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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第2部】守護する獣の街
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実の知り合い


「いって!」



 急に地面に落とされ、尚希は思わず声をあげた。

 その隣で綺麗に着地を決めた実は、尻餅をついたままの尚希を見下ろして―――



「大丈夫ですか?」



 と、(のん)()に訊ねる。



「実! お前、移動はできないんじゃなかったのか!?」



 状況が把握できず、混乱する尚希。



 そんな尚希の言葉に不思議そうに首を傾げた実だったが、ふと何かに思い至ったように手を叩くと、その表情に柔らかな微笑みを浮かべた。



「すみません、説明不足でしたね。あいつは、俺に地球に帰ってほしくないだけですよ。だから、アズバドル内での移動は邪魔されません。」



「は? お前、いつの間にそんなことを検証して……」



「拓也に移動を頼む前に、ちゃちゃっと確認しときました。」



「………」



 あの数秒のどこにそんな時間があったのか。



 信じられない気持ちになった尚希だったが、記憶を取り戻してからの実の能力を考えれば、それも十分になせる(わざ)なのかもしれないと思い直す。



「……まあ、いいや。それにしても、ここどこなんだ?」



 気を取り直して辺りを見回せば、ここがどこかの路地裏であることが分かった。



「ああ、ここはですね―――」





「あんた、今度はそこで何してるのよ?」





 ふいに、実の後ろから声が聞こえてきた。

 実は声の方向を向くと、笑みを少しわざとらしく深める。



「よ、エーリリテ。」



 実の口調には、親しげな響きが含まれていた。

 尚希は実と同じ方向へ目を向ける。



 そこには、数人の護衛を引き連れた一人の女性が立っていた。

 年齢は、尚希と同じくらいといったところだろうか。



 内側に緩やかに丸まった淡い茶髪。

 勝気な茶色い目には自信があふれていて、どこか気高い気品を感じさせる。

 大きく肩を見せた黒いドレスは、女性の細く白い肌をより一層美しく際立たせていた。



 思わず振り返って二度見をする男性が多そうな容姿だ。



 女性―――エーリリテは額に手を当て、盛大な溜め息をついた。



「あのね……あんた、少しは穏やかな用件でこっちに来れないわけ?」

「ごめんって。普段は俺が悪いけど、今日は色々と事情があって……」



 ちらりと、後ろの尚希たちを見る実。



「あら?」



 エーリリテはそこで尚希たちに気付いたらしく、優雅な仕草で小首を傾げた。



「俺の連れ。ちょっと、訳があってこの状況でさ。寝かしてあげたいんだけど、大丈夫?」



「まあ、部屋なら有り余ってるからいいんだけど…。その子、大丈夫なの? 病気とかじゃないわよね?」



 心配そうな表情で拓也を覗き込むエーリリテ。



「それは大丈夫。言ってしまえば、疲れてるだけって表現が近いかな。」

「ならいいんだけど……その言葉、信じるわよ?」



「大丈夫。なんかあったら、俺が対処できるし。」

「ふうん……分かった。」



 実の言葉にエーリリテは一つ頷き、屈めていた腰を上げる。

 それと同時に、実の肩を思い切り掴んだ。



「って!」



 その瞬間、実が痛みをこらえるように顔を歪める。



「じゃあ、あんたが先よ。まーた怪我を増やしたわね? それに、そんな格好でいつまでも立っていられたら、大騒ぎになって迷惑なのよ。ほらっ、いらっしゃい! そこのあなた、ぼーっとしてないでついてきなさい。その子、風邪引くわよ。」



「あ……はい……」



 呆気に取られる尚希には目もくれず、エーリリテは実を引っ掴んだまま、ずんずんと歩き出した。



「いててててっ……一人で歩けるから!」

「自業自得じゃない。」



「……乱暴。」

「なんですって?」



「あいたっ」



 減らず口を叩く実とそれをあしらうエーリリテに、尚希はしばし茫然と立ち尽くす。



 こちら側の世界に、実とあそこまで親しげな人物がいたとは。



 ここは一体どこなのか。

 そして、彼女は一体誰なのか。



 そんなことを考えている間に、次第に小さくなる二人の姿。

 ハッとした尚希は、慌てて二人を追いかけた。



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