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読書好きの悪役令嬢は、世界の筋書きを読まない  作者: 南蛇井


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シーン5:フェルマ ― 余白を残す司書

図書室は、以前と変わらない静けさを保っていた。


書架は整えられている。

埃もなく、背表紙の向きも揃っている。

だが一角だけ、意図的に手を入れられていない棚があった。


未分類棚。


フェルマは、新しい分類表を作らなかった。

求められれば作れる。理論もある。効率化の案も出せる。

それでも彼は、白紙のままにした。


そこには、題名の曖昧な本。

年代の合わない記述。

どの体系にもきれいに収まらない魔導書が並んでいる。


フェルマはそれを「問題」とは呼ばなかった。


ただ、そこに置いた。


足音が近づく。

学生が一人、未分類棚の前で立ち止まる。


「司書さん、この本は……何ですか?」


差し出されたのは、表紙の擦り切れた一冊。

分類記号は貼られていない。


フェルマは本を受け取らない。

視線だけを向け、ほんの一瞬、題名を確認する。


そして答えた。


「まだ読まれていません」


それだけだった。


学生は少し困った顔をする。

内容の説明も、価値の判断も与えられない。

だが、フェルマはそれ以上何も言わない。


沈黙が続く。


やがて学生は、小さく頷き、本を戻した。

借りるかどうかは決めないまま、棚を離れる。


フェルマはその背中を追わない。


説明しない。

導かない。

正しい読み方も、意味の位置づけも与えない。


本は、理解されなくても存在できる。

分類されなくても、置かれていていい。


世界も、同じだと彼は知っていた。


すべてを説明しなくていい。

すべてを意味づけなくていい。

未読のまま、余白として残るものがあっていい。


フェルマは机に戻り、記録帳を開く。

そこにも、新しい規則は書き足されない。


ただ一行、静かに記される。


――未分類棚、現状維持。


図書室は、今日も変わらず静かだった。

だがその静けさは、閉じられたものではない。


理解されない可能性を、

そのまま許容する静けさだった。

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