シーン4:過補正の発生 ― 世界が“盛りすぎる”
異変は、
一斉に現れたわけではない。
だが、
学院全体に、
確実に広がっていく。
廊下で、
誰かが角を曲がる。
別の誰かと、
ぶつかる。
それだけの出来事だ。
以前なら、
どれか一つだった。
友情の始まりか。
恋愛のきっかけか。
因縁の芽か。
だが今は――
すべてが、同時に成立する。
ぶつかった二人は、
謝り合い、
笑い合い、
同時に、
奇妙な既視感を覚える。
「前にも、会った気がする」
「いや、初めてだよな?」
「……でも、意味はあった」
どれも、嘘ではない。
噂も、同じだ。
一つの出来事が、
語られる。
「正義の行動だった」
「裏に陰謀がある」
「ただの偶然だ」
すべての解釈が、
排除されない。
どれかを否定すると、
残りも崩れる。
だから、
並立する。
混乱は、ある。
だが、
破綻はしない。
誰も、
世界がおかしいと叫ばない。
ただ、
「意味が多い」と感じるだけだ。
学院は、
物語を作りすぎている。
一つの出来事に、
意味を与えすぎている。
それでも――
人は歩き、
学び、
会話を続ける。
世界は、
壊れていない。
ただ、
盛りすぎている。
意味が、
こぼれ落ちそうになるほどに。




