シーン7:レイスの自覚 ― 使い分ける存在へ
夜営の火は小さい。
枝を二、三本足しただけの、暖を取るための光。
レイスはその傍らに座り、手を伸ばさない。
魔法陣も描かない。
ただ、意識だけを動かす。
――結界。
かつては無意識に張られていたそれを、今は「操作対象」として捉えている。
存在を確かめるように、薄く展開する。
空気が変わらない。
音も、視線も、因果も、遮断されない。
強度を少し上げる。
範囲を、焚き火の外縁までに限定する。
対象条件を「干渉を成立させようとする意思」に絞る。
結果は即座に現れる。
夜の気配はそのままに、
近づこうとする意図だけが、滑るように外れる。
イオは火の向こうで本を閉じる。
視線は合う。
距離も変わらない。
結界は、彼を弾かない。
レイスは理解する。
解除。
再展開。
今度はさらに弱く、ほとんど膜に近い状態で。
結界は「ある」と分かるが、何も拒まない。
ただ、境界として機能しているだけだ。
(……閉じるためじゃない)
以前の結界は、外を消すためのものだった。
音を。
視線を。
偶然を。
だが今は違う。
(近づける相手を、選ぶため)
世界を遮断するのではない。
世界に委ねるのでもない。
どの関係を成立させ、
どの関係を「成立しないまま」にしておくか。
その判断を、世界にも物語にも渡さない。
自分で決める。
レイスは結界を完全に解く。
夜は変わらず、静かだ。
だがそれは、
押し付けられた静寂ではない。
世界との距離が、初めて「調整可能」なものとして存在している。
防衛ではない。
拒絶でもない。
関係設計。
レイス・フォル・デイオールは、
結界を張る存在から、
結界を使い分ける存在へと、静かに移行していた。




