シーン7:テーマの提示
レイスは、一冊の本を棚から引き抜いた。
魔導理論書。
装丁は地味で、題字も簡潔。
華やかさとは無縁だが、手に取った瞬間に分かる。
――重い。
紙の重さだけではない。
積み重ねられた思考の密度。
書き直され、否定され、残った部分だけがここにある。
(……いい)
その重みを確かめるように、腕に少し力を入れる。
本は黙って、それを受け入れた。
誰も説明しない。
読むように促さない。
感情を揺さぶる音楽も、選択肢もない。
ただ、
「ここにある」だけだ。
レイスは、静かに考える。
物語は、信用できない。
始まる前から役割が決まっていて、
感情を動かす順番まで用意されている。
読まされるものだからだ。
拒否する余地が、ほとんどない。
けれど――
本は違う。
読まなければ、何も起きない。
開かなければ、黙ったままだ。
期待も、要求も、押し付けもない。
必要なのは、
読むという選択だけ。
(物語は、
読まされるものだから信用できない)
ページの端に指をかける。
(でも、本は――
読まなければ、何もしてこない)
その事実が、
今の彼女には何よりも安心できた。
ゆっくりと、ページをめくる。
紙が擦れる、控えめな音。
それだけが、空間に落ちる。
外の世界の気配は、
さらに一段、遠のいた。
誰かの期待も、
役割も、
まだ起きていない未来も、
すべて本の外側にある。
レイスは、文字を追い始める。
ここでは、
彼女はただの読み手だ。
そして――
それで、十分だった。
ページをめくる音がだけが聞こえる。
世界は、静かだった。




