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読書好きの悪役令嬢は、世界の筋書きを読まない  作者: 南蛇井


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シーン7:攻略対象が識別できない問題

廊下は、相変わらず人が多い。


だが初日ほどの混雑はなく、

人の顔が、きちんと「個人」として見える程度には落ち着いていた。


――はずだった。


「こんにちは、レイス嬢」


声をかけられて、

レイスは足を止める。


振り向くと、

青年が一人立っていた。


整った顔立ち。

学院の制服。

自信のある立ち姿。


どこかで、見たことがある。


(……)


記憶を辿る。


入学式のあと。

図書室の前。

確か、複数人いた中の一人。


(……どの人が、どの役割だったかしら)


内心で、少しだけ困る。


王太子ではない。

それは分かる。


けれど、

それ以上の情報が、出てこない。


「この前は、話の途中で失礼したね」


青年は、親しげに微笑む。


ああ、

話しかけてきた人だ。


名前を呼ばれた気がする。

たぶん。


(資料に書いてあったかしら)


そんなことを考えている間に、

沈黙が生まれる。


世界的には、

ここで会話が続く。


好感度が変動し、

キャラクターが掘り下げられる。


だが――


「ええ」


レイスの返事は、短かった。


それ以上、言うことがない。


青年は、わずかに戸惑う。


「……今日は、どちらへ?」


「図書室へ」


嘘はない。


それを聞いて、

青年は何か言いかけて、やめた。


きっと、

用意されていた台詞があったのだろう。


だが、

差し込む隙がない。


「それでは」


レイスは軽く一礼し、

歩き出す。


背後で、

小さく息を吐く気配。


(……悪いことをしたかしら)


一瞬そう思って、

すぐに否定する。


悪意はない。

ただ、

区別できないだけだ。


彼らは、

物語の中では違う役割を持っている。


けれど、

レイスの基準では、

まだ同じ段階にいる。


必要になったら、

名前を覚える。


そうでなければ、

覚えなくても困らない。


廊下の先に、

図書室の扉が見える。


(……本の続き)


それだけで、

頭の中は切り替わった。


乙女ゲーム的な期待は、

ここでも発動しなかった。


キャラクターは、

消費される前に、

彼女の視界から外れていく。


静かな笑いだけを残して。

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