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読書好きの悪役令嬢は、世界の筋書きを読まない  作者: 南蛇井


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21/92

シーン5:視線遮断の成立

図書室の机に、

数冊の魔導書が開かれている。


どれも、派手な題名ではない。


《注意力分散理論概論》

《認識優先度と魔力干渉》

《知覚の重なりについて》


(……この辺り)


レイスは、頁を行き来しながら、

共通項を拾っていく。


注意とは、資源だ。

限られていて、配分される。


人は、

すべてを等しく見ることはできない。


(なら、配分を変える)


不可視化は不要。

存在を消す必要もない。


ただ、

優先順位を下げる。


レイスは、ノートに簡潔な構成図を描いた。


音:行き先を失わせる


視線:留まらせない


魔力を強める必要はない。

むしろ、弱く、広く。


視線を引きつける要素を削り、

背景と同列に並べる。


小さな魔法陣を、

机の下に描く。


誰にも見えない場所で、

そっと魔力を流す。


空気が変わる――

というほど、劇的ではない。


何も、起きていないように見える。


数分後。


通路を歩いていた学生が、

ふと、足を止めた。


こちらを見る。


目が合った、気がする。


だが、

その視線は、すぐに外れた。


学生は、首を傾げる。


「……あれ?」


何かを思い出そうとして、

失敗した表情。


数歩進み、

またこちらを見る。


同じだ。


見ているはずなのに、

印象が残らない。


学生は、しばらく立ち尽くしてから、

何事もなかったように歩き出した。


別の学生。


こちらへ近づき、

口を開きかける。


「あ――」


声は、出ない。


いや、

出す理由が、消えている。


「……?」


そのまま、踵を返す。


(……効いている)


レイスは、心の中で確認した。


話しかけようとする意思は、

完全には消えていない。


けれど、

起点が続かない。


理由が、持続しない。


視線が、

意識に定着しない。


結果として、

行動が成立しない。


周囲では、

小さな違和感が、点在し始めていた。


「あれ、今……誰かいたような」

「気のせいかな」


誰も、不快ではない。

誰も、困っていない。


ただ、

一拍、抜ける。


レイスは、ノートに静かに書き足した。


・不可視ではない

・存在は維持

・認識の優先度低下


これが、

結界進化の第二段階。


視線遮断。


壁はない。

拒絶もない。


ただ、

意識の中で、後回しになる。


レイスは、

再び本に視線を戻した。


集中は、

途切れない。


それが、すべてだった。

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