表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

偽りナシ

作者: 甘木 
掲載日:2026/01/08

「ねえ隆、これ見て。ちょっと面白そうじゃない?」


 彼女から手渡されたスマホの画面には、「解けない謎はあるのか」、「あなたは脱出出来ますか」などの挑戦的な煽り文句が並ぶSNSのサイトが写っている。


 彼女の名前は真琴、大学で同じゼミに居たのがきっかけで何となく付き合いが続いている。


 好奇心旺盛で、様々な人付き合いも多いのだが、一方で1つの物事に集中しだすと、打って変わって静かに物事の追求を続ける。


 そんな多面性が気になって言葉を交わし始め、交際がスタートしたのだが、今回はその好奇心旺盛なアンテナが新しい玩具を発見したらしい。


「これって体験型の脱出ゲームってやつ?」


 最近、テーマパークとかでも有名なキャラクターとコラボした体験型のアトラクションの話はよく聞く。


「どうせ、よくあるやつだ、とか思っているでしょ」


「まあね」


 そんな事はお見通しだ、と言わんばかりの問いかけに、ついやる気の無い返事をする。


「いいからちゃんと読んで見て。」


 本文の他はコメント、拡散数、高評価数等が並んでいるが、取り立てておかしな様子は無い。


 開催場所は、とあるイベント会場。どうやら期間限定で各地を巡回しているタイプらしい。


「あそこならわりと近いし、週末行ってみるか」


「他に感想は?」


 あまりにもしつこいその様子に、軽い違和感。


「どうして、そんなに気になるんだよ」


「いいからコメントをよく見てよ」

 

 仕方無しにもう一度、コメントをチェックしていく。


『挑戦しにいきます』


『楽しみ』


『うちの方にも来ないかな』等々


 ありふれたコメントばかりで新鮮味も何も無い。


「読んだけれど、普通じゃない?」


 その言葉を聞いた真琴の目が一瞬細くなり、妖しく光る。

 

 そんな時折見せる、猫の様な表情も彼女の魅力のひとつではある。


「このコメント欄、体験談がひとつも無いのよ」


 言われてみれば、行ってきたという体験談は無い。


「期待外れだったとか?」


「だったら普通にアンチがいるでしょ」


 とりあえず、その日はそれ以上の事は深く考えるのはやめて、別れたのだった。





「やっぱりおかしいって」


 翌日は取っている講義の関係で、合流したのは昼過ぎだった。


「何が?」


「他のみんなは、そんなメッセージ見た覚えは無いって言ってるのよ」


 そりゃあ人によって興味は様々だから、流れて来るメッセージもバラバラだろうし、気にならなければ本文を見る事も無いだろう。


「そんなに気になるなら、早めに確かめに行くか」


 午後からの予定は休講があった為に、割りと早い時間帯から余裕が出来ていた。


「本当にいいの?」


 一見、遠慮している様にも見えるが、こうなった時の真琴は止まらない事も承知している。


「じゃあ止めとく?」


「男に二言は無いんでしょ?」


 そう言って笑う姿は、仔猫がじゃれてくる姿を連想させる。


 結局言う事を聞いてしまう自分も大概甘いなと思いながら、午後の講義を受けるのだった。




「お待たせ」


 再度合流したのは、少し日が傾き始めた頃。


 サークルの方に顔を出してくると言って一旦別れたのだが、どうやら会話が弾んでいたらしい。


「遅くなったけれど、どうする?」


「善は急げっていうじゃない」


「急がば回れは?」


「逃した魚は大きいのよ」


 くだらない会話を続けながら、会場に辿り着く頃には、街並みが夕焼けの中に沈もうとしていた。


「逢魔が時か⋯⋯」


「なんだよ急に」


 普段、あまり聞いた事の無い真琴の口調は、すべてが曖昧に溶けていきそうな黄昏の中では、妙に真実味を増す。


「別に。何でもないよ」


 そう言いながら思わせぶりな表情から、いつもの快活そうな笑顔を見せる。


「あっ、あそこだ。早く」


 結局からかわれていただけか。そう思いながら後を追いかけた。



「いらっしゃいませ。2名様でよろしいですか?」


 平日の中途半端な時間帯の為か、全く待つ事も無く入り口をくぐる。


「2人ですけど、学割とか有ります?」


 意外としっかりしているんだな。


「お代でしたら、向こうの方で頂戴しますので」


 舞踏会でつける様なマスクを付けた受付が、指し示す方には、薄暗い穴が空いているのが見えた。


「ちょっと本当に大丈夫?」


 さすがに真琴も怪しいと思い始めたのか、訝しげな声を出す。


「もちろんですよ。」


 そう言いながら、受付は手元のタブレットを操作して、例のサイトを表示させる。


「この通り偽り無しですので」


 そこには、確かに謎解き、脱出、成功するかはあなた次第等の文字と共に、幾つかの数字が書かれているのが見えた。


「ねえ、これって、性別とか年代とか細かく分かれているのは⋯⋯」


 受付はタブレットを置くとひと言だけ告げた。


「後はその目でお確かめを」


 自分が覚えているのはそこまで。


 気が付くと入り口に見えた薄暗い穴が大きく拡がり、俺達を呑み込もうとしていた。


 


 

 

この作品は、一切告知も宣伝もしていません。

偶然、目に触れたそこのあなた。

『好奇心は猫をも殺す』というので、ご注意を……。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ