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読書好きの悪役令嬢は、世界の筋書きを読まない  作者: 南蛇井


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シーン8:書いた後 ― 何も起きない

レイスは、本を閉じたまま机に置いた。


それ以上、確かめることはしない。

ページがどう変わったかも、

言葉がどう受け取られるかも。


世界は――何も起こさない。


空気は同じ密度で流れ、

宿屋の一階からは、食器の触れ合う音と笑い声が上がってくる。

港の方角から、潮と木材の匂いが混じった風が入る。


因果は動かない。

偶然も呼び寄せられない。

世界修正核の兆候は、どこにもない。


結界も、反応しない。


揺らぎはない。

警告もない。

肯定も、否定も。


まるで、その一文が

「最初から書かれていた」かのように、

世界は無関心を保っている。


イオは、少し離れた卓で帳簿をめくっていた。


彼は本を見ない。

レイスの手元にも視線を向けない。

何を書いたのか、知ろうともしない。


沈黙が続く。


だが、それは気まずさではない。

意味を探る間でもない。

次の展開を待つための、溜めでもない。


ただ、静かだ。


イオが帳簿を閉じる音がして、

宿の梁がきしむ。


それだけで、時間は進む。


レイスは思う。


(……何も起きないわね)


失望ではない。

拍子抜けでもない。


むしろ、確認だ。


この行為は、世界に干渉しなかった。

物語を再起動させなかった。

誰かに役割を与えもしなかった。


それでいて、

「書いた」という事実だけは、確かに残っている。


停滞ではない。

終止でもない。


意味づけを拒んだまま、

それでも前に進んでいる感覚。


レイスは椅子から立ち上がり、

本を元の棚に戻す。


どこに置いたかなど、

後で誰も覚えていないだろう。


それでいい。


知識は、語られなくても存在できる。

読まれなくても、責任は消えない。


世界は、今日も介入しない。


だからこそ、

この一文は――

静かに、通過していく。

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