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シーン10:断罪イベントの自然消滅
沈黙は、
いつまでも続くわけではなかった。
大広間の端で、
誰かが、ぽつりと言った。
「……今日は、ここまでにしましょう」
声は、
大きくない。
宣言でも、
命令でもない。
理由は、
添えられなかった。
なぜなら、
説明できる理由が、
どこにもなかったからだ。
反論は、出ない。
同意も、
はっきりとは示されない。
ただ、
誰も否定しない。
空気が、
わずかにほどける。
剣は、
最後まで鞘に収まったままだ。
宣告は、
一言も発せられない。
名も、
罪も、
呼ばれない。
断罪は、
中断されたのではない。
失敗したのでもない。
発生しなかった。
人々は、
静かに席を立つ。
ざわめきは、
戻らない。
誰も、
「何が起きたのか」を
言葉にしない。
それでも、
誰も混乱していない。
世界は、
壊れていない。
ただ――
物語が、始まらなかっただけだ。
大広間は、
ゆっくりと空になる。
舞台装置は、
最後まで完璧だった。
引き金だけが、
最初から、
引かれなかった。




