シーン8:因果の暴走(だが破滅しない)
偶然が、
頻発する。
一日に、
何度も。
階段で足を滑らせる。
書類を落とす。
約束の時間を、少しだけ間違える。
どれも、
些細だ。
誰かが大怪我をすることも、
致命的な失敗に繋がることもない。
だが、
数が多い。
小さな出来事が、
絶え間なく起きる。
まるで、
世界が落ち着きなく、
指先で机を叩いているようだ。
噂が生まれる。
すぐに別の噂が重なる。
誤解が生じる。
その誤解が、
誰かの行動を少しだけ変える。
連鎖は起きる。
だが――
崩壊しない。
大事件は、
起きない。
革命も、
断罪も、
破滅的な選択も、
発生しない。
因果は、
確かに暴走している。
集中し、
収束し、
一つの結末へ向かう――
はずだった力が、
行き場を失っている。
向かう先が、
一つではない。
だから、
溢れる。
あちこちに、
薄く広がる。
世界は、
緊張している。
だが、
張り詰めてはいない。
破滅は、
物語が必要とする。
今の世界は、
物語を必要としていない。
因果は、
暴れているのではない。
落ち着きどころを、
持たないだけだ。
そしてそれは、
壊れた状態ではない。
ただ、
新しい状態だった。




