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読書好きの悪役令嬢は、世界の筋書きを読まない  作者: 南蛇井


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18/92

シーン2:防音魔法という誤解(第一実験)

図書室の一角、

人通りの少ない書架の間。


レイスは、数冊の魔導書を積んでいた。


《簡易防音魔法入門》

《日常生活に役立つ遮音術》

《会話対策魔法・初級編》


どれも、よく売れている。

装丁も分かりやすく、

効果が即座に得られることを売りにしている。


(……まずは、既存の方法)


ノートを開き、

簡単な魔法式を確認する。


詠唱は短い。

構造も単純だ。


レイスは、視線を周囲に走らせ、

誰もいないことを確認してから、

小さく魔力を流した。


空気が、わずかに揺れる。


音が――

遠のいた。


自分の呼吸音が、布越しに聞こえるような感覚。

書架の向こうの足音が、消える。


(……効いている)


検証のため、

彼女は口を開く。


「……テスト」


声は、自分の耳にすら届かない。


数歩先に、学生がいた。

その学生が、何か言っている。


唇が動く。

だが、音はない。


(なるほど)


遮音性能は、十分だ。

少なくとも、音は消えている。


だが――


学生は、こちらを見ている。


少し首を傾げ、

距離を詰めてくる。


「……?」


声は聞こえない。

それでも、話しかけようとする意思は、

はっきりと伝わってくる。


距離が縮まる。

手が、軽く振られる。


(……そう)


音が消えても、

行為は消えない。


話しかける、という行動そのものは、

止まっていない。


学生は、口を動かし続けている。

表情も、仕草も、変わらない。


(これは……防御ね)


レイスは、魔法を解いた。


音が、戻る。


「……聞こえてる?」


「ええ」


短く答える。


学生は安心したように笑い、

特に疑問を持たずに立ち去った。


書架の間に、再び静けさが戻る。


レイスは、ノートに視線を落とした。


防音魔法。

遮音。

音の遮断。


すべて、結果への対処だ。


「これは防御ね」


言葉にして、確認する。


「私が欲しいのは、起点の消失」


話しかける、という行為が

生まれない状態。


音を止めるのではない。

音が発生しない状況を作る。


その違いが、

はっきりと輪郭を持った。


レイスは、ノートの余白に新しい線を引く。


音が消える → ×


話しかけが起きない → ○


(……視点を変えましょう)


これは、魔法の強度の問題ではない。

方向の問題だ。


世界の常識が、

少しだけズレた。


結界進化の、

最初の一歩が刻まれる。

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