表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/11

第8話「王都からの召喚」

 それは、定時の鐘が鳴った翌朝のことだった。

 ギルドの扉を押し開けると、見慣れぬ鎧姿の一団がホールに立っていた。鎧は銀に輝き、胸には王国の紋章。王都直属の騎士団――その重苦しい気配に、空気が張り詰める。


「冒険者佐藤蓮、ならびに僧侶リシア。王都に同行していただきたい」


 騎士の一人が硬い声で告げた。

 突然の名指しに、ホールがざわついた。


「おい、あの八時間坊主が?」

「王都に呼ばれるなんて、本気かよ……」


 黒鎧の冒険者たちでさえ、言葉を失っていた。


「理由を伺ってもいいですか?」

 僕が一歩前に出ると、騎士は頷いた。


「王都では、冒険者や兵士の過労による戦力低下が深刻になっている。噂に聞く“定時帰り”の力を、陛下ご自身が確かめたいと仰せだ」


 リシアが目を見開いた。

「つまり……王都も“ブラック”になっているのですね」


 騎士の口元が苦く歪んだ。

「兵士の多くが徹夜での警備や訓練に耐えられず倒れています。しかし宰相は“怠け者の言い訳”と一蹴するばかりで……」


 その言葉に、胸の奥でかつての記憶が疼いた。

 夜通し働かされ、倒れた仲間を「自己責任だ」と笑った上司の顔。

 あの世界も、この世界も同じなのか。


「わかりました。王都に行きます」


 そう答えると、リシアが力強く頷いた。

「私も一緒に」



 馬車に揺られ、王都へ向かう道は長かった。

 途中の村々で、過労に倒れた兵士や冒険者の話を耳にする。

 “定時を守る冒険者”の噂は既に広まり、村人たちは僕を見て安堵の表情を浮かべた。


「本当に来てくれたんですね……」

「王都を、どうか救ってください」


 その声を聞くたびに、背負うものが重くなる。



 数日後、城門を抜けて見た王都は壮麗だった。

 高い城壁、整備された街路、広がる市場。

 しかしそこに立つ兵士たちの目は、濁っていた。

 瞳の下には隈、姿勢は崩れ、今にも倒れそうな者もいる。


 ギルドよりもさらに巨大な建物――王城の謁見の間に通されると、そこには王と、その隣に冷たい目をした宰相がいた。


「お前が“定時帰り”か」

 宰相の声は嘲笑に満ちていた。

「八時間しか働けぬ怠け者が、王都の危機を救えるとでも?」


 王は厳しい表情を浮かべながらも、口を開いた。

「だが宰相よ、兵士たちの疲弊は明らかだ。休むことが力になるのならば、試す価値はある」


 その瞬間、僕は確信した。

 ここは戦いの場だ。剣と魔物ではなく――

 “働き方”を巡る戦いの舞台。


「僕が証明します。休むことが、どれほど人を強くするかを」


 声は、広間に静かに響いた。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ