第5話「ブラックギルドとの衝突」
森の入り口は、朝露に濡れた草木が光っていた。
依頼内容は《森の狼》の討伐。普段は小さな群れで動くが、最近は飢えのせいか人里に近づいてきているという。
僕とリシアは武具を整え、深呼吸して森へ足を踏み入れた。
「狼は素早いです。回復魔法の準備はしていますが……気をつけてください」
「ありがとう。定時までに片付けよう」
リシアは小さく笑った。
その一言が合図のように、二人で並んで進む。
*
森の奥から、低い唸り声。
灰色の毛並みの狼が三匹、茂みから現れる。鋭い牙を剥き、今にも飛びかかろうとしていた。
「来ます!」
リシアの声と同時に、先頭の一匹が突進する。
僕は棒を構え、横から叩きつけた。衝撃で狼がよろめき、地面に転がる。
残り二匹が左右から襲いかかる。だがリシアが詠唱を終え、聖なる光が狼たちの足元に走った。
「《聖縛》!」
光の鎖が絡みつき、動きを封じる。僕はその隙に踏み込み、棒を振り下ろした。
狼は呻き声を上げ、森の奥へ逃げていった。
「やった……!」
リシアが胸に手を当てて安堵の息を吐く。
僕も息を整えながら笑った。
「無理はしない。これなら定時までに終われる」
しかし、そこで背後から別の声が飛んだ。
「へえ、やるじゃねえか。だが――それ以上に稼げるか?」
振り返ると、黒い鎧を着た男たちが五人。昨日、僕を追放した冒険者たちだ。
その顔には、嘲笑と軽蔑が浮かんでいた。
「ギルドの依頼を勝手に奪ってんじゃねえぞ、定時坊主」
「お前みたいな無能が受けていい仕事じゃねえんだよ」
彼らは僕たちの前に立ちふさがり、木札を突き出した。
同じ依頼――《森の狼》退治。
「それ……ダブルブッキングですか?」
リシアが不安げに呟く。
男たちはニヤリと笑った。
「依頼は俺たちが先に取った。お前らが受けたのは手違いだ。だから報酬は全部俺たちのもんだ」
僕は受付の顔を思い出す。彼女は確かに僕たちに依頼を渡した。
つまりこれは、ブラックギルドの連中による“押し付け”だ。
彼らは強引に依頼を奪い、弱い冒険者を潰してきたに違いない。
「仕事を横取りするなんて、間違ってます!」
リシアが勇気を振り絞って言い返す。だが男たちは笑い声を上げた。
「甘ちゃんだな。冒険者は弱肉強食だ。休んで強くなる? 笑わせんな!」
胸の奥で、何かが静かに燃えた。
彼らはかつての上司と同じだ。弱者を踏み台にし、無茶を押し付けて、自分だけ得をする。
「……なら、やってみせます」
僕は棒を構えた。
男たちは一瞬目を丸くしてから、にやつきを深める。
「ほう、定時坊主がケンカ売るか。いいぜ――その八時間で、俺たちを止められるか試してみろ!」
森の静寂を破って、戦いの幕が開いた。
(つづく)