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第7話「市民が呼ぶホワイト冒険者」

 街の石畳に戻ると、朝の市場はもう活気づいていた。

 野菜や果物を並べる商人たち、魚を捌く料理人、子どもを抱えた母親――みんなが僕とリシアを見つめていた。


「……あの人だ」

「昨日、畑を救った冒険者」

「八時間で帰るっていう、変わった奴だろ?」


 噂はすでに広がっていたらしい。

 畑の老人が僕に向かって声を張り上げた。


「おい兄ちゃん! 昨日の畑、ほんとに助かったよ。今朝は苗が生き生きしてる!」


 拍手が起こり、周囲の人々も頷く。

 その輪の中で、リシアが小さく微笑んだ。


「ほら、あなたを笑う人ばかりじゃない」


 胸の奥が少しだけ軽くなった。



 ギルドに戻ると、黒鎧の冒険者たちが先に帰ってきていた。

 彼らは仲間の怪我を引きずりながら報告に来たらしい。

 だが受付嬢は眉をひそめ、冷ややかに言った。


「規約違反で依頼を横取り? 報告も遅れているし、処罰対象よ」


「ふざけるな! 俺たちは本物の冒険者だ、あんな八時間坊主に負けるなんて――」


「でも、実際に依頼を果たしたのは佐藤蓮さんとリシアさんよ」


 受付嬢の声ははっきりしていた。

 黒鎧の連中は顔を真っ赤にして黙り込み、ホールはざわついた。


「八時間で帰る冒険者が依頼を成功させた……?」

「無理を押し付けて倒れるより、よっぽどいいじゃないか」


 市民と若い冒険者たちが口々に言う。

 視線の中には、憧れのような光すら混じっていた。



 夕方、鐘が鳴る。

 僕はリシアと肩を並べ、街の門を出た。

 そのとき、背後から声が飛んだ。


「ホワイト冒険者!」


 振り返ると、子どもたちが笑顔で手を振っていた。

 昨日まで「定時坊主」と嘲られていた言葉が、少しだけ誇らしい響きに変わる。


「……ホワイト冒険者、か」


 リシアがくすりと笑った。

「悪くない呼び名ですね」


 僕は頷いた。

 働きすぎを当然とする街で、定時を守ることが“正しい”と認められ始めている。

 まだ小さな火種だ。だが、この火を絶やさなければ――。


「俺たちは、ここからだ」


 夕焼けの風が、心地よく吹き抜けた。


(つづく)

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