」


物流、食、農、そして酒。

アリシアの統治は、もはや単なる支配ではなく、人類の感覚を根底から書き換える「文化の爆発」へと突入していた。彼女は隣で誇らしげに見守るウォルゼインの腕に、そっと自分の腕を絡める。


「ウォルゼイン、今夜は二人で……新しいお酒の試飲をしましょう? あなたの故郷の話を、もっと聞かせてほしいの」


頬を朱に染めた女王の誘いに、夜の王宮は芳醇な酒の香りに包まれていった。



王宮の特別工房では、紡織顧問のリネットと仕立顧問のソフィが、最新の試作服を前に深刻な表情で頭を抱えていた。そこに、視察に訪れたアリシアとウォルゼインが姿を現す。


「どうしたの、二人とも。何か足りない素材でもあるのかしら?」


アリシアの問いに、二人は顔を見合わせると、意を決したように身を乗り出してきた。二人の豊かな胸元が作業机に押し付けられ、職人としての熱を帯びた吐息が漏れる。


「陛下……今の綿や羊毛、精霊の糸も素晴らしいのですが、どうしても『究極の強度と光沢』を両立させる素材が足りないのですわ」

「ええ。遥か北の果て、魔境の深部に棲まうという幻の蜘蛛魔獣『アラクネ・レギナ』。彼女が吐き出す、魔力を帯びた銀糸さえあれば……賢者様の身を守り、なおかつ肌に吸い付くような究極の戦闘正装が仕立てられるのですけれど」


二人の切実な、そしてどこか官能的な「糸」への渇望。その視線がウォルゼインの体格をなぞるのを見て、アリシアは一瞬だけ嫉妬の火花を散らしたが、すぐに女王としての決断を下した。


「わかったわ。その糸、私が手に入れてあげる。……十人の使徒、全員ここに集まりなさい!」


アリシアの号令で、ベネディクトを筆頭とする十人の精霊使徒が即座に集結した。かつては戦場を駆けた彼らも、今や王国の守護者にして各分野の長だ。


「ベネディクト、エルザ、皆。北の魔境へ飛び、『アラクネ・レギナ』を狩りなさい。ただし、ただ倒すだけではダメよ。リネットたちが求める最高の品質を保つため、生け捕りにしてその銀糸を余さず回収してくること。これはローゼライト王国の『装束革命』のための、最優先任務よ!」


「御意に、陛下! 糸を吐く魔物一匹、我ら十人の敵ではございませぬ!」


ベネディクトが豪快に笑い、使徒たちは「アクセル」と「ウィンド・フライ」を併用して一斉に北の空へと飛び立った。

数刻後、魔境の奥深くでは、十人の使徒による圧倒的な「連携」が繰り広げられた。魔獣が吐き出す粘着糸をカイルの風が切り裂き、ミラの闇が視界を奪い、ベネディクトがその巨体を軽々と抑え込む。


「悪いが、我らが女王と職人たちのリクエストだ。糸を全て提供してもらうぞ!」


使徒たちが持ち帰ったのは、月光のように輝く巨大な銀糸の繭と、アリシアの魔力で「大人しく糸を吐き続ける家畜」へと再構成された魔獣の苗床だった。


「これよ……! この弾力、この透明感! 陛下、ありがとうございますわ!」


リネットは歓喜に震えながら糸を紡ぎ始め、ソフィは既にウォルゼインをモデルにした「次世代魔導礼装」のデザイン画を猛烈な勢いで描き始めた。


「ウォルゼイン、楽しみにしていて。あなたが世界で一番格好良くて、安全で、そして……私が見惚れてしまうような服を作らせるから」


アリシアは隣で微笑むウォルゼインの腕をぎゅっと抱きしめ、職人たちの熱気に包まれた工房で、自慢の使徒たちの武功を誇らしげに讃えた。


旧帝国の都を飲み込み、美しく再編されたはずの「新星の都」。しかし、華やかな白亜の街並みの影には、いまだ根深い闇が潜んでいた。かつて帝国の圧政やアリシアたちによる殲滅戦で命を落とし、未練と怨嗟に囚われたまま成仏しきれない魂たちが、夜な夜な実体を持った「アンデッド」として徘徊し、罪なき領民を襲う事件が多発していたのだ。


「十人の使徒よ、浄化の理を以て、迷える魂を眠りにつかせなさい!」


アリシアの号令の下、ベネディクトら十人の使徒が夜の街を駆けた。グスタフの「聖属性崩壊魔法」が腐乱した死体を光の粒子へ還し、ミラの闇が影に潜む亡霊を切り裂く。使徒たちの圧倒的な武力により、物理的な被害は最小限に食い止められた。


しかし、戦いを終え、夜明けのバルコニーに立ったアリシアの表情は晴れなかった。彼女は、隣で静かに夜景を見つめるウォルゼインに、不安を吐露するように相談を持ちかけた。


「……ウォルゼイン。十人の使徒は確かに強いわ。でも、彼らは一人ひとりが王国の枢要を担う顧問や長なの。今回のような不意の事態に、彼ら最高戦力をその都度駆り出すのは、防衛体制としてあまりに脆すぎるわ。もし同時に、複数の都市で同じような事態が起きたら……私たちの手が届かない場所で、民が犠牲になってしまう」


アリシアは、自らの白く繊細な指を握りしめた。


「十人の使徒、そして私とあなた。少数の超個人の力に頼り切った防衛には限界がある。この広大な領土と三百万を超える民を、常時、あまねく守り抜くための『自律した防衛力』が必要なのよ。……ねえ、ウォルゼイン。魔力と知恵で、個人の強さに依存しない『鉄壁の仕組み』を創ることはできないかしら?」


アリシアの琥珀色の瞳には、女王としての責任感と、愛する民を一人も失いたくないという切実な願いが宿っていた。


ウォルゼインは、アリシアの不安を受け止めるようにその肩を優しく抱き寄せ、静かに、しかし確信に満ちた声で答えた。


「そうだね、アリシア。個の武勇ではなく、システムの英知。……君の持つ膨大な魔力と、僕の知る『自律思考型』の技術を合わせれば、この国に不眠不休の守護神を授けることができる。……かつての帝都の遺産を、破壊ではなく、守護のための『自動防衛機構』へと作り変えよう」


ウォルゼインの提案に、アリシアの瞳に希望の火が灯った。二人の新たな「理」による、王国の防衛革命が始まろうとしていた。


王宮の演練場に、新生ローゼライト王国が誇る全騎士団員が集結した。その数は、旧帝国の残党から登用された清廉な兵と、新たに志願した若者たちを合わせて数万に及ぶ。最前列には、白銀の鎧を纏った騎士団長ベネディクトが、岩のように揺るぎない威容で立っていた。


アリシアは、ウォルゼインと共に高台から彼らを見下ろした。


「ベネディクト、そして騎士団の諸君。あなたたちはこれまで、己の肉体と剣で民を守ってきた。けれど、これからのローゼライトは、個人の限界を超えた『聖なる武力』を必要としているわ。……ウォルゼイン、始めましょう」


アリシアが両手を天に掲げると、王国の空を覆い尽くさんばかりの巨大な黄金の魔法陣が展開された。それはウォルゼインの構築した「理」を、アリシアの膨大な魔力で全騎士へ一括ダウンロードするための、超広域概念変容術式だ。


「ベネディクト! 騎士たちの魂を繋ぎなさい! 全員へ、聖なる光の刻印を!」


「御意! 騎士団全員、女王陛下の恩寵を、その身に刻めッ!」


ベネディクトの咆哮と共に、魔法陣から無数の光の筋が降り注いだ。それは騎士たちの心臓、そして彼らが手にする剣や槍へと吸い込まれていく。


『スキル「自律型聖光武装ホーリー・オートシステム」を全騎士団員にインストール完了』


脳内の声が完了を告げると、騎士たちの身体から一斉にまばゆい白光が溢れ出した。

彼らの装備は今、ただの鉄塊ではなく、アリシアの魔力と直結した「自律型魔導兵器」へと進化したのだ。


「……信じられん。力が、知恵が、身体に流れ込んでくる……!」


騎士たちが驚愕の声を上げる。彼らは今、個人の技量に関係なく、特定の状況下で自動的に最適な光魔法を発動できるようになった。

アンデッドを視認すれば、指先や剣先から邪悪を穿つ**「ホーリーバレット」が放たれる。

味方の傷を感知すれば、柔らかな光の弾丸「ヒールバレット」が着弾して瞬時に再生を促す。

そして、淀んだ空気や呪いに対しては、空間そのものを洗浄する「ピュリフィケーションバレット」**が自動射出されるのだ。


さらに、アリシアは彼らの肉体そのものにも「理」を刻んだ。

神経を加速させ、弾丸のような速度で動くことを可能にする**「アクセル」。

そして、筋力と耐久力を極限まで引き上げ、重戦車をも素手で押し返す「マッスル」**。


「ベネディクト、試してみなさい」


アリシアの言葉に、ベネディクトが軽く踏み込んだ。その瞬間、彼の姿が残像すら残さずにかき消え、次の瞬間には演練場の端にある巨大な岩石が、彼の「マッスル」を乗せた一拳で粉々に砕け散っていた。同時に、周囲に展開していた模擬標的のアンデッド人形へ、無数の「ホーリーバレット」が全騎士から寸分違わず撃ち込まれた。


「……素晴らしい。これならば、一人の騎士が一個師団に匹敵する。陛下、我らローゼライト騎士団、これより不眠不休の守護神となり、一匹の亡霊、一つの邪悪も逃さぬことを誓いましょう!」


ベネディクトが力強く剣を掲げると、数万の騎士たちがそれに応じ、黄金の光が都を昼間のように照らし出した。

防衛力不足の不安は消え去った。アリシアは、自分を支えてくれたウォルゼインの手をそっと握り、誇らしげに微笑んだ。


「ありがとう、ウォルゼイン。これで私の騎士たちは、世界で一番優しくて、一番強い守護者になったわ」


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