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読書好きの悪役令嬢は、世界の筋書きを読まない  作者: 南蛇井


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シーン3:同行の成立 ― 結界が拒絶しない理由

街道は緩やかに続いている。

舗装の切れ目も、分岐の標もない。ただ、歩けば先があり、立ち止まれば風が通る。


レイスが歩き出したとき、イオは何も言わなかった。

声をかけるでもなく、理由を問うでもない。


気づけば、歩調が揃っている。


速すぎず、遅すぎず。

調整した形跡はない。だが、ずれもしない。


レイスは一瞬だけ、意識を結界の感覚へ向ける。

張ろうと思えば張れる。

拒絶の層を展開し、距離を固定し、因果の接触を遮断することもできる。


だが――反応がない。


世界も、結界も、沈黙している。


イオは横を歩きながら、荷袋の紐を直すだけだ。

視線を向けない。

歩調以外を合わせようとしない。


期待がない。

同行の意味を定義しようとしない。

「一緒にいる理由」を、言葉にしない。


レイスは、その状態を観測する。


干渉しない。

進路を決めない。

彼女の読書も、沈黙も、選択も、物語化しない。


(……踏み込まない人ね)


結界が反応しない理由は、明確だった。


人数ではない。

距離でもない。


圧力だ。


「何かを起こせ」

「役割を果たせ」

「物語になれ」


そうした要求が、ここには存在しない。


イオは同行者だが、侵入者ではない。

観測対象だが、干渉主体ではない。

彼自身もまた、世界に対して同じ距離を保っている。


「行き先は?」


唐突でもなく、意味を含ませるでもなく、イオが聞く。


レイスは少し考え、正確に答える。


「決めていないわ」


「そうですか」


それで終わる。

補足も、提案も、修正もない。


結界は、沈黙したままだ。

拒絶も、防衛も起動しない。


レイスは理解する。


結界は、誰かを遠ざけるためのものではない。

押し付けられる物語を、遮断するためのものだった。


圧力のない同行は、弾く理由にならない。


だから、二人は並んで歩く。

許可も契約もなく。

役割も結末も定めないまま。


街道は続き、世界は過剰に反応しない。

結界は壊れず、張られもしない。


同行は、静かに成立していた。

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