『表現の自由』が脅かされています ~漫画・アニメの性暴力への影響の真偽、それはそれとして投票に行け
近年、日本のアニメや漫画作品が急速に世界に広がっていると言われています。中には誇張が含まれている情報もあるかもしれませんが、それでも海外のオリンピック選手がアニメ好きを公言していたり、アニメ・漫画関連の輸出額も右肩上がりである点を考えるのなら、その人気の拡大は明らかでしょう(ドラゴンボールが宗教化していたり、アフリカの黒人がアニメ黒人起源説を唱えていたりといった俄かには信じ難い話もあります。本当なんですかね? 簡単には信じないようにしましょう)。
しかし、「出る杭は打たれる」のことわざ通り、人気が出ればターゲットにもされてしまうもので、国連がアニメや漫画を“労働搾取”であると批判したり、国連女子差別撤廃委員会が「日本のマンガ・アニメ・ゲームは性暴力を助長しており、製造と流通を規制すべき」との勧告を行っていたりします。
“労働搾取”については真摯に受け止め、是正に努めるべきだと思います(ただ、既に以前に比べれば随分とアニメ・漫画業界の労働環境は改善されているにも拘わらず、過去の内容が誇張されて報道されていたりもするようなので、その点は注意が必要ですが)。
――がしかし、“アニメや漫画が性暴力を助長”という指摘については納得がいきません。日本は世界でもトップクラスに治安の良い国です(「性犯罪の定義が違う」という主張もありますが、暗数調査においても同様に日本は性暴力が低いという結果が出ています)。しかも、世界には公然と女性差別を行っているような国もあるのに、そちらは放置です。ですから、恐らくは、「性暴力を助長」という主張は建前に過ぎず、実際は単なるカルチャーショックによる拒絶反応なのではないかと思われます(“日本のコンテンツを潰してやろう”という陰謀論的な想像もできますが)。
そして、その一方でこのような意見もあるのです。
「日本のアニメや漫画には、性暴力を抑える効果がある」
――さて。
そう言えるだけの、エビデンスは果たしてあるのでしょうか?
一部の人は「ある」と主張しています。
『アニメや漫画が普及するに伴って、日本では犯罪が減少している』
そのように述べているのですね。
ですが、これ、実は間違っています。そのようなデータがあったとしても、ただそれだけでは「日本のアニメや漫画には、性暴力を抑える効果がある」という結論出すのは早計に過ぎるのですね。
ここでちょっと統計データの扱い方に関する知識の説明をしましょう。相関関係(特に因果関係)を知りたい場合、統計データは大きく三種類に分類できます。
1.時系列がないか、不明のデータ
2.時系列はあるが、他の要因が排除できていないデータ
3.時系列があり、他の要因が排除できていると見做せるデータ
それぞれ説明していきましょう。
“1.時系列がないか、不明のデータ”
これは時系列が判断できないので、相関関係は判断できません。「小太りの人に長寿が多い」というデータがあったとしても、小太りが原因で長寿になったのか、それとも小太りになれるほど健康だから長寿になったのかは分からないので、相関関係は判断できないのです。
とあるインフルエンサーが、“犯罪者は学歴が低い人が多い”というデータを示し、「だから、低学歴だと犯罪者になり易くなる」と結論出していました。が、間違っています。これも“時系列がないか、不明のデータ”なので、低学歴と犯罪の間の相関関係は判断できません。犯罪グループとの関わりがある所為で、低学歴になってしまった可能性があるので、時系列は判断できないのですね。
“2.時系列はあるが、他の要因が排除できていないデータ”
これについては簡単に分かると思います。有名な事例ですが、「アイスクリームの売上げが増えると、水死者が増える」というデータがあります。が、このデータは他の要因を排除できていないので、因果関係は判断できません。普通に考えれば、交絡因子である“気温上昇”によってアイスクリームの売上げと水遊びをする人が増え、結果として水死者が増えただけで、アイスクリームと水死者の間に因果関係はないと判断するべきです。
“3.時系列があり、他の要因が排除できていると見做せるデータ”
これは明確に因果関係が線で結べるものです。
例えば、“真空中で物を落とす”などの実験が当て嵌まります。空気抵抗がなければ物はスピードを上げて落ちていくので、この場合はシンプルに因果関係が判断できます。
――さて。
多くの社会的現象のデータは、“1.時系列がないか、不明のデータ”か“2.時系列はあるが、他の要因が排除できていないデータ”のどちらかである場合が普通なので、因果関係はもちろん相関関係も簡単には判断ができない場合がとても多いのです(一応断っておくと、“相関関係”は何らかの関係があるという事しか示しておらず、因果関係は原因と結果の関係になっているものを言います。厳密には因果関係は相関関係の一部なのですが)。
ここまで語ればもう分かると思いますが、
『アニメや漫画が普及するに伴って、日本では犯罪が減少している』
というデータは、
“2.時系列はあるが、他の要因が排除できていないデータ”
になります。
よって、因果関係や相関関係は判断ができません。
もしかしたら、全く別の要因が犯罪減少の効果を生んでいるかもしれず、それは否定できないのです。つまり「日本のアニメや漫画には、性暴力を抑える効果がある」が証明できたとは言えません。例えば、日本は非常に温厚な人達で、それが故に「アニメや漫画が悪影響を及ぼさない」のかもしれないのです。
もちろん、「日本のマンガ・アニメ・ゲームは性暴力を助長している」などという事も証明できないのですが。
まぁ、要するに“分からない”という話です。
以上は統計データのあるなしを根拠にした「日本のアニメや漫画」の性暴力への影響の話でした。しかし、演繹的発想での論拠ならば実はいくつかあるのです。
例えば「アニメや漫画から性暴力を学習してしまう」というのが、“悪影響を及ぼす”という主張の論拠になっています。そして、“良い影響を及ぼす”という主張の方にも同じ様に論拠があります。詳しく説明します。
一つは「エロ漫画の類のお陰で、性欲を解消できる」というものです。“性欲を解消できるので性犯罪に走らない”という理屈ですね。慎重に判断する必要があると思いますが、性欲は無理に抑制すると人間に様々な悪影響を及ぼすという点は少なくとも事実でしょう。
ちょっと話はズレますが、欧米などではケモナーと呼ばれる動物同士のポルノ漫画が人気なのだそうです。その原因として、「人間同士のポルノ漫画が否定されるので、比較的許容される動物同士のポルノ漫画が普及した」と述べている人がいました。
これが事実であるのなら、表現を規制しても、“性欲”という内なるマグマを失くす事も封じる事もできず、それは何処かに何らかの形で噴出してしまう…… ように思えてなりません。実際、キリスト教において「聖職者による性加害事件」は相次いでいます(検索すると、未成年者を含めた膨大な被害者がいるという記事がたくさんヒットします)。
次の仮説は、その点を踏まえてもらうとより分かり易いかもしれません。
「性欲をコントロールできるようになる為には、性体験を多く経験する必要があり、日本のアニメや漫画はそれを提供する」
まったく性表現を見た事も聞いた事もなく育った人が、いきなり性体験をすると、それによって心的外傷を負ってしまう場合があるのだそうです。ならば、性表現に触れずに育ってしまった事で、性欲をコントロールできなくなってしまうケースもあると考えるべきではないでしょうか?
キリスト教の聖職者達が、幼い頃から性的なものから遠ざけられて育って来ただろう点は想像に難しくなく、それが故に性欲をコントロールできず、性犯罪に走ってしまう…… そのような筋書きは決して否定できないと思うのです。
もちろん、前述したように他の要因が排除できていない以上、統計データからでは安易に判断はできません。しかし、性表現に寛容な日本社会で性犯罪が少なく、性表現に厳しい社会で性犯罪が多い点を鑑みるのであれば、一考に値する話ではあると僕は判断します。
(因みに、「日本のアニメや漫画といった娯楽が全般的な犯罪抑止の役に立っている」という説もあるみたいです)
前述して来た通り、日本は性に対して寛容な国です。それは世界的にも珍しく、だからこそカルチャーショックにより、拒絶反応が出ているという可能性は否定できません。
では、どうして日本は性に対して寛容なのでしょうか?
その点を考えるに当たって、まずは生物学の知識から説明をしたいと思います。
様々な動物を観ると、性的なアピールをするのはオスの方が多いと分かります。クジャクのオスは派手な羽を生やしてメスにアピールしますし、カエルのオスは鳴き声を発してメスを誘います。その他、カブトムシ、クワガタ、鹿などなど、いずれもオスが性的にアピールする特徴を進化させています。
しかし、何事にも例外はあるもので、メスが積極的に性的アピールをする種も存在するのです。そしてその一つが類人猿(参考文献『サルとジェンダー フランス・ドゥ・ヴァール 紀伊国屋書店 184ページ辺りから』)です。チンパンジーやボノボなどのメスは特に積極的で、多くのオスに性的なアピールをします。そして、まぁ、既に分かっていると思いますが、人間の女性にもこれは当て嵌まるのです。
しかし、これではオスの方は困ってしまいます。何故なら、オスはメスには自分の子供を産んで欲しいと思うのは当然で、だからこそメスを独占しようとしたり、または別のオスの子供を殺してしまったりもするのです。
このようなオスがメスを独占しようとする行動を、“配偶者防衛”と言うのですが、人間にもこれは観られます。
女性を独占したいと思った場合、女性に複数の男性に性的アピールをされては困ります。その為には、特定の男性に対してのみ操を捧げる“貞淑さ”をもって美とする性道徳が望ましい事になります。もちろん、性的アピールをするのは不道徳であるとされますし、だからこそ性表現も抑制されます。
もう分かったかもしれませんが、“性的なものを抑制する文化”とは、男系社会に特徴的なものなのです。もちろん、その反対に女系社会では性的なものに寛容になります。
もちろん、男性優位社会で“性の抑制”はより顕著で、そしてその傾向が強くなっていけばいくほど、女性を物として扱う傾向もより強くなっていき、しかも子供に対する扱いも雑になっていくのだろうと思われます。確りとしたデータがある訳ではありませんが、現代でも「女性に教育を受けさせる事に反対するテロ組織」が、子供を騙して爆弾を持たせ、“人間爆弾”にしてテロ活動を行ったという信じられない事件が起こっています。
心情的には何故このような行為ができるのか理解不能ですが、進化心理学的な観点から考えると理解できない事もありません。
男性が生産する精子は、コストをかけずに大量生産が可能です。ですから、子孫を多く残そうと思ったのなら、「子育てはせず、よりたくさんの女性と性交を行い、子供を多く生ませる」といった方略も有効になるのです(一応断っておくと、有効な方略の一つに過ぎません)。
そして、この男性にとって都合の良い方略を考えた場合、「女性や子供を軽視する」という文化に繋がって来る事になります。
もちろん、これは女性にとっては極めて不都合な方略です。女性にとって卵子は貴重ですし、妊娠も出産もとてもコストがかかります。だからこそ生まれて来た子供も無駄にはできず、“大切に育てる”という行動に繋がって来るのです。
まとめると、男系社会には“性に対して不寛容”で“子育てを軽視する”などといった特性があり、女系社会では“性に対しての寛容さ”や“子供を大切に育てる”という特性がある事になります。
そして、実は日本では他の社会に比べて女系社会が比較的残り続けていた事が知られているのです(証拠は幾つもありますが、代表例を挙げるのなら、日本神話の最高神である天照大神は女神であるとされているのは女系社会の影響であると言われています)。
要するに、日本が性に対して寛容なのは女系社会の影響を強く受けているからではないかと思えるのです。因みに、日本は寺子屋の普及など近代化以前から教育に対して熱心でもありました(もっとも、その一方で“子殺し”の文化が広く見られてもいましたが)。
――そして、
もし仮に、この日本は女系社会の影響が強い社会であるという点が事実であるのなら、犯罪が非常に少ない社会である事は“自己家畜化現象”で説明が可能かもしれないのです。
チンパンジーにとても近い種であるボノボは、女性優位社会である事が知られています(ただし、断っておくと女系社会ではありません)。
だからなのか、性に対して非常に寛容で、あまりにも頻繁に性行為を……、しかも、異性間だけじゃなく同性間でも一人でも行ってしまう為、彼らの映像を流す際には大幅にカットせざるを得ない程らしいです(これはコミュニケーションの手段として性行為を用いているからだとも言われていますが)。
ボノボのメスは温厚なオスを性交の相手に選ぶ傾向が強くあるそうです。これはチンパンジーのオスには狂暴な性格が多く、メスを乱暴に扱うのとは対照的なのですが、この“温厚なオスを選ぶ”という行動は人間社会における動物の家畜化と酷似しています。家畜化においてもできる限り人間に対して従順な個体を選んでかけ合わせていくのですね。そして、その結果起こるのが“家畜化現象”と呼ばれる変異です。家畜化された動物は温厚で従順になるのはもちろん、幼形成熟が起こり、子供の姿のままで大人になるのです。
実はボノボにもこれが観られ、幼形成熟が起こっています。その為、ボノボは「自己家畜化している」と言われています。
さて。
人間も実は「自己家畜化している」と言われているのですが、特に日本人はその傾向が顕著であると言われています。基本的に温厚で従順で外見が幼い。これは家畜化で見られる特性と同じです。
――では、どうして日本人は自己家畜化が進んでいるのでしょうか?
欧米の娯楽作品を観るとマッチョイズムが未だに強い事がよく分かります。マッチョイズムがあまりに強い所為か、男女平等の為に女性をマッチョな男性のように描いてしまう事もしばしばで、“女性的なものの価値”をあまり理解できていない点がよく読み取れます。
それに対し、日本人はマッチョイズムがあまり好きではありません。随分と昔から中性的な外見だったり、可愛い外見のヒーローが活躍する娯楽作品が多くあります。漫画の神様、手塚治虫がマッチョイズムが嫌いだった話は有名でしょう。
日本人女性が結婚相手に選びたがるのは、その為、温厚な優しい男性である場合が多いのではないでしょうか?
そして、もし、他の文化に比べてそういった傾向がより強いのであれば、日本人でより自己家畜化が進んでいると言われている点も説明できるように思うのです。
性犯罪だけじゃなく、日本では様々な犯罪が減少傾向にありますが、これは自己家畜化によってより従順で温厚になっているからなのかもしれません(単に高齢化が進んでいるだけ…… という可能性もありますが)。
もちろんこれは平和で安全な社会を築く上で好ましい変異です(問題点もあるのでしょうが)。
飽くまで可能性の話ですが、この仮説がもし正しいのなら、アニメや漫画を通して“反マッチョイズム”の文化が伝わる事で、人間社会全体に平和で安全な社会が築かれるかもしれません。
現在、世界で漫画やアニメといった日本の文化に対する風当たりが強くなっていると先に説明しました。その中で最も注目するべきなのは“新サイバー犯罪条約”かもしれません。
詳細は検索して調べてもらった方が早いと思いますが、この中の一部では18歳未満のキャラクターが例えフィクションであっても性的に扱われる事を禁止しています。そして、これによりこれまで普通にできていた創作活動ができなくなってしまう可能性があるのです。いえ、それどころかただ単にそういった作品を所持しているだけで犯罪になってしまう可能すらあるのだとか。或いは新サイバー犯罪条約に賛成する国々は自分達の文化の正しさを疑わず、日本の文化が間違っていると頭から信じてしまっているのかもしれません。
が、今まで述べて来たように、何をもって“正しい”とするかは簡単に判断できるものではありません。それは文化相対主義や多文化主義にも反しており、文化の押し付けとも受け取れるものです。
更に言うと、この新サイバー犯罪条約の条文は非常に曖昧なもので為政者側、権力者側が自由に判断できてしまえるという非常に高いリスクがあります。
早い話が、“悪用されてしまうかもしれない”ということです。邪魔な政敵や、ビジネス上のライバルを排除する目的で利用されてしまうかもしれませんし、圧政を敷く可能性だってあります。
中国でBL漫画を制作した女性が逮捕されるという事件が起こりました。本当に中国共産党が社会に悪影響を及ぼすと思ったから逮捕したのか、それとも統治強化の為に逮捕したのかは分かりませんが、少なくとも権力の濫用であるでしょう。この“新サイバー犯罪条約”がそのまま適応されてしまうと日本でもこのような事件が起こってしまうかもしれないのです。
「日本では心配いらない」
と考えている人もいるかもしれませんが、東京都では青少年健全育成条例によって様々な作品が実際に規制を受けています(因みに、BL漫画が多いなんて話も耳にします)。
ネット上を観ると、安易にこの新サイバー犯罪条約に賛成している人もいるようですが、恐らくはそういった人達は規制のリスクを理解していません。つまりはただ単に無知なだけだなのだと思います。まさか圧政下で窮屈で悲惨な生活を送りたいと思っている訳ではないでしょうから。
2025年7月20日に参議院選挙が行われます。どうかこの際の判断基準の一つに「新サイバー犯罪条約に反対しているかどうか」という点も入れてみてください。
その意志が、政治家達を動かす原動力になりますから。
最後に一応、
散々、表現の自由は守るべきで、規制にはリスクが伴う…… と、述べて来ましたが、これからAI技術の進化によって生み出されるだろう、チューリングテストに合格できてしまうレベルでコミュニケーション可能だと錯覚できてしまえるキャラクターに対しては、流石に暴力などにある程度の制限は設けるべきなのじゃないか? とは思います。