シーン5:うんざりする自覚
日が傾き始める頃、
学院の空気はようやく落ち着きを見せた。
初日特有の熱は冷め、
廊下のざわめきも角が取れている。
レイスは、図書室の席に座ったまま、
閉じた本に手を置いていた。
今日は、よく歩いた。
そして、よく会った。
――思い返してみる。
入学式。
廊下。
温室。
図書室前。
どれも、偶然だ。
少なくとも、表面上は。
誰も押し付けてこなかった。
誰も責めてこなかった。
誰も、悪意を持っていなかった。
それが、逆に疲れる。
(……多いわね)
数が、ではない。
密度だ。
少し歩くたびに、
誰かと会う。
立ち止まるたびに、
視線が集まる。
(これは……)
言葉を選んで、
内心で結論を出す。
(……仕様ね)
仕組みとして、
そうなっている。
人のせいではない。
この学院のせいでもない。
ましてや、個々の学生の問題でもない。
ただ、
そうなるように出来ている。
それを理解した途端、
気持ちは少し楽になった。
怒る理由がない。
抗議する相手もいない。
あるのは、選択だけだ。
(距離を取ろう)
戦う必要はない。
拒絶もしなくていい。
ただ、
近づきすぎないようにする。
会話を減らす。
通る場所を選ぶ。
時間をずらす。
それだけで、
きっと十分だ。
レイスは立ち上がり、
本を元の位置に戻した。
背表紙が、整列する。
それだけで、心が落ち着く。
外に出ると、
夕方の風が冷たい。
今日一日で、
世界の輪郭が少しだけ見えた。
ここは、
物語が始まる場所だ。
そして彼女は、
その中心に立つ予定になっている。
(……面倒ね)
そう思いながらも、
苛立ちはない。
距離を取る。
ただ、それだけだ。
まだ、魔法は要らない。
この時点では。




