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読書好きの悪役令嬢は、世界の筋書きを読まない  作者: 南蛇井


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11/92

シーン3:イベントが続く ― 温室

次の授業まで、少し時間があった。


廊下はまだざわついている。

入学初日特有の、高揚と探り合いが混じった空気だ。


(……静かな場所)


そう考えて、

レイスは自然と温室の方へ足を向けた。


ガラス張りの扉を開いた瞬間、

外とは別の世界に入ったような感覚がある。


光は柔らかく拡散され、

湿度は一定。

足音も、衣擦れの音も、どこか吸い込まれる。


(……静か)


温室の中央付近に、先客がいた。


淡い色の制服。

控えめな立ち姿。

花に囲まれて、よく馴染んでいる。


エリシア・ノヴァ。

平民出身の特待生。

――主人公候補。


世界側の想定では、

ここで視線が合い、

空気が張りつめ、

対立の芽が生まれる。


嫉妬。

誤解。

感情のすれ違い。


けれど、

レイスが最初に見たのは、彼女ではなかった。


花だ。


咲いている位置。

葉の向き。

魔力が循環する配置。


(……魔力流、安定してる)


温室全体に張り巡らされた魔法陣が、

植物の成長を均一に保っている。

光属性と水属性の配分が、過不足ない。


(管理、上手ね)


無意識に、歩み寄っていた。


エリシアがこちらに気づき、

小さく身を固くする。


「……あ」


声をかけるべきか、

様子を見るべきか、

判断に迷っている表情。


レイスは、一礼だけした。


「どうも」


それ以上、言葉は続かない。


沈黙。


だが、気まずさはない。

少なくとも、レイスの側には。


彼女は花壇の縁に立ち、

蔓植物の成長角度を観察している。


(支柱の位置、少しずれてる)


エリシアは、何か言おうとして、

結局、何も言えずに黙る。


典型的なイベント構図は、

静止したまま動かない。


やがて、鐘の音が遠くで鳴った。


次の授業の合図だ。


「あ……」


エリシアが、ほっとしたように息をつく。


レイスは、もう一度だけ温室を見回した。


(……温室って、音が反響しないのね)


言葉は、内心にだけ落とす。


外の廊下のざわめきが、

ここでは別の世界の出来事のようだ。


理由は分からない。

けれど、この「音が届かない感じ」は、

少し心地よかった。


「それでは」


そう言って、

レイスは静かに温室を後にした。


背後で、

エリシアはその背中を見送る。


何も起きなかった。

衝突も、対立も、感情の揺れも。


ただ、

予定されていたはずの出来事が、起きなかった。


世界はまだ、

その理由を理解していない。

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