シーン3:理論書との遭遇(核心書籍)
王立魔導図書室の奥には、
人の足がほとんど向かわない一角がある。
禁書区画ではない。
封印も、警告文もない。
ただ――
読まれない。
棚に並ぶ書籍は、どれも地味だ。
装丁は簡素。
題名は抽象的で、即効性がない。
レイスは、そこに足を踏み入れた。
目的は、
はっきりしている。
偶然について。
最初に手に取ったのは、
一冊の薄い理論書だった。
『偶然が重なる理由についての仮説』
ページをめくる。
数式。
概念図。
そして、淡々とした文章。
「偶然とは、観測されなければ意味を持たない」
「意味を持たせるために、確率は操作されうる」
レイスは、読み進める。
次に、
『因果律補正と観測者効果』
ここでは、
世界が「整合性」を保つために、
確率を歪める可能性が論じられていた。
最後に、
『必然を演出するための確率操作』
書き手は、
まるで前提として受け入れている。
物語が進むためには、
偶然は散らばっていてはならない。
集められる必要がある、と。
(……なるほど)
レイスは、ページを閉じた。
否定は、湧かない。
怒りも、ない。
ただ、
理解がある。
世界は、
無秩序では困る。
人が成長するには、
出来事が必要だ。
物語的要請に応じて、
偶然を選び、
特定の人物へ集中させる。
それは、
冷たい仕組みではない。
むしろ、
効率的だ。
(……合理的ね)
小さく、内心で呟く。
悪意は感じない。
誰かを陥れるための装置でもない。
世界は、
進ませようとしているだけだ。
理解した瞬間、
自分の結界の位置が見えた。
音を遮断し、
視線を散らし、
存在感を薄めた。
それだけではない。
偶然の集中を、
削っている。
レイスは、
ゆっくりと本を棚に戻した。
世界を敵だと思う必要はない。
壊す理由もない。
ただ、
構造を知ってしまった。




