シーン7:存在感希薄化という副作用
変化は、劇的ではなかった。
むしろ、
遅れとして現れた。
講義室。
出欠確認が始まる。
教師は、名簿を上から順に読んでいく。
呼ばれた名前に、返事が返る。
「――アルベルト」
「はい」
「――エリシア」
「はい」
規則正しい流れ。
「――レイス・フォル・デイオール」
一拍。
教室が、ほんの少しだけ沈黙する。
「あ……はい」
レイスが返事をすると、
教師は一瞬だけ名簿を見直した。
「失礼」
それだけ言って、次へ進む。
違和感は、
その場で消える程度のものだ。
別の日。
廊下で、誰かが話しかけようとする。
「レイス――」
名前が、途中で止まる。
呼んだ本人が、
なぜ呼ぼうとしたのか分からなくなった顔をする。
「あれ……?」
少し考えて、
そのまま立ち去る。
図書室でも、同じだ。
司書が、貸出状況を確認しながら、
ふと視線を上げる。
そこに、レイスはいる。
だが、
声をかけるまでに、
一瞬の間がある。
「あ……失礼」
呼ばれて、
初めて処理が完了する。
(……遅い)
レイスは、気づく。
話しかけられないこと自体ではない。
認識されるまでの時間が、伸びている。
音は、届かない。
視線は、留まらない。
その結果、
存在そのものが、
判断の後ろに回されている。
記憶の端。
意識の隅。
そこに、
自分が置かれている感覚。
(……効きすぎ?)
内心で、そう思う。
困ってはいない。
むしろ、集中は完璧だ。
だが、
設計していない効果が、
確かに出始めている。
これは、まだ完成ではない。
制御が甘い。
境界が、曖昧だ。
存在を消したいわけではない。
忘れられたいわけでもない。
(……調整が必要ね)
結界は、
重なり合うことで、
性質を変える。
防音。
視線遮断。
それらが組み合わさり、
存在感の後回し化が起きている。
これは、
第三段階。
だが、
未完成だ。
レイスは、ノートに小さく印をつける。
・副作用
・制御不足
・境界条件要検討
ページを閉じる。
今は、まだ使える。
けれど、
このままでは、広がりすぎる。
世界は、
彼女を見失い始めている。
本人が、
それを必要としていないにもかかわらず。




