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蒼の記憶と黒いカラス  作者: 紫のやつ
第二章 精霊の泪
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第9話「冒険者ギルド」

 オレはクレシアン、寝不足だ。

 昨日は一睡も出来なかった。

 クマさん住んじゃってる、なんて変な表現で目の下の隈をアルマに笑われ、基礎体力が足りないとアメリスには怒られ、なぜか夜の鍛錬を増やす話になった。

 そんな中、「おはようございます」と挨拶を返してくれたのはティエラだけだった。

 無表情だけど。


「では、四人の冒険者登録とパーティ登録ですね」

「……ぁぁ」


 ギルドの受付まで来たはいいが、ボソボソと喋るオレに、受付嬢は虫けらを見るような目で見てくる。

 言葉遣いが丁寧な分、余計にその視線が怖かった。

 こんなやつ、すぐに野垂れ死んでしまうだろう、と思っているに違いない。


 後はアメリスに任せよう。

 彼が一番のしっかり者だし、できればこのお姉さんとはもう話したくない。


「準備が出来ましたら、一人ずつこの魔法石にエコルを注いでください」

「はいはーい、じゃああたしから」


 アルマが張り切って魔法石に手をかざすと、それは淡く光り出した。


 おぉ、エコル識別用の魔法石。

 この目で見るのは初めてだ。


 アルマが終わると次にアメリス、そしてオレの番になった。


 さて、どんな感覚なんだろう。

 早速試してみよう。


 こ、これは、なんというかまるでエコルを吸い取られているような感覚だ。

 うっ、少し酔いそう。

 あんまり楽しいイベントじゃないな、これは。


「終わったから最後ティエラ来ていいぜ」


 オレは少しふらつきながらティエラに声をかける。

 寝不足だからってだけかもしれないけど、酔う可能性があるなら先に言ってくれ。


「受付さん、私は測定なしでお願いします」

「承知しました。その場合エコルによる本人確認ができませんので、従来の指紋採取を毎度行っていただくことになりますが、よろしいですか?」

「はい、お願いします」


 ええ、今どきこれやらない人いるんだ。

 不便じゃないか?

 まあ、本人がいいならそれでもいいんだけど、毎回指紋採ることになるなんて、手が汚れるし面倒でオレは無理。

 とういか、ほとんどの人がそう思ってそうだけど。


「確認が完了したので、冒険者登録及びパーティ登録はこれで終了です。こちらが四人分の身分証で、ランクはF、一番下にパーティ情報が記載されています。パーティ名はアズリアメイン通り支部09264になっていますが、これは一時的なものなのでみなさんで話し合って決めてください」


 お疲れ様でした、と受付嬢はまくし立てるように説明しては、冷たい視線でこちらを見ている。

 接客業だし、もっとこう、ニコニコした優しい人を想像していたのに、これじゃあ新人なんてみんな萎縮してしまうに決まっている。


 仕事は速いし丁寧なんだけど、だんだん客であるこっちが責められているような気分になってくる。

 なんだかギルドにいる他の冒険者にも見られている気がするし、なんでこんなに圧をかけてくるんだ。


「色んな依頼があるね。集団失踪事件の調査とか、凶悪なドラゴンの討伐とか…。あ、教会が出してるやつもあるよ。どれも報酬がすっごいね」

「ちょっと、その掲示板の依頼は僕たちにはまだ早いよ。というか、まずはパーティ名を決めるべきじゃないのか?」


 早速、高難易度依頼の吟味を始めるなんて、随分と命知らずだな。

 確かにいつかはやってみたい気もするけど、まずは素材探しとか、小さな魔獣を狩るところからだろう。


 とはいえ、アメリスの言う通りそれより先にやるべきことがオレたちにはある。


「パーティ名か。なんかいいのあるか?」


 オレたちはギルドにある休憩用のテーブルを囲んで話し合うことにした。


「あたしはインパクトのあるやつがいいな。『おっきなおっきなリンゴ』!とかどう?」


 それはちょっと……可愛すぎる、気が?

 男二人からすると荷が重いというか恥ずかしい。


「そう、だな。アメリスは?どうだ?何かいい案とか」


 微妙な反応を返された挙句、ぎこちなくもスルーされてしまったアルマは膨れてしまっている。

 悪いと思いつつも、オレはアメリスに目線をよこす。

 頼む、何かかっこいいやつを挙げてくれ。


「なら『聖教冒険団』は?わかりやすいだろう」

「えぇ、それじゃあ普通過ぎてインパクトなんて何もないよ」

「必要ないだろう。他にも『聖教旅団』とか『聖教修行団』もあるけど、それならどうだ?」


 なんて事だ、彼に聞くべきじゃなかった。

 真面目なりにも胸に秘めたるロマンってものがあるんじゃないのか。

 子どもの時の夢とか、有り得なくても考えてしまう理想とか、みんな一つや二つ持っているものだと思っていたのに。

 いやいや、きっとあるんだろう。

 ただみんなの前では口に出せないだけだ。


「気に入らないならクレシアンとティエラも何か意見を出してくれ」

「私は皆さんの決定に従いますから、クレシアンどうぞ」

「え、オレ?そうだな…」


 そんなこと言って、考えてないだけじゃないのか?

 興味がないなら仕方がないが、一応自分のことなんだから何か考えて欲しいものだ。


「わりぃ。どんなに考えても『みんなで頑張り隊』しか思いつかねぇ。なんか一回頭ん中出てくると、中々消せなくて…」

「わかりました。それでいきましょう」

「待て待て!そうはならねぇだろ!もっかい考えよう」


 オレの出した案が幼稚過ぎたのか、アルマは笑いを堪えきれていなかった。

 アメリスはまだ堪えているのか、少し苦しそうだ。

 いっその事アルマのように大声で笑ってくれればいいのに。


 結局オレもいくつか案を出したけれど、そのどれもが微妙でしっくりくることは無かった。


 オレたちは頭を抱えた。

 このままでは『アズリアメイン通り支部09264』のまま依頼を受けることになってしまう。

 いっそアメリスの案でいくか?

 当たり障りのない名前だしそれもいいだろう。

 正直オレはアルマほどこだわりがある訳でもないから。


「ティエラはほんとに何もないわけ?奇抜じゃなくていいからさ、一個でも提案してくれよ」


 オレは半ば投げやり気味にティエラに話を振った。

 オレたちが何を言っても彼女は頷いていたし、本当に何でもいいのだと思う。

 ただ、オレは彼女の意見も聞いてみたいと思った。


 人の言動にはその人の性格が現れる。

 アルマなら可愛くて明るいし、アメリスは真面目で几帳面。

 でもティエラは自分の考えを一度も話したことがなく、いつも無表情で何を考えているのか少しも伝わってこなかった。

 だから、知りたいと思った。

 仲間として、彼女がどんな人であるのか、少しでも知りたかった。


 ティエラは少し考えているようだ。

 最も、それはオレの予想に過ぎず、彼女は無表情を続けているだけだが、断らないということは考えてくれているのだろう。


 少しもしないうちに、彼女は口を開いた。


「では、『蒼の記憶』」

「それ、かっこいい!」


 オレが返事をするよりも早く、アルマが食いついた。

 確かに悪くないと思う。

 少なくとも、今まで出たどの案よりもいい。


「蒼。なるほど、神秘的な響きだな。つまりオルゴンのことか」


 神秘的、か。

 アメリスの言う通りだと思った。


 記憶っていうのも、秘密を解き明かすようでワクワクする。

 こんなにいい名前を思いつけるなら、最初から言ってほしかった。


 オレたちは満場一致でその名前に決め、受付で情報を変更してもらう。

 名前が決まると、一気に冒険者らしくなった気がする。


 早速オレたちはFランクの掲示板で良さそうな依頼を探し始める。


 お使い、荷物運び、子供のお守り、うーん。


「このセサラニア草の採取ってのはどうだ?十株根付きだって」


 街での依頼もいいけど、できれば外に行きたい、とオレは思った。

 今まで本はたくさん読んできたが、実際の森や洞窟の探索なんてやったことはない。

 今のうちに慣れておきたいという考えもあるし、街の近くなら比較的安全だろうという思いもあった。


 仲間たちも賛成のようだ。

 オレたちは依頼用紙を剥がして受付に行く。

 と、その時、後ろから嘲笑う声が聞こえてきた。


「おいおい見ろよあれ。いい歳して魔女の仮装なんてしてやがる。絵本の読みすぎなんじゃねぇの?」


 振り向くと、そこには恐らくパーティを組んでいるだろう男が六人立っていた。

 彼らのボスらしき人物の言葉に、他のメンバーやギルドにいた冒険者たちも忍び笑っている。

セサラニア草はサラセニアと似た植物です。

つまり食虫植物。

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