シーン5:役割の多重発生
――王立魔導学院・構内
◆ 学生A
彼は、
誰かを助けた。
転びそうになった同級生を、
咄嗟に支える。
感謝される。
同時に、
別の視線が刺さる。
「あいつのせいで、
私が遅れた」
確かに、
彼が止めた流れはあった。
彼は、
その場を離れる。
助けた記憶も、
責められた感覚も、
どちらも残る。
(どれも、自分だ)
◆ 学生B
彼女は、
言葉を発した。
噂を、
少しだけ訂正した。
「それ、違うと思う」
場は、
一瞬、静まる。
誰かは救われ、
誰かは居場所を失う。
彼女自身は、
どちらの意図も持っていなかった。
(嘘じゃないのに)
◆ 攻略対象候補C
彼は、
何もしていない。
ただ、
そこにいただけだ。
だが、
結果として――
誰かの決断を遅らせ、
別の誰かを追い詰めた。
責任を感じる。
同時に、
無関係だったという感覚もある。
(傍観した)
(加担した)
どちらも、否定できない。
◆ エリシア(遠景)
彼女は、
助けられた。
同時に、
誰かを傷つけた。
そして、
何も選ばなかった。
それでも、
何かが動いた。
(……全部、私)
誰も、
役割を選んでいない。
だが、
役割が選ばれなかったわけでもない。
すべてが、同時に成立している。
救済者であり、
加害者であり、
傍観者である。
矛盾ではない。
世界が、
それを許しているだけだ。
人々は、
戸惑いながらも、
歩き続ける。
どれも嘘ではないから。




