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読書好きの悪役令嬢は、世界の筋書きを読まない  作者: 南蛇井


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シーン1:目覚めと違和感

最初に感じたのは、天井が遠いということだった。


白い布が、柔らかく弧を描いて垂れている。

見慣れない模様。

少しだけ金糸が混じっていて、無駄に凝っている。


(……天蓋)


そう理解するまでに、少し時間がかかった。


体を動かそうとして、気づく。

軽い。

驚くほど、軽い。


肩も、腰も、指先も、どこにも引っかかりがない。

昨日まで当たり前にあった疲労の残骸が、きれいに消えている。


「……」


声が出た。


自分の声なのに、違う。

高くて、澄んでいて、妙に落ち着いている。


(……高貴だ)


思わず、そんな形容が浮かんだ。

嫌ではないが、慣れもしない。


その声に反応して、横から足音がした。


「レイス様、お目覚めですか?」


振り向くと、控えめな色合いの服を着た女性が立っている。

姿勢が良く、動きに無駄がない。

こちらを見る目に、戸惑いがない。


(……侍女だ)


状況が、一つずつ積み上がっていく。


大きな寝台。

天蓋。

高すぎる天井。

侍女。


自分の体を見下ろす。

柔らかそうな寝間着は、肌触りが良すぎた。

縫製も、生地も、完全に「日常用」ではない。


(無駄に高級……)


ため息は出なかった。

代わりに、頭の中で静かに整理が始まる。


――夢。


まずはそれを疑った。

けれど、触れたシーツの感触がやけに具体的で、

空気の温度も、匂いも、雑音も、都合が良すぎない。


「レイス様?」


名前を呼ばれる。


(……ああ)


その瞬間、記憶が一段、はまった。


「レイス・フォル・デイオール」

公爵家。

貴族。

魔法が存在する世界。


説明されなくても、

知っているという感覚だけが、自然にある。


「大丈夫ですか? 少し顔色が……」


「ええ、大丈夫よ」


返事をした。


また、声が高貴だった。


(本当に、落ち着いた声ね)


おかしいと思うべきなのだろう。

死んだはずで、

見知らぬ世界で、

別の身体で目を覚ましている。


それなのに、心は静かだった。


怖くないわけではない。

ただ、慌てる理由が見当たらない。


(……夢でも現実でも)


一度、そう考えて、すぐに切り替える。


(起きている以上、読む時間はありそう)


それが、今のところ一番重要だった。


視線が自然と、部屋の壁際へ向かう。

装飾棚。

花瓶。

そして――小さな本棚。


数は少ない。

けれど、確かに本がある。


(……後で確認しましょう)


まずは状況整理。

次に、行動。

順番は変わらない。


彼女――レイス・フォル・デイオールは、

そういう性格だった。


たとえ、世界が変わっても。

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