言えなかった理由
実に倒されたことで役目を終えた人形たちが、淡い光を伴った塵となって消えていく。
離れた場所に佇む実を見て、拓也と尚希は思わず息を飲んだ。
青白い月のスポットライトに照らされるのは、たくさんの返り血で汚れている姿。
その表情は冷たく、感情を映さない瞳には果てしない虚無が広がっているよう。
人間など、足元にも及ばない。
そう思わせるほどに苛烈な威圧感を醸し出している実。
その姿は、残酷ながらも美しく拓也たちの目に焼きついた。
実はゆっくりと拓也たちの方を向くと、ふと表情を和らげた。
幻想を見ている気分に陥っていた二人は、一瞬反応するのが遅れてしまう。
「……しっかし、派手にやったな。いつもこうなのか?」
なんとか先に立ち直った尚希が問うと、実は静かに頷いた。
「まあ、そうですね。こうも頻繁だとさすがにイライラするんで、最近は戦い方が乱暴になることも多いですけど……」
その言葉に、尚希は複雑そうな表情を浮かべる。
「頻繁に……か。」
「実!!」
その時、尚希の隣から飛び出した拓也が実の肩を掴む。
「お前っ……こんな危ないことをしてんのに、今の今まで隠してたのか!? こんなの、いくらやられないって分かってても危険すぎる!!」
拓也の目には、こちらのことを心配するような色と共に、こちらを非難するような色も含まれている。
尚希も同意見なのか、拓也の言葉については何も異論を唱えてこなかった。
彼らが心配する気持ちも、分からないではない。
だが―――
実はそこで、険しく眉を寄せた。
自分の肩から拓也の手を取り、間近から拓也を睨みつける。
「なら……―――もし俺が何もかも包み隠さずに話したとして、何ができたわけ?」
あくまでも冷静に訊ねると、拓也と尚希が露骨に言葉につまるのが分かった。
口を真一文字に引き結ぶ拓也を無感動に見据え、実は淡々と続けた。
「あれは、魂がないただの人形だよ。だけど、限りなく人間に似せて創られている。血も出るし、骨や内臓だってちゃんとあるんだ。魂はないって、ただの人形だって……そう分かっていたとしても、拓也はあれを倒せたの? 斬れば悲鳴をあげる。殺そうとすれば涙を流す奴もいるし、狂ったように笑う奴もいる。怯えながら武器を持って向かってくる奴だっているんだよ?」
言いながら、声が震えた。
今さらながらに、自分がやったことへの不快感がせり上がってくる。
「人を殺したことのない人にあれを倒せって言って、簡単に倒せるわけないじゃん! 現に、拓也も尚希さんも、顔を青くして立っているのがやっとだったじゃんか。こんなもの、見せたくなかった。だから誰にも言わなかった。言えなかったんだよ! ……まあ、あれの送り主はそんな二人を見たがってたみたいだけどさ。………っ、趣味が悪い…っ」
こちらが叫ぶにつれて、拓也の昂った感情がみるみるうちに冷めていくのが分かる。
こんな顔、誰にもさせたくなかった。
だから、自分の中に秘めることを選んだ。
このことを言えなかった理由なんて、ただそれだけなんだ。
顔面を蒼白にする拓也とどこか苦しそうな実の双方を交互に見やり、尚希は思わず目を伏せた。
敵を倒す実の姿は、傍から見れば人々を無残に殺していく殺人鬼に映ることだろう。
魂はなくとも人間と同じ姿をし、人間と同じ反応をするのだ。
醜悪な外見をした化け物相手とは訳が違う。
殺すことに慣れた者か、人形だからと割り切れるほど心が強い者でないと、あれは倒せないだろうと思う。
実の言うことは正しい。
自分たちを傷つけないようにと、そう思ってこの件を隠し続けてきたことも、今なら納得ができる。
しかし―――他でもない実自身はどう感じているのだろう。
人を殺したことのない者にあれは倒せないと、実はそう断言した。
そんな実は、自分自身のことをどう思っているのだろう。
うつむく実の姿を見ていると、その答えは言われずとも察せられる気がした。
「ごめん……実。」
拓也がぎこちない動きで、ゆっくりと手を下げる。
「別に。こうなることは分かってたよ。」
実は静かにそう言うだけ。
それ以上何も言えなくなってしまった拓也と、ぶっきらぼうに言いながらも気まずそうな実との間に、複雑な沈黙が下りた。




