シーン9:レイス視点 ― 直せるが、直さない
レイスは、
世界の揺れを感じ取っていた。
音の戻り方。
視線の重なり方。
偶然の生まれ方。
どれも、
把握できる。
原因も、
分かっている。
結界を張り直せばいい。
音を遮断し、
視線を逸らし、
因果を均せば――
世界は、再び一つに収束する。
一本道の物語に、
戻る。
(直せば、また一つに戻る)
それは、
事実だ。
難しくもない。
今の彼女なら、
ほとんど反射でできる。
だが――
レイスは、手を動かさない。
(それは……もう違う)
違う、
と感じている。
かつて、
世界が一つであることは、
安心だった。
正解があり、
失敗があり、
選ばれた者が前に出る。
だが今、
世界は揺れている。
揺れてはいるが、
潰れていない。
誰かが救われ、
誰かが傷つき、
そのどちらもが
同時に成立している。
不完全だ。
だが、
生きている。
レイスは、
理解している。
自分が介入すれば、
この揺れは止まる。
そして同時に、
可能性も閉じる。
(正解を一つに決める役を、
引き受ける理由はない)
それは、
逃げではない。
責任放棄でもない。
ただ――
役割の拒否だ。
世界の正解役を、
引き受けない。
レイスは、
再び本に視線を落とす。
世界は、
彼女を必要としていない。
そして彼女も、
世界を管理したいわけではない。
揺れは、
そのままでいい。
答えは、
一つでなくていい。
レイスは、
観測者として、
そこにいる。
それだけで、
十分だった。




