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読書好きの悪役令嬢は、世界の筋書きを読まない  作者: 南蛇井


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シーン5:イオの観察 ― 結界を説明しない理解

街道は緩やかに下り、視界が開けていく。

宿を離れてから、しばらく二人は無言で歩いていた。


風に乗って、草の擦れる音がする。

荷車の軋み。遠くの話し声。すべてが、距離を保ったまま通り過ぎる。


イオが、ふと口を開いた。


「さっきの人」


歩調は変えない。

振り返りもしない。


「近づけなかったですね」


レイスは肯定もしない。

否定もしない。


沈黙が一拍挟まる。


イオは続ける。


「でも、無理に止められた感じでもなかった」


それは観察だった。

分析ではない。


「近づけない人は、最初から近づこうとしていない」


淡々とした声音。

結論というより、感想に近い。


魔法かどうかを問わない。

仕組みも、理由も、効果範囲も聞かない。


レイスは一瞬だけ、イオを見る。

表情に探る色はない。


(……聞かないのね)


説明は用意できる。

因果、圧力、成立条件――言語化も可能だ。


だが、必要性が発生しない。


「そうね」


それだけ返す。


イオは頷くでもなく、歩き続ける。


理解された、とは思わない。

受け入れられた、とも違う。


ただ、解釈されなかった。


名前を付けられず、役割に回されず、

「物語の装置」として扱われなかった。


だから、結界は反応しない。


拒む理由がない。

守る必要もない。


レイスは気づく。


この人は、境界を越えようとしない。

同時に、境界の意味を確定させようともしない。


だから――弾かれない。


世界が静かに流れる。

偶然は起きるが、集中しない。


イオが、荷の紐を締め直す。


「この先、少し道が荒れます」


「そう」


それ以上の会話はない。


説明されなかった結界は、

解釈されなかったからこそ、ここにある。


選別は続いている。

だが、選ばれたという実感もない。


ただ並んで歩ける、という事実だけが残る。


それで十分だった。

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