シーン7:レイス ― 出発(再配置)
学院の門を出たところで、レイスは立ち止まらなかった。
振り返らない。
理由はない。未練も、決別の演出も必要ない。
背後では、いつも通りの音がしている。
足音、話し声、馬車の軋む音。
どれも特別ではなく、どれも彼女を呼ばない。
結界はない。
だが、世界は彼女に群がらない。
かつては、偶然が集まり、視線が絡み、意味が付与された。
今は、ただ道があるだけだ。
レイスは歩き出す。
行き先は決めていない。
地図も持たない。
旅に出る、という言葉ですら、少し大げさだった。
ただ、ここに留まる理由がなくなっただけだ。
(物語が終わったわけじゃない)
学院も、王都も、世界も、動き続けている。
選択は生まれ、失敗も起き、誰かは迷う。
それらはもう、彼女を中心に集約されない。
(私が、中心にいないだけ)
それでいい、とレイスは思う。
彼女は主人公をやめた。
役割を降りた。
だが、存在を消したわけではない。
観測者として世界を見る必要も、
世界を正す義務も、
もう引き受けていない。
それでも世界は、観測対象を失わない。
人がいれば、出来事は起きる。
意味は、あとから勝手に付与される。
風が通り抜ける。
学院の塔が視界から外れる。
レイスは、ただ歩く。
本を読むように、次の土地を眺め、
理解しきれないものを、そのままにして。
物語は続いている。
誰かの中心で。
そして彼女は、
その外側を、静かに進んでいった。




