シーン4:主人公候補エリシア視点 ― 言葉が出ない
証言台は、
思っていたより高かった。
一段、
わずかに持ち上げられているだけで、
視線が集まる。
群衆の目。
期待と確信が混ざった、重たい空気。
本来なら、
ここで声を上げる。
それが、
自分の役割だったはずだ。
だが――
胸の奥は、静かだった。
恐怖はない。
震えもない。
怒りも、
湧いてこない。
言葉を探す。
告発の言葉。
糾弾の言葉。
けれど、
どれも掴めない。
(……正義、だっけ)
自分に問いかける。
何かを、
守るための言葉。
誰かを、
裁くための言葉。
だが、
前提が思い出せない。
(……私)
視線が、
一瞬、揺れる。
(……私、
何を奪われたんだろう)
問いは、
胸に落ちるが、
答えを連れてこない。
奪われた記憶はない。
傷つけられた実感もない。
悔しさも、
後悔も、
ない。
あるのは、
空白だけだ。
成長は、
痛みから始まる。
怒りは、
変化の核になる。
そのどちらも、
ここにはない。
エリシアは、
息を吸い、
そして吐く。
言葉は、
生まれなかった。
告発の核は、
最初から空白だった。
群衆のざわめきが、
わずかに揺れる。
だが、
それ以上、何も起きない。
世界は、
次の手を失っていた。




