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理を極めた俺、異世界で女王を最強に育てたら国ごと無双してしまった  作者: 慈架太子


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第3章 反撃の狼煙 (属性付与と灰色の砦)

平原を包んでいた神聖な光が収束し、ウォルゼインは最後の一歩として、世界の裏側に潜む力をアリシアに示した。


「光を知ったのなら、その対極にある『影』も理解しなければならない。最後は闇の精霊『シャドウ』をイメージしろ。アリシア、闇とは単なる暗闇じゃない。それは万物を包み込む静寂であり、あらゆる事象を停止させ、飲み込む深淵の力だ」


ウォルゼインは「概念伝達」を通じて、前世の記憶にある「事象の地平線」や「絶対零度」、そして「不可視の束縛」の概念を彼女の精神へ流し込んだ。


「闇の精霊シャドウの姿――形を持たず、光さえも逃げられない底なしの虚無を思い描け。魔力を『負の質量』へと変換するんだ。イメージは、光を吸い込み、触れたものの運動エネルギーを奪い去る死の静寂だ」


アリシアが深く自身の内側へと意識を沈めると、周囲から色が失われ、足元の影が生き物のように蠢き始めた。彼女の「精霊眼」は、光のない暗部の中にさえ、蠢く精霊たちの微かな輪郭を捉えていた。


「……とても静かだわ。すべてが吸い込まれて、消えていく感覚……」


「その虚無を三つの形に固定しろ。着弾した瞬間に周囲の物質を削り取る『ダークバレット』。影の中から不意打ちを食らわせる、視覚を欺く『シャドウバレット』。そして、相手の影を縫い付け、物理的・魔力的な自由を奪う『バインドバレット』だ!」


アリシアが右手をかざすと、光を反射しない漆黒の球体が形成された。


「いけっ……ダークバレット!」


放たれた黒い弾丸は、標的の岩石を「破壊」するのではなく、触れた部分を「消失」させた。そこには完璧な円形の穴が空き、削り取られた質量は塵一つ残っていない。続けて、彼女は周囲の影を操る。


「シャドウバレット……バインドバレット!」


不可視の速度で飛来する影の弾丸が空間を横切り、同時に地面から伸びた黒い鎖のような魔力が、残された岩の破片を逃さぬよう強固に縛り上げた。


『スキル「教育」により、対象者が「ダークバレット」「シャドウバレット」「バインドバレット」を習得しました』


脳内の声が、全属性の習得を告げる。


「……光と闇。これで、すべての精霊が私の中で調和した気がする。ウォルゼイン、あなたに会わなければ、私は自分の瞳にあるこの力に怯えたまま死んでいたわ」


アリシアは静かに手を下ろすと、深みのある琥珀色の瞳でウォルゼインを見つめた。その瞳には、かつての「弱き女王」の面影はなく、世界の理をその身に宿した「精霊術師」の風格が漂っていた。


「上出来だ、アリシア。火、水、風、土、光、そして闇。これで全属性をコンプリートだ。あんたなら、どんな困難もその手で切り拓けるはずだぜ」


ウォルゼインは満足げに笑い、地平線の彼方へと視線を向けた。

「さて。これだけ派手な修行をしたんだ、帝国の鼻利きどもも放っておかないだろう。……アリシア、新しい力の実践を兼ねて、『灰色の砦』まで一気に移動しようか。何か面白い『乗り物』のイメージ、あるか?」



平原を渡る風が、アリシアの纏う魔力の余韻でわずかに震えていた。ウォルゼインは、自らの腰にあるボロボロの剣を抜き放ち、その切っ先をアリシアに向けた。


「弾丸として放つのは覚えたな。だが、あんたは騎士だ。その力を剣に宿し、刃の一部として制御してみろ。属性を『纏わせる』んだ」


ウォルゼインは「概念伝達」を使い、それぞれの属性が刃に宿った際の「物理的な変化」のイメージを彼女の脳裏に刻み込む。


「火は、切断ではなく『焼き切る』イメージだ。水は、刃に超高圧の流体を纏わせる。風は、目に見えない真空の刃を一回り大きく延長しろ。土は、剣の質量を増大させ、一撃で城門をも砕く剛剣へと変える。光は、あらゆる防御を透過し分子レベルで消滅させる閃光。闇は、触れたものの魔力と生命力を吸い取る深淵だ」


アリシアは頷き、自身の愛剣の柄を強く握り締めた。彼女の「精霊眼」が、周囲に漂う精霊たちを呼び寄せ、剣身へと編み込んでいく。


「……火!」

剣が紅蓮の炎を噴き上げ、大気を焦がす。

「……水!」

炎は一瞬で消え、刃の周囲を激しく渦巻く水の膜が覆う。

「……風、土、光、闇!」

彼女が呟くたびに、剣は緑の旋風を纏い、岩石のような重量感を放ち、純白の熱線へと変じ、最後には周囲の光を吸い込む漆黒の牙となった。


「いいぞ。だが、本当の応用はここからだ。水の派生を試せ。氷、熱湯、蒸気……。この違いが、戦場での生死を分ける」


ウォルゼインの言葉に応じ、アリシアはさらにイメージを研ぎ澄ませた。


「氷……アイス・エンチャント!」

剣身が凍てつき、周囲の水分が結晶化して美しくも冷酷な氷の長剣へと変化した。触れた瞬間に相手を凍結させ、脆く砕く刃。

「熱湯……ボイル・エンチャント!」

氷は瞬時に溶け、刃の周囲で激しく沸騰する熱水が踊る。切り裂くと同時に傷口を熱傷で苛み、苦痛を与える。

「蒸気……スチーム・エンチャント!」

最後は、刃から超高温の白煙が噴き出した。間近で見れば、熱を帯びた蒸気が相手の感覚を狂わせ、目に見えぬ熱の圧力が広範囲を焼き払う。


『スキル「教育」により、対象者が「全属性付与エレメンタル・エンチャント」を習得しました』


「……すごいわ。ただの剣が、属性を纏うだけでこれほどまでに『性質』を変えるなんて。ただ斬るだけじゃなく、相手や状況に合わせて、無限の戦い方ができる……」


アリシアは、属性の光が明滅する自らの剣を見つめ、そのあまりの万能性に畏怖すら覚えていた。ウォルゼインは満足げに頷き、彼女の成長を確信した。


「火、水、風、土、光、闇、氷、熱湯、蒸気。これらすべてが、これからのあんたの『手足』だ。……さて、いいタイミングだぜ、アリシア」


ウォルゼインは「サーチング」で捉えていた反応が、すぐ近くまで迫っていることを告げた。地平線の向こうから、重厚な機械音が平原を揺らし始めている。帝政ギルバニアの魔導兵器部隊だ。


「新しい剣の味見には、ちょうどいい相手が来た。……行こうか、女王陛下」



平原の地平線が、鉄の軋みと魔力の唸りによって歪み始めた。帝政ギルバニアの魔導兵器部隊――魔導炉を搭載した鋼鉄の巨躯が、土煙を上げて接近してくる。その数、およそ一個大隊。


ウォルゼインは焦る様子もなく、隣に立つアリシアの肩に手を置いた。


「アリシア、敵は硬い鋼鉄だ。今の属性剣でも斬れるが、さらに上の次元へ行くぞ。前世の知識にある『肉体の限界突破』をイメージしろ。魔力を燃料に、細胞の出力を強制的に引き上げるんだ」


ウォルゼインは「概念伝達」を通じ、二つの新たな身体操作イメージを彼女の脳裏に刻み込んだ。


「まずは『アクセル』。神経伝達速度を加速させ、時間の流れを遅く感じるほどの超反応を得るイメージだ。次に『マッスル』。筋繊維の一本一本に魔力を通し、鋼をも引き千切る爆発的な剛力を宿す。……いくぞ」


アリシアが深く息を吸い込むと、彼女の周囲の空気がパチパチと放電を始めた。


「身体強化――『アクセル』! 『マッスル』!」


彼女の四肢に、血管を模した魔力の光が走り、しなやかだった筋肉が鋼のような密度へと変貌する。彼女の「精霊眼」は、迫りくる魔導兵器の関節部の動き、魔導炉の脈動、そして弾丸の軌道をスローモーションのように捉えていた。


「……世界が、止まって見えるわ」


「なら、殲滅だ。全属性を解禁しろ」


アリシアが地面を蹴った。ドォォン! と爆音を立てて大地が爆ぜ、彼女の姿は一瞬で消えた。


次の瞬間、先頭を走っていた巨大な魔導戦車の正面に彼女が現れた。アリシアは剣を構え、属性を高速で切り替える。


「まずは……『土』と『マッスル』!」


超質量の重圧を宿した一撃が魔導戦車の正面装甲を叩き、紙屑のようにひしゃげさせた。続けて、彼女は『アクセル』の超速移動で敵陣の真っ只中へと飛び込む。


「『風』と『氷』――円舞!」


彼女が旋回すると、周囲に真空の刃と絶対零度の冷気が吹き荒れた。帝国の魔導兵士たちは、何が起きたのか理解する間もなく、肉体と魔導鎧を同時に氷結・切断され、物言わぬ氷像へと変わっていく。


さらに、後方から放たれた魔導カノンの砲撃に対し、アリシアは空中で『光』の属性を剣に宿した。


「『ホーリーバレット』・一閃!」


光速の斬撃が、飛来する砲弾を空中で正確に両断し、そのままの勢いで後方の魔導兵器群を分子レベルで消滅させた。爆炎と閃光が平原を埋め尽くすが、アリシアの『アクセル』による回避と『マッスル』による防御の前では、帝国の誇る最新兵器も木偶の坊に過ぎなかった。


わずか数分の出来事だった。

かつて彼女を追い詰めた帝国の精鋭部隊は、今やスクラップと化した鉄屑の山として平原に転がっている。


『スキル「教育」により、対象者が「身体強化:アクセル」「身体強化:マッスル」を習得しました』

『帝政ギルバニア斥候大隊、殲滅を確認』


ウォルゼインは、返り血一つ浴びずに戻ってきたアリシアを満足げに迎えた。

「上出来だ。これなら『灰色の砦』まで、最短距離で突き進めるな」


アリシアは剣を収め、自身の手に宿る余熱を見つめた。

「……これが、私の力。いいえ、あなたがくれた『イメージ』の力なのね。もう、逃げるだけの女王じゃないわ」


二人は破壊された鉄の山を背に、遥か南の地平線へと歩み出した。


平原に転がる鋼鉄の残骸から黒煙が立ち昇り、静寂が戻る。ウォルゼインは、自身の手に宿る力を確かめるように拳を握りしめているアリシアへ歩み寄り、不敵な笑みを浮かべてその肩を叩いた。


「見たか、アリシア。これであんたは、ただの『亡国の女王』じゃない。世界一の魔導士であり、騎士であり、そしてあらゆる理を刃に宿す付与術士だ。断言してやる。今のあんたに正面から勝てる奴なんて、この世界にはもう一人もいない」


アリシアは自分の手を見つめ、それから背後に広がる殲滅の跡を見やった。かつて自分を絶望の淵に突き落とした帝国の魔導部隊が、今はただの鉄屑として転がっている。彼女の琥珀色の瞳には、もはや怯えや迷いは微塵もなかった。


「……世界一。あなたがそう言ってくれるなら、本当にそうなれる気がするわ、ウォルゼイン。あなたがくれたこの『イメージ』と、私の『精霊眼』があれば、どんな不可能な壁だって切り裂いていける」


彼女は、先ほどまでの激戦で乱れた銀髪をかき上げ、凛とした表情で前を見据えた。その姿は、失われた国を嘆く王女ではなく、自らの手で新たな時代を切り拓こうとする、絶対的な強者のそれだった。


「さあ、行こう。あんたの国を奪い、その瞳を狙った連中に、本物の『女王の帰還』を教えてやるんだ」


ウォルゼインがそう告げると、アリシアは力強く頷いた。二人の視線の先には、南の空にそびえる険しい山脈と、その向こうにある「灰色の砦」が待っている。


「ええ。私たちの旅は、ここからが本番ね」


平原の掃除を終えたウォルゼインは、次なる旅の行程を見据え、アリシアに新たな「理」を伝達した。


「よし、後始末は完璧だ。次は移動だが、ただ歩くのは時間の無駄だ。アリシア、重力から解き放たれるイメージを持て。前世の物理学で言えば、揚力と推力を魔力で生み出すんだ」


ウォルゼインは「概念伝達」を通じて、浮遊魔法**『レビテーション』**の核となる「質量の軽減」と、風魔法を推進力に変える「ジェット噴射」のイメージを彼女の脳裏に焼き付けた。


「まずはレビテーションで体を浮かせろ。そこに風魔法を薄く、鋭く纏わせるんだ。空気抵抗をゼロにし、風そのものとなって空を駆けるイメージ……名付けて『ウィンド・フライ』だ」


アリシアが自身の魔力を風の精霊シルフィードと同調させると、彼女の身体は羽毛のように軽くなり、足元から巻き起こる旋風が彼女を宙へと押し上げた。


「……飛んでいるわ、ウォルゼイン! 世界がこんなに低く見えるなんて!」


「感動している暇はないぞ。南の『灰色の砦』へ向かう道中、ついでに路銀稼ぎだ。目標は魔物1000体。だがその前に、効率よく稼ぐための『道具』を授ける」


ウォルゼインは再び彼女の意識にダイレクトにイメージを流し込んだ。それは、四次元的な広がりを持つ亜空間ストレージ**『アイテムボックス』と、対象の構造を瞬時に分解する『解体魔法』**の概念だ。


「アイテムボックスは、この世界のどこにもない『隙間』に荷物を置くイメージだ。容量はあんたの魔力量次第だが、今のあんたなら山一つ分は入る。そして解体魔法は、魔力の刃を細胞の隙間に滑り込ませ、一瞬で肉・骨・皮を分離する外科的処置だ。獲物を倒した瞬間に『ボックスへ収納・解体』を一連の動作で行うんだ」


アリシアは力強く頷き、空中で鋭い旋回を見せた。

「わかったわ。収納、解体……そして殲滅ね。やってめるわ!」


『スキル「レビテーション」「アイテムボックス」「解体魔法」を取得しました』


脳内に響く無機質な声と共に、アリシアの中で新たな力が定着する。二人は風を切り裂き、南への進路をとりながら眼下の原生林へと急降下した。


修行を終え、全属性を統べる「精霊術師」へと進化したアリシアにとって、並の魔物はもはや敵ですらなかった。彼女は上空から「精霊眼」で数キロ先の獲物を捉え、爆撃を開始した。


「『ウィンドバレット』、多重展開!」


不可視の風の弾丸が雨あられと降り注ぎ、森に潜むオークやワイバーンの群れを瞬時に絶命させていく。そして倒れると同時に、彼女の魔力が対象を包み込み、アイテムボックスへと吸い込まれていく。ボックスの中では、ウォルゼイン直伝の解体魔法が走り、一瞬で「高純度の魔石」と「加工済みの素材」に仕分けられていった。


『討伐・解体数:100体……500体……800体……』


脳内のカウントが凄まじい勢いで跳ね上がる。アリシアは「アクセル」による超速思考で、空中にありながら地上を完全に支配していた。「ライトニングバレット」の一閃が森を貫くたびに、膨大な路銀が彼女のストレージに積み重なっていく。


『目標1000体、討伐および完全解体・収納を完了しました』


わずか数刻。1000体の魔物を瞬時に資源に変えたアリシアは、空中で優雅に静止し、満足げに笑った。


「ウォルゼイン、これであんたは世界一の魔導士であり、騎士であり、付与術士だ。さらに一国を支えられるほどの富を持つ『歩く宝物庫』でもある。あんたに勝てる奴なんて、この世界にはもう一人もいない」


ウォルゼインがそう告げると、アリシアは琥珀色の瞳を輝かせ、不敵に微笑んだ。その視界の先、峻烈な山脈の麓に、数万の帝国軍に包囲された「灰色の砦」が姿を現した。


「行きましょう。私の仲間たちに、最高の『お土産』と『絶望からの解放』を届けてあげるわ!」


二人は雷光のごとき速度で、包囲網の真上から砦へと突入を開始した。



眼下に広がる「灰色の砦」を包囲するのは、帝政ギルバニアが誇る鋼鉄の軍勢――数万の歩兵、魔導鎧、そして無数の魔導戦車だ。絶望に沈む砦の守備隊を嘲笑うかのように、敵本陣からは総攻撃の合図となる咆哮が轟いていた。


「アリシア、遠慮はいらない。あんたの新しい力を、奴らの傲慢ごと叩きつけてやれ」


「ええ……。もう、誰一人として私の民を傷つけさせないわ!」


ウォルゼインの言葉に応じ、アリシアは上空で両手を広げた。彼女の琥珀色の瞳が全属性の魔力を収束させ、黄金の輝きを放つ。その背後には、火、水、風、土、光、闇――すべての精霊たちが嵐のように渦巻いていた。


「全属性複合魔法――『精霊の審判(エレメンタル_レクイエム)』!」


彼女が放ったのは、魔法の域を超えた「事象の崩壊」だった。上空から降り注ぐのは、ただの魔法弾ではない。

真空の刃が魔導戦車を縦に割り、絶対零度の冷気が兵士たちを瞬時に氷像へ変え、紅蓮の劫火が鋼鉄をドロドロの流体へと変質させる。さらに、一点の淀みもない輝きを放つ**「ホーリーバレット」**が幾千もの光の筋となって地上を薙ぎ払い、逃げ場を失った数万の帝国軍を、その最新兵器ごと分子レベルで消滅させていった。


数万の軍勢が、悲鳴を上げる暇もなく、わずか数分で静寂へと変わる。アリシアは「アクセル」による加速を解き、静かに戦場を見下ろした。


「次は、掃除ね。ウォルゼイン、教えてくれた通りに……」


彼女は再び右手をかざした。精霊眼が捉える戦場には、膨大な鉄屑と、かつて侵略者だった者たちの残骸が転がっている。


「ピュリフィケーション、そして――一括錬金分解!」


凄まじい純白の光が戦場全体を覆い尽くした。魔導戦車や魔導鎧の残骸が、アリシアの意志に従って構成物質ごとに分解されていく。不純物は光の中に消え、純粋な魔導銀や剛鋼の成分だけが空中で渦を巻き、やがて数万の整然とした「インゴット」へと姿を変え、アリシアの「アイテムボックス」へと吸い込まれていった。


同時に、残された兵士たちの遺体もまた、闇の精霊によって分子レベルで分解され、証拠一つ残さず大気へと還っていく。血の臭いすら消え失せ、そこには最初から軍勢など存在しなかったかのような、清浄な大地だけが残された。


『スキル「広域錬金」により、魔導インゴット×50,000、高純度魔力結晶×12,000を回収。敵軍数万の消滅を確認』


脳内に響く声。アリシアは静かに着陸し、呆然と砦の城壁から自分たちを見つめる「生き残りの仲間たち」へと歩み寄った。


「アリシア様……? まさか、本当に……?」


震える声で問いかけるかつての臣下たち。アリシアは不敵に微笑み、ウォルゼインの隣で胸を張った。


「ええ、戻ったわ。最強の軍勢と、最高の相棒を連れてね」



「灰色の砦」の生存者たちに最低限の物資を渡すと、ウォルゼインとアリシアは一旦砦を離れ、最寄りの商業都市にある冒険者ギルドへと向かった。膨大な戦利品をそのまま砦で使うのもいいが、まずは現金を確保し、この世界の市場価値を把握しておく必要があるからだ。


ギルドの重厚な扉を開け、二人は査定窓口へと向かった。アリシアが「アイテムボックス」から取り出したのは、道中で狩った1000体の魔物の素材、そして帝国軍の残骸から精錬した魔導インゴットの山だ。


「……な、なんですかこれは!?」


若い受付嬢の悲鳴に近い声が響き、ギルド内が静まり返る。奥から慌てて出てきたベテランの査定官が、震える手で魔石を手に取った。


「これほどの数、しかもすべて完璧な『解体魔法』で処理されている……。それにこの魔導インゴット、純度が異常だ。帝国製の最新兵器を溶かしたとでもいうのか……?」


ウォルゼインは冷ややかな笑みを浮かべ、カウンターを軽く叩いた。

「驚くのは後にしてくれ。全部買い取ってもらう。ただし、適当な言い値で済ますつもりはない。詳細な査定見積書を要求する。項目ごとに数量、品質、単価をすべて記載しろ。端数まで誤魔化すなよ」


数時間後、ギルドの全スタッフを総動員して作成された見積書が、数枚の書面にわたって提出された。


【冒険者ギルド・査定見積書】

1. 魔物素材・魔石部門


ワイバーンの魔石(特級):50個 / 単価 1,200,000G / 小計 60,000,000G


ハイオークの牙・毛皮:300セット / 単価 45,000G / 小計 13,500,000G


その他 B?Cランク魔物素材一式:650体分 / 一括査定 28,000,000G


2. 金属資源部門


高純度魔導銀インゴット:1,000kg / 単価 200,000G/kg / 小計 200,000,000G


帝国式強化剛鋼インゴット:49,000kg / 単価 15,000G/kg / 小計 735,000,000G


3. 特殊素材部門


高純度魔力結晶:12,000個 / 単価 10,000G / 小計 120,000,000G


【総合計金額】 1,156,500,000G(十一億五千六百五十万ゴールド)


「……ギルド始まって以来の額です。正直、今すぐ全額を現金で用意するのは不可能です。一部はギルド発行の金貨手形でもよろしいでしょうか?」


査定官が額の汗を拭いながら懇願する。ウォルゼインはアリシアと視線を交わした。この金があれば、砦の再建どころか、一から最新鋭の軍備を整え、独立国家を築くことさえ容易だ。


「構わない。ただし、手形はこの大陸全土で即座に換金できる『共通手形』にしろ。それと、これだけの素材を市場に流すんだ。相場が崩れないよう、少しずつ放出しろよ。……わかったな?」


「は、はい! 承知いたしました!」


ギルドを出た二人の手には、莫大な資産を示す手形と、重厚な金貨の袋が握られていた。アリシアは清々しい顔で空を見上げた。


「ウォルゼイン、これで準備は完璧ね。次は何をしましょうか?」




ギルドの査定官が提示した「全額払えない」という泣き言に対し、ウォルゼインは机を叩き、冷徹な一言を放った。


「ふざけるな。一ギルドの都合など知ったことか。……すぐに銀行へ行って融通して来い。この街の銀行が足りないなら、隣の街、あるいは王都の支店からでも今すぐ金貨をかき集めてくるんだ。あんたらにそれができないなら、今この瞬間にすべての素材を持って別の街のギルドへ行くが、どうする?」


ウォルゼインの威圧感に、査定官は腰を抜かさんばかりに震え上がった。これだけの素材とインゴットを他所の街に持っていかれ、あまつさえ「支払能力がない」と悪評を立てられれば、このギルドは破滅する。


「ひ、ひぃっ! も、申し訳ございません! すぐに、すぐに商業銀行の頭取と交渉して参ります! 各地のギルド支部の予備金もすべてこちらの窓口に回すよう手配いたしますので……!」


査定官は転がるようにしてギルドを飛び出していった。それから数時間。ギルドの裏手には次々と厳重な警備の馬車が到着し、防壁の向こう側から大量の金貨袋が運び込まれてきた。


銀行側も、これほど大量の高純度魔導インゴットが市場に出る(=担保になる)と聞き、必死の思いで近隣一帯の現金をかき集めてきたのだ。


夕暮れ時、窓口には再び見積書と、約束通りの支払内訳書が並べられた。


【最終支払明細書】

現金(白金貨・金貨):500,000,000G


大陸共通・即時換金保証手形:656,500,000G


支払手数料(銀行融通費):ギルド側全額負担


「……ご要望通り、今用意できる限りの現生げんなまを揃えました。残りは、どの国のどの銀行でも即座に現金化できる特別保証手形です。これで……これでご容赦いただけますでしょうか」


汗だくの査定官が差し出した重みのある革袋を、ウォルゼインはアリシアに目配せして「アイテムボックス」へと納めさせた。


「……いいだろう。手間を取らせたな」


ギルドを後にした二人の足取りは軽い。アリシアのストレージには、今や一個国家の年間予算に匹敵する「戦費」が収められている。


「ウォルゼイン、本当に銀行を動かしちゃうなんて……。あんなに慌てた銀行員たち、初めて見たわ」


「交渉は力とハッタリだ、アリシア。さて、金は手に入った。これだけあれば、砦に籠る仲間たちに最高の食事と、最高の装備を与えられるな」


二人は再び「ウィンド・フライ」を起動し、夕闇に沈む「灰色の砦」へと、莫大な富を携えて凱旋した。




ギルドと銀行を屈服させ、莫大な軍資金を手にしたウォルゼインは、次なる一手をアリシアに指示した。


「金は手に入った。次は人心だ、アリシア。絶望していた仲間たちに必要なのは、理屈じゃない。腹一杯の飯と、明日への活力だ。街中の酒屋を回ってエールを二〇〇〇樽買い占めろ。肉はアイテムボックスにある千体の魔物肉がある。今夜は砦で盛大にぶちかますぞ」


二人は商業都市の在庫をさらってエールを確保し、再び「ウィンド・フライ」で空を駆け、夕闇に包まれた「灰色の砦」へと舞い戻った。


砦の広場に降り立つなり、ウォルゼインはアリシアに新たな課題を突きつけた。

「いいかアリシア、ただ肉を焼くだけじゃ芸がない。これだけの人数だ。最高の設備と道具で、最高の宴を演出してやれ。あんたが手に入れた『土』と『火』、そして『錬金分解』の応用だ」


ウォルゼインは「概念伝達」を通じ、前世の記憶にある「耐火レンガの構造」や「熱伝導率」、そして「ステンレスのような合金の質感」を彼女に流し込んだ。


「魔導インゴットの一部を分解し、再構成しろ。大人数が一度に焼ける巨大なグリル、汚れの落ちやすい金属皿、肉を切るための鋭いカトラリー、そしてエールを冷たく保つ重厚な魔導ジョッキ……すべてあんたの魔力で作るんだ。これは極限の魔力操作修行だぞ」


アリシアは頷き、集中を高めた。彼女の精霊眼が、地面の土とアイテムボックス内のインゴットの原子構造を捉える。


「……構成、分解、そして創造クリエイト!」


彼女が地面に手をかざすと、土が隆起して瞬時に耐火レンガの巨大な炉が十数基も組み上がった。続けて、空中に取り出したインゴットが流体のように形を変え、月明かりを反射する美しい銀色の皿やナイフ、フォークへと成形されていく。さらに、内側に微弱な氷精霊の力を編み込んだ、飲み物を常に冷やす「冷却魔導ジョッキ」が数百個、広場に並べられた。


『スキル「精密創造」「多重並列構成」を取得しました』


「すごい……! 頭を使うけれど、イメージした通りに形になるのがわかるわ!」


「いい集中だ。準備は整ったな」


アリシアが号令をかけると、絶望に沈んでいた兵士や民たちが驚愕の面持ちで広場に集まってきた。彼女は自ら巨大なグリルに「火」を灯し、解体済みの極上肉を並べていく。


香ばしい肉の焼ける匂いと、キンキンに冷えたエールの樽が並ぶ光景に、砦は一気に歓喜に包まれた。アリシアは宴の喧騒の中、一人ひとりに自作のジョッキでエールを注ぎ、肉を配り歩いた。


その間も、ウォルゼインの指示で彼女の「知覚」は研ぎ澄まされていた。

「酒を飲みながらでも意識を逸らすな。全員の気配を感じ、誰が空腹で、誰が傷ついているか、魔力の循環で把握し続けろ」


アリシアは笑顔で臣下たちと語らいながら、その裏で砦全体の気配を完全に支配していた。

『砦の人員:騎士52名、歩兵318名、避難民504名の完全把握を完了』


「ウォルゼイン、みんなの瞳に光が戻ったわ。私の作った皿で、私の作ったグリルで焼いた肉を食べて、みんなが笑っている……。これが、私の守りたかった光景なのね」


銀髪を火に照らしながら微笑むアリシアは、もはや悲劇の王女ではない。圧倒的な武力と富、そして臣下を慈しむ慈愛を兼ね備えた、真の女王の姿がそこにあった。


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