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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第2部】守護する獣の街
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差し向けられた敵の姿


「―――はい、到着。」



 どこか軽い調子で言い、実は後ろを振り返る。

 そこにあったのは、拓也と尚希の姿だ。



「だから言ったんだ。実なら、絶対に気付くって。」



 尚希が(なか)ば呆れたように拓也を見下ろした。



「だって、堂々とついていったら〝来るだけ邪魔〟とか言って逃げそうだと思ったんだよ。」



 拓也の言葉に、実は笑う。



「あー、そうかもね。でも、俺があそこで声をかけなかったらどうするつもりだったの?」



「突っ込む気満々だった。」



 かなり単純な拓也の返答に、実は数度まばたきをする。

 しばらくして。



「そんなんで、上手くいくと思ったの…?」



 薄く開いた口から、呆気に取られたような声が漏れた。

 その後、実は尚希と同じような半目になってしまう。



 露骨に呆れた物言いになってしまったが、素直な感想だったのだから仕方ない。



 他人の移動魔法に突っ込むなんて、なんて無茶な。



 確かに自分なら大丈夫だと思うけど、下手すりゃ魔法が乱れて、次元の(はざ)()で仲良く迷子になる危険性があるじゃないか。



 拓也ほどの魔法使いなら、当然の常識として分かっているはずなのに。



 そんな自分の気持ちが伝わったのか、拓也がむっとしてこちらを睨んでくる。



 この後の展開をいち早く察知したのだろう。

 尚希が「そんなことより……」と口を開いた。



「ここ……どこだ?」



 尚希の問いかけを聞いて、拓也もぐるりと辺りを見回す。



 自分たちが立っているのは、辺り一面何もないような場所だ。

 民家もなければ、動物や虫の気配だって感じない。



「地理としては、アズバドルの東北方向の果てってところですかね。近くに村や町はないし、ここなら多少暴れても平気だと思って。たまたまここをゲーム会場に指定されてからは、自分からここに来ることにしてるんです。」



 そう答えた実は、ふと目を閉じる。



 次の瞬間、実の全身から膨大な魔力が(ほとばし)った。



 何も身構えていなかった拓也と尚希は、想像を絶するような濃密さを持った実の魔力に、思わず一歩退いてしまう。



 なんという力だろうか。

 桁外れの魔力に、畏怖(いふ)の念さえも感じてしまうほどだ。



「二人とも、覚悟しといた方がいいよ。」



 柔らかく微笑んだ実は、そのすぐ後に表情を険しいものにした。

 すっと細められた瞳から、瞬く間に感情が消えていく。



 遥か前方を見据(みす)え、実は堅い声で言った。



「―――来るよ。」



 実が言うや否や、いくつもの気配が周囲に満ちた。

 拓也と尚希も、緊張に身を強張らせる。



 三人が睨む地平線の向こう。



 ふとそこから、ゆらりと影が覗いた。

 影はどんどん増え、こちらへ近付いてくる。



「ものすごい数だな。あの数を一人で片付けてたのか?」



 目つきを鋭くする尚希に、実は無言で頷く。

 その時、じっと前方を見ていた拓也が、あることに気付いて顔を青くした。



「おい……あれって、人…じゃないのか?」



 こちらへ向かってくるいくつもの影。

 それらは全て、人間の姿をしていたのである。



 男女問わず、子供から老人の姿まで確認できる。



 皆感情が抜け落ちた機械的な顔をしているが、その姿形は誰がどう見ても人間以外の何物でもなかった。



 実は声も険しくさせて語る。



「確かに、外見は人間だよ。だけど、奴らの中に魂はない。奴らはあくまでも、あいつが作った人形でしかないんだ。……ちょっと、精巧に作りすぎてるけど。」



 一歩前に出て、人形の群衆を睨む実。

 それを合図とするように、これまでゆっくりと歩いていた人々が一斉に走り出した。



 ある者は手に剣や鎌などを持っていたり、またある者は魔力を手に集めていたり。



 臨戦態勢はそれぞれだったが、叫び声をあげながら突進してくるその様は、さながら合戦のワンシーンのようだった。



 実はじっと前に視線を固定したまま、右手を水平に素早く()ぎ払った。



 その軌跡を辿るように白い光の線が横に走ったかと思うと、群衆の最前線にいる人々が()飛沫(しぶき)と共に倒れていく。



 それでもなお、後に続いてどんどん敵が湧いて出てくる。



 拓也が顔をひきつらせた。



「血が……」

「言ったでしょ。ちょっと精巧に作りすぎてるって。」



 冷静に言い捨て、実は手に魔力を集め始めた。

 大きく膨らんだ力は実が一言何かを呟くと凝縮し、一振りの剣へと姿を変える。



 剣を構え、実は後ろを一瞥(いちべつ)する。



「戦わないなら、その辺に隠れといて。」



 冷たい声音で告げた実は、一人で敵の大群に向かっていくのだった。



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