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読書好きの悪役令嬢は、世界の筋書きを読まない  作者: 南蛇井


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シーン4:図書室前イベント ― 決定打

学院図書室の前は、少しだけ空気が違った。


廊下より静かで、

温室ほど閉じてもいない。

人の流れが自然と減速する場所だ。


レイスは、入口の表示板を確認していた。


開室時間。

利用規則。

貸出条件。


(……まずまず)


そう評価したところで、

背後から声がかかる。


「君は――」


一人ではない。

声は、複数重なっていた。


振り返ると、

そこに三人の男子学生が立っている。


制服の着こなし。

立ち位置。

表情。


違いはあるはずなのに、

一瞬、区別がつかなかった。


世界側の想定では、

ここで選択肢が発生する。


誰に微笑むか。

誰に返事をするか。

誰を無視するか。


キャラクターを分けるための、

分岐点。


だが、レイスの頭は、別の処理をしていた。


(……)


一人目。

どこかで見た気がする。


二人目。

さっき廊下にいた、かもしれない。


三人目。

温室で見たような、見ていないような。


名前を思い出そうとして、

諦めた。


(……三人くらい、同じ分類に入る)


内心で、軽く笑う。


役割が、似ている。

立ち位置が、同じ。

物語的な距離も、ほぼ等しい。


細部の違いを、

今ここで把握する理由がない。


「図書室に、興味があるのかい?」


誰かが言う。

声色に、わずかな自信。


「ええ」


返事は簡潔だった。


その瞬間、

レイスの視線は、自然と彼らを外れた。


背後に広がる、書架の列。

背表紙。

分類番号。


(……理論書、奥ね)


人物より、

情報の配置の方が気になる。


三人は、視線が外れたことに気づき、

わずかに戸惑う。


「案内しようか」

「君に合いそうな本が――」


言葉は、途中で止まった。


レイスは、軽く一礼する。


「ありがとう。でも、大丈夫」


拒絶ではない。

本当に、必要ないだけだ。


扉に手をかけ、

中へ入る。


背後で、誰かが小さく息を吐いた。


世界が用意した「選択肢」は、

選ばれないまま、

その場に置き去りにされた。


図書室の中は、静かだった。


それだけで、

十分だった。

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