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シーン8:時間だけが進む異常
大広間に、
沈黙が落ちていた。
完全な無音ではない。
誰かが、
小さく咳払いをする。
その音が、
やけに大きく響く。
視線が、
行き場を失って彷徨う。
剣へ。
玉座へ。
証言台へ。
そして、
また戻ってくる。
誰も、
「終わりだ」と言えない。
理由がない。
中断する理由も、
解散する理由も、
見つからない。
同時に――
誰も、始められない。
始めるための言葉が、
存在しない。
時間だけが、
淡々と進む。
光の角度が、
わずかに変わる。
剣の表面が、
鈍く光る。
抜かれないまま。
触れられないまま。
恐怖は、ない。
逃げ出したい衝動も、
ない。
あるのは、
共有された困惑だけだ。
(……どうすればいい?)
誰かが、
そう思う。
だが、
答えは生まれない。
沈黙は、
重くない。
ただ、
長い。
世界は、
壊れていない。
止まってもいない。
それなのに――
進めない。
大広間は、
その事実を抱えたまま、
じっと時間をやり過ごしていた。




