シーン5:因果平坦化という発想
結界を、
解くつもりはなかった。
防御でもない。
拒絶でもない。
それは、
もう確認している。
レイスは、ノートの前で静かに考える。
因果干渉。
イベント補正。
世界は、
進ませようとしているだけだ。
なら、
止める理由はない。
(止めたいわけじゃない)
ペン先が、紙の上をなぞる。
壊さない。
消さない。
ただ、
偏りをなくす。
偶然そのものを否定すれば、
世界は歪む。
出来事は、起きていい。
変化も、感情も、必要だ。
(ただ……)
一行、空けて書く。
偶然は、
起きていい。
ただ、押し付けられなければ。
言葉にした瞬間、
方向が定まった。
これまでの結界は、
干渉を遮断するためのものだった。
音。
視線。
認識。
それらは、
自分の周囲だけを対象にしていた。
だが、
因果は違う。
届かないだけでは、足りない。
跳ね返しても、意味がない。
(均す)
その一語が、
すべてをまとめた。
鋭く集まる前に、
広げる。
特定の人物に向かう前に、
散らす。
イベントを消さない。
発生率を下げもしない。
ただ、
集中しないようにする。
レイスは、
ノートの余白に、名前を書いた。
――因果平坦化
(Causal Flattening)
仰々しい名前だが、
やっていることは地味だ。
世界の表面を、
ならす。
山を削り、
谷を埋める。
(……静かになるわね)
結界は、
また一段、性質を変える。
防御から離れ、
拒絶からも離れ、
世界の動きに、
そっと手を添える。
第三章の結界進化は、
ここで定義された。
この時点で、
誰も困っていない。
それが、
一番の問題だった。




