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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第1部】日常の崩壊と覚醒
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神にも並ぶほどの力


「サリアム、この者がそうか?」



 レティルと呼ばれた彼は、その身分に見合う優雅な仕草でサリアムに訊ねた。



「はい。」



 サリアムは低く頭を下げて答える。



「そうか。成長したら、ますますエリオスに似たな。」



 レティルは涼やかに笑った。



「レティル様…っ! このような無様な結果となり、申し訳ございません。あなたのご期待に応えられなかったこと、いかようにも処罰を受ける覚悟でございます!」



「まあ待て。」



 早口にまくし立てるサリアムを、レティルは優しげな口調で制した。



「私は、お前を責めるつもりはない。お前には、少々荷が重いと思っていたからな。生きているだけで十分だ。あれの相手は、多分私にしかできまいよ。」



 レティルはそう言うと、実に顔を向けた。

 二人の視線が静かに、しかし剣呑にぶつかる。



「ずっと見ていたが、あのサリアムの獣を一撃で倒すとはさすがだ。私が次の器に選んだだけのことはある。」



「誰が大人しく体をやるって? 生憎(あいにく)、俺はここで育ってないもんでね。あんたへの病的なまでの忠誠心なんか、これっぽっちもないんだけど。」



「神の(めい)に背くのか? その気になれば、お前を(たた)ることもできるぞ。」



「ふーん。……で? それは(おど)しのつもり? そのくらいで、俺が素直に従うと思うなよ? その気なら、今すぐ祟ってみろよ。」



 実は不敵に笑った。

 その笑顔を見たレティルは、満足そうに頬をほころばせる。



「なるほど。ならば、お前の実力をとくと見せてもらおうではないか。」



 次の瞬間、彼の体から強力な力が噴き出した。

 それと同時に、実は笑顔を消す。



 さっきの攻撃は全く見えなかった。

 きっと、サリアムのようにはいくまい。



 全身の神経を研ぎ澄まして、レティルの攻撃を待つ。

 その()(なか)―――



「レティル様!」



 下草を乱暴に掻き分けて、数人の兵士たちがレティルの前に立ち塞がった。



 彼らはレティルを守るように立ちはだかり、こちらに剣を向ける。

 その兵士たちの闘気のせいで、集中して感じ取っていたレティルの力がぼやけた。



 実は舌打ちする。



「―――邪魔。」



 低く言い捨てた実の目が、すっと細められた。





 ―――――――――





「………」



 拓也はしばらく、目の前で何が起こったのか分からなかった。

 梨央とサリアムも、目を見開いて呆けている。



 実とレティルの間で、剣を抜いていたはずの兵士たちが倒れていた。

 彼らはピクリとも動かない。



 一体、何が起こったのか。



 無意識に実へと目をやって、拓也は戦慄(せんりつ)した。



 実は、彼らを一切見ていなかったのだ。

 彼らが突然倒れたことを、不思議ともなんとも思っていない風だった。



(まさか……)



 自分の体から、すっと血が引いていく。



 絶句する拓也の前で、レティルが軽く腕を振るう。

 すると、兵士たちの体が光に包まれ、もう一度彼が腕を振ると同時に消えた。



 レティルは、どこか嬉しそうに微笑む。



「……ふふ。瞬殺とは、随分と容赦がないな。」

「―――っ!!」



 その一言で、自分の予感が的中していたことを知る。



 当然ながら、動揺した自分が口を挟める隙などあるはずもなく、実とレティルの戦いに火蓋が切って落とされてしまった。



 レティルが無言で放った細かい針のようなものが、猛スピードで実たちに迫る。

 実が上空に高く跳躍することで、針は方向を変えてそちらへ。



 こちら目がけて飛んできた一部の針を飛び退()きながら()けた拓也は、針が実に向かう間に立ちすくむ梨央の元へ向かい、その体を抱いて安全圏へ避難した。



 一方の実は、自分に向かって飛んでくる針を()ぎ払うように腕を横に振る。

 すると、実を貫こうとする針の全てが爆発した。



 地面に着地すると同時に、実はまた腕を振る。



 実を標的に放たれていた彼の攻撃と実の攻撃が正面からぶつかり、その場で大爆発を起こした。



 その余波の影響で、周辺に爆風と土煙が巻き起こる。

 土煙が収まったところで、実はにやりと口角を吊り上げた。



「互角…か。」

「………っ」



 拓也とサリアムは愕然(がくぜん)とする。



 相手は、人間の体を借りているとはいえ神だ。

 いくら実の力が他に類を見ないほど強力だからといって、神に並び立てるわけがない。



 それなのに、実はレティルとほぼ互角に張り合っているのだ。



「ほう、面白い。」



 楽しそうに笑うレティルの魔力が、さらに強力さと濃厚さを増す。

 対する実の魔力も、レティルの力に触発されるようにどんどん強くなっていく。



「―――っ!! 実!!」



 拓也は思わず、その後ろ姿に向かって叫んでいた。



 実の魔力は、果てを知らないかのように強くなっていく。

 その力は、すでに人間の限界を超えているように思えた。



 いくら実が〝鍵〟だといっても、人間である以上魔力の限界があるはず。

 魔力を限界まで出し切ってしまったら、それは死に直結する。



「挑発に乗るな! しっかりしろ! 実!!」

「!?」



 必死な拓也の呼びかけに、実がハッと目を見開いた。



 敏捷(びんしょう)だった動きが、ピタリと停止する。

 その隙を、レティルは()(のが)さなかった。



「うぐっ…」



 レティルの手から放たれた鋭い一閃が、サリアムがつけた実の腕の傷をさらに(えぐ)った。

 二の腕から噴き出す激痛に、実は(うめ)き声をあげてうずくまる。



「馬鹿者が。正気を取り戻させてどうする。」



 ()(べつ)を含んだレティルの言葉は、拓也に向けられたもの。

 それを聞きながら、実は唇を噛み締める。



 何か細工をしてあったのか、攻撃を受けた左腕から全身に強い(しび)れが広がって、本来使えるはずの治癒魔法が使えない。



 血がだらだらと流れていき、制服の袖口(そでぐち)までを赤く染める。



 それでも血は流れ続け、手が血だらけになっていき、そこを中心に血だまりができあがっていく。



 急速に全身から熱が抜けて、体の芯が冷えていく。

 そして、それと同時に意識がまた切り替わろうとしていた。



(俺……今、何を……)



 ぼんやりとしてくる頭とまとまらない思考では、いまいち状況を判断できない。



 しかしさっき、自分はとんでもないことをしなかっただろうか?



 顔を青ざめさせる実に、レティルは興醒めしたといわんばかりに肩を落とした。



 掲げられた彼の手に生まれたのは、不気味な黒い球体。

 それは彼の手から弾け、まるでアメーバのように形を変えながら実に襲いかかった。



 全身が(しび)れて動けない実には、それを()けることができない。





 彼の放ったそれは、いとも簡単に実を飲み込んだ。





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