シーン4:王立魔導図書室の存在を知る
本棚の前で立ち止まっていると、侍女が気を利かせたように言った。
「学院には、学生用の図書室がございます」
「授業用の教本や、基礎的な魔導書が揃っておりますので」
学院の図書室。
それは想定内だ。
規模も、内容も、だいたい見当がつく。
「それとは別に――」
侍女は一瞬だけ言葉を選び、
「王立魔導図書室、という施設もございます」
その名前が、
静かな部屋の空気を、わずかに変えた。
(……王立)
心拍が、ほんの少しだけ上がる。
自覚できるほどではないが、
意識がそちらへ向いたのは確かだった。
「どんなところなの?」
声は平静を保っていた。
自分でも、うまくできていると思う。
「古い魔導書や、理論書が多く……」
「中には、まだ整理されていない文献もあると聞きます」
未整理。
その言葉が、胸の奥に静かに落ちた。
侍女は続ける。
「研究者や魔導院の方が利用されることが多く、
学生が足を運ぶことは、あまりありません」
理由は分かる。
難解で、地味で、評価に直結しない。
社交や成績に、即効性がない場所だ。
(……なるほど)
レイスは、無意識に視線を上げていた。
天井でも、窓でもない。
まだ見ぬ棚を思い描くように。
古書。
理論書。
未整理文献。
どれも、時間がかかる。
読んだところで、すぐには役に立たない。
だからこそ――
(……行く理由しかないわ)
その考えが、自然に、疑いなく浮かぶ。
胸の奥が、わずかに温かくなる。
それは不安が消えたからではない。
未来が見えたからでもない。
読む場所が、確定した。
それだけだった。
侍女は、その小さな変化に気づかなかった。
ただ、いつも通りに微笑む。
「ご興味がおありでしたら、手配いたしますが……」
「ええ、お願い」
返事は即答だった。
この瞬間、
レイス・フォル・デイオールの進路は決まった。
婚約でも、社交でもない。
断罪回避でも、生存戦略でもない。
王立魔導図書室へ行く。
物語は、
ここから、静かに動き始める。




