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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第2部】守護する獣の街
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巻き込まれ事故は、他でも……

 その後、シェイラが部屋を出ていくまでに、ゆうに十五分ばかりは経過したと思う。



 シェイラが部屋を出ていき、人の気配が近くから完全に消えてしばらく。



 実は、大人が三人くらいは寝られそうな大きいベッドの真ん中に、うつ伏せになって倒れ込んでいた。



 目の前で誰かに泣かれたら、誰だって疲れるに決まっている。



 たが、今はそんな精神的疲労よりも、あの気弱な少女が口にしたセリフが、いつまで経っても消えることなく()(だま)していることが気になる。



「力で失ったもの……か。」



 ぼんやりと呟く。



 そんなこと、考えたこともなかった。



 失ったというより、この世界においては、自分という存在自体が最初からないも同然のはずだった。



 この力も、この命も、本来ならとうの昔に(つい)えていたはずのもの。



 だから、今こうして存在していること自体が奇跡であると認識していて、失ったという方向には考えが及ばなかった。



(俺が、失ったもの……)



 胸の辺りがもやもやとする。



 これ以上考えるのはよした方が無難だろう。

 こんなことを真剣に考えても、きっと自分が(みじ)めになるだけだ。



 なんとか思考を別の方向へ持っていこうと試行錯誤していると、都合のいいことにドアがノックされた。



「実?」



 ドアの方に目を向けると、わずかに開いたドアの隙間から、こちらの様子を(うかが)うように室内を覗き込む拓也の姿があった。



「拓也……どうかしたの? 顔が死んでるよ。」

「失礼な。そんなことねぇよ。」



 軽く受け流す拓也だったが、その顔色は決していいとは言えなかった。



「何かあったんでしょ? そんな顔してるんだから。」

「ああ、まあな……」



 特に隠すつもりもないのか、元々これが用件なのか、拓也は素直に頷いた。



 億劫(おっくう)そうな動作でベッドの端に座った拓也は、困り果てた表情に相応しい重たい溜め息を吐き出す。



(じつ)は、フェンがさ……」

「はあ!? フェン!?」



 その名を聞いた途端、実の眉が不愉快そうに歪む。



「あの大馬鹿野郎は…。今度はなんだっていうんだよ。拓也、突き放した方が身のためってやつだよ。躊躇(ためら)っちゃだめ。」



「おれの話を聞く気、あるか?」



「……ごめん。続けて。」



 少しだけ気まずい空気になったが、拓也は気にせずに再び口を開いてくれた。



「なんか、おれに相談があるって言うんだよな。で、これからフェンの家にってことになって。でも、ほとんど初対面のおれが一人で行くのも違和感あるだろ? そもそも、おれは行くとは一言も言ってないし、それとなく断ろうとしたんだけど、向こうが聞く耳持たずって感じでさ。もうどうしようかと思って……」



 そんなもの、ばっくれればいい。



 そうは思ったものの、それを拓也に押しつけるのもどうか。

 ならば、自分が取る対応は一つ。



「分かった。俺も行くよ。」

「ああ、そうしてくれると助かる……って―――」



 拓也は途中で言葉を飲み込み、目をまんまるにして実を見つめた。



「……え、マジ? 実が?」



 その態度は、拓也がこの回答をほとんど期待していなかったのだと示していた。

 なんだか気が()がれてしまい、実は半目で拓也を見やる。



「何さ?」

「いや…。実って、こんなに協力的だったっけって。」



 戸惑いを隠せないらしい拓也は、物珍しいものを見るかのような視線でこちらを見ている。



「拓也……何気に、言ってることひどいよ? ってか、そんな善意的なもんじゃないから。俺は俺のために、とっととこの件にケリをつけたいの。これ以上面倒事に巻き込まれるのはごめんだよ。今日だって、シェイラに泣きつかれて大変だったのにさぁ……」



「はあっ!?」



 それを聞いた拓也の口角が、ピクリとひきつった。



「それはそれは……実も実で、大変だったんだな。」



「そうなんだよ。まったくあいつら、一体どれだけ他人を巻き込む気なんだか。図々しいってか、他力本願もいいところだよね。」



 実は勢いをつけてベッドから飛び降り、窓の外をちらりと一瞥(いちべつ)する。



 時刻は夕方。

 日は西に傾いていて、街中を夕焼け色に染めている。



「もうすぐ日も落ちるな…。さっさと行こう。」



 どこか不機嫌さを(にじ)ませて部屋を出ていく実の後に、拓也は黙ってついていくしかなかった。



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