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シーン9:レイス視点 ― 世界の沈黙を知らない
図書室は、
相変わらず静かだった。
レイスは、
本のしおりを外す。
ここからが、
新しい章。
構成が変わり、
語り口が少し硬くなる。
嫌いではない。
ページをめくる。
行間に、
次の論点が見える。
注釈を書き足す余白も、
十分にある。
(……いい流れね)
内心で、
そう思う。
理解が、
自然につながっていく。
必要な前提が、
すでに揃っている。
世界のどこかで、
人が集まり、
言葉を探し、
時間を消費していることを――
彼女は知らない。
知らなくていい。
この場所では、
本が進む。
段落が進み、
章が進む。
思考が、
前に進む。
世界は、
停止している。
だが、
レイスは、
前進している。
読書的に。
ページをめくる音が、
静かに響く。
それだけが、
確かな進行だった。




