第11話「過労魔王との決戦」
宰相の真の正体は、人間ではなかった。
彼はこの世界をブラックに染め上げる存在――【過労魔王】。
人々を休ませず、疲弊させ、魂を搾り取ることで力を増していたのだ。
「休むことは罪! 怠惰は人を腐らせる!」
魔王の咆哮に、兵士たちの心が縛られる。
だが僕は、リシアと並んで声を張った。
「休むからこそ、次に進める!」
「癒やしこそ、神が与えた力!」
兵士たちは一人、また一人と武器を取り直す。
“休んでこそ強くなれる”という真実が、彼らの胸に灯った。
鐘が鳴る。
定時。
僕の体は静止し――次の瞬間、光が爆ぜた。
全身に駆け巡る覚醒の力。
棒を振るうと、過労魔王の黒い魔力を切り裂いた。
「この一撃は……みんなの“休息”の力だ!」
轟音とともに魔王は砕け散り、暗雲は晴れた。
*
第12話「ホワイト革命」
戦いのあと、王都は変わった。
兵士たちは交代制を導入し、休暇日を設けるようになった。
ギルドも規約を改め、冒険者が“定時”で帰ることを推奨するようになった。
「ホワイト冒険者」の呼び名は、やがて憧れの言葉になった。
街の子どもたちは笑顔でこう言う。
「将来は、定時で帰れる冒険者になりたい!」
僕は苦笑しながらも、胸の奥で温かさを感じた。
*
エピローグ「定時の鐘が鳴る世界で」
草原に立ち、風を受ける。
リシアが隣で微笑む。
「ねえ、これからどうしますか?」
「そうだな。依頼は続ける。でも、無理はしない」
僕は夕焼けに染まる空を見上げた。
かつての世界では叶わなかった願い。
この世界では、それを守ることができる。
――定時に帰り、休んで、また笑って生きる。
鐘が鳴る。
その音は、僕にとって新しい一日の始まりを告げていた。
(完)