シーン4:本の正体 ― 『未読の魔法について』
レイスは、
拾い上げた本の表紙を見た。
見覚えが、ない。
装丁は古い。
だが、どの時代とも断定できない。
革の質感は均一で、
傷みすら、判断がつかない。
タイトルだけが、
はっきりと刻まれていた。
――『未読の魔法について』
(……未読)
その言葉に、
わずかに思考が引っかかる。
禁書ではない。
少なくとも、
警告符号は付いていない。
封印も、
閲覧制限も、
施されていない。
それなのに――
分類ができない。
背表紙に、
著者名らしき記載はある。
だが、
完全ではない。
名前の一部が、
意図的に省かれたようにも見える。
発行年は、
奥付を確認しても、
一つではない。
年代が、
複数、重なっている。
矛盾している、
というより――
収束していない。
(……記録されていない、のね)
レイスは、
そう理解する。
存在している。
だが、
意味づけが終わっていない。
この本は、
読まれていないから、
未定義なのではない。
未読であること自体が、
状態なのだ。
未読――
まだ、
物語に回収されていない可能性。
まだ、
役割を与えられていない魔法。
レイスは、
本を閉じたまま、
少し考える。
結界が反応しなかった理由が、
ここにある。
拒否も、
要求も、
主張もない。
ただ、
意味を持たないまま、
存在している。
それは、
結界にとって――
無害だった。
いや、
正確には。
まだ、
意味を持っていなかった。
レイスは、
再び本を見る。
未読のままなら、
世界に属さない。
だが、
読めば――
その先は、
まだ書かれていない。




