シーン9:レイスの気づき(遅れて)
レイスは、
図書室の窓際から中庭を眺めていた。
特別な理由はない。
本を閉じて、
少し視線を外に向けただけだ。
学生が歩いている。
談笑し、すれ違い、
それぞれの場所へ向かっている。
その中に、
エリシアの姿があった。
遠い。
声も、表情も、はっきりとは分からない。
それでも――
何かが、引っかかった。
(……変わらない)
服装も、歩き方も、
以前と同じ。
問題は、そこではない。
時間が、
彼女の周囲だけ、
流れていないように見える。
失敗していない。
つまずいてもいない。
だが、
積み上がっていない。
レイスは、
ゆっくりと理解する。
世界は、
人を育てる。
感情を揺らし、
選択を迫り、
偶然を投げつける。
それが、
あの理論書に書かれていたことだ。
(……止まってる)
エリシアが、ではない。
世界の育成機能が。
均した。
尖りを削った。
特定の人物に、
出来事が集中しないようにした。
その結果――
伸びなくなった。
「……均したら、
伸びなくなったのね」
内心で、
静かに言葉にする。
驚きはない。
混乱もない。
ただ、
因果関係が、
ようやく一本につながった。
(……ここまで、届いてた)
結界は、
自分の周囲だけのものではなかった。
学院全体。
物語全体。
思っていたより、
ずっと広い。
レイスは、
視線を戻し、
机の上の本を見る。
責任を感じるには、
感情が足りない。
解除するには、
理由が足りない。
ただ、
理解してしまった。
自分が、
世界の「進み方」に
触れているということを。
第三章は、
ここで核心に触れる。
まだ、
後戻りはしない。
だが、
無自覚ではいられなくなった。




