シーン2:レイス視点 ― 結界内の通常運行
同じ時刻。
王立魔導図書室。
石造りの壁は、
朝の光を静かに受け止めている。
レイスは、
いつもの席に座っていた。
本は開かれ、
ページの端には、
すでに書き込みがある。
余白に走る、細い文字。
参照符号。
小さな矢印。
ページをめくる音が、
一つ。
それ以外に、
音はない。
結界は、
調整済みだった。
過剰でもなく、
不足でもない。
音は、届かない。
視線は、留まらない。
因果は、偏らない。
すべてが、
いつも通りに機能している。
レイスは、
文章を追いながら、
ふと手を止めた。
(……今日は、静かね)
違和感ではない。
確認に近い。
普段よりも、
さらに雑音が少ない。
だが、
気にするほどではない。
外で何が起きているかを、
知ろうとも思わない。
必要なら、
いずれ分かる。
そうでなければ、
知らなくていい。
ページを、
もう一枚めくる。
書き込み済みの注釈が、
視界に入る。
自分の思考が、
ちゃんと積み上がっている証拠。
それが、
今は何よりも確かだ。
外の世界では、
剣が磨かれ、
声が集まり、
期待が膨らんでいる。
だが、
それらはここには届かない。
結界内は、
最小音量。
世界が叫ぶ準備をしていることを、
この場所は、
まったく知らない。
レイスは、
読み進める。
物語とは関係なく、
ただ、
本の続きを。




